隠し事の話
「おい」
眼鏡の彼を振り切って、俺は校門の前までやってきていた。
目の前にはいつも通り宮野が立っている。俺のことを認めると、宮野は少し恥ずかしそうに俯いた。
「あ……お疲れ様」
「ちょっと聞きたいことがある。付いてきてくれる?」
俺がそう言うと、宮野はキョトンとしたまま動かなくなった。
俺はそのまま宮野を無視して歩いて行く。しかし、宮野は校門の前で立ったままである。
「……ちょっと。何やってんの?」
「え……あ、あはは……ごめんね。その……雅哉君が話しかけてくれたのことが……嬉しくて……」
宮野は嬉しそうに微笑む。本当に嬉しかったようで、宮野の目の端には光るものさえ見える。
しかし……やはり気になった。一体宮野は俺に話しかけられたくらいでそんな嬉しがる? 俺のことを裏切ったくせに。
「……いいから。早く付いてきて」
俺が強めの口調でそう言うと、宮野は我に返ったようで有るき出した。そのまま何も話さずに俺は宮野の前を歩く。
そして、いつも通りに横断歩道の前までやってきた。俺は立ち止まり、振り返る。
宮野は俺が振り返ったのが予想外だったのか、驚いた表情で俺の事を見ていた。
「え……な、何かな?」
「……お前さぁ。どうして校門の前で待っていられるの?」
「え……」
宮野は絶句した。しばらくの沈黙が流れた後、宮野はぎこちない笑みを浮かべる。
「そ……それってどういう意味かな?」
「だから、おかしいだろ。ウチの高校が授業やっている時間に、なんでお前は校門の前に突っ立っているんだよ。お前の高校、午後の授業ないの?」
俺がそう言うと宮野は困り顔で顔を逸らす。そして、しばらく悩んだように眉間に皺を寄せていたが、俺の方に顔を向けた。
「え、えっと……学校、たまに休んじゃうから……その時は早めに雅哉君のことを待っていようかなぁ、って……」
「はぁ? たまに休むって……なんで?」
俺がなおも追求を続けると宮野は黙ってしまった。
よくわからないが……なんとなくだが、宮野が俺に会いに来る理由は、その学校を休むということと関係がある気がした。
「……つまり、暇だから俺に会いに来ているってこと?」
「そ、そういうことじゃないよ! ただ……私が会いに来たいから……会いに来ているだけだから……」
そして、宮野はまたしても寂しそうに俯く。
一体何がしたいんだか……俺には未だに宮野の行動が理解できない。
「まぁ……別になんでもいいや。俺、お前がどうしようが興味ないから」
「う、うん……だよね……」
そういって、宮野はまた微笑む。
その時、なんだか俺の心の底に少しだけ、苛つきが生まれた。
コイツは……何かを隠している。何かを隠して俺に会いに来ている。
何を隠しているかはどうでもいい。
問題なのは……俺のことを裏切ってなお、何かを隠して俺に会いに来ているということだ。
俺はそのまま何も言わずに、信号が青になった横断歩道を歩いて行く。
渡りきった後で、今一度宮野の方を向く。宮野は寂しそうに俺を見ている。
「俺には……関係ない」
誰かに言い聞かすように言った後で、俺は宮野に背を向けたのだった。