わからない話
「……で、なんで謝ってるの?」
「え……な、なんで、って……」
宮野は困った様子で俺のことを見る。俺は思わずニヤニヤするのを抑えることなく、宮野に訊ねる。
「だから、なんで? もう終わったことじゃん。お前と俺、別の高校だし。普通にしてれば会うこともないわけじゃん」
「そ、それは……そうなんだけど……」
胸の前でギュッとシャツを握る宮野。すまなそうにしているのはそうなのだが……宮野自身も本当になんで俺に謝っているのか、その理由をわかっていないんじゃないだろうか?
「じゃあ、いいじゃん。誤る必要ないよ。それに、お前には今の高校で他の友達もいるだろ? だったら、もう俺には構うなよ」
宮野は黙ったままである。否定しないということは、そういうことなのだろう。
俺はそう理解し、宮野に背中を向けようとした。
「待って!」
背後から宮野の声がした。俺はそのままで宮野を見る。
「……何?」
「……許してもらおうなんて思ってないの。ただ……謝りたくて」
宮野はそういって、俺の方を見た。その視線は、力強く、本気でそう言っているようだった。
「へぇ。じゃあ、これで終わりだ。お前は謝った。俺は謝罪を聞いた。それで終わり。ね?」
「……ダメ……ダメなの」
と、宮野はなぜか小さな声でそう言った。ダメ? 何がダメなのか。それで終わりでいいではないか。
俺と宮野の間にはもう何もない。俺は宮野のことが大嫌いだし、宮野だって、俺のことをもう忘れているものだと思っていた。
それなのに、なんでコイツは俺にこんな食い下がるんだ?
「……じゃあ、どうしたいんだよ?」
「……会いに来るだけ。それだけじゃ……ダメ?」
宮野は恥ずかしそうに、不安そうに俺にそう聞いてきた。
会いに来る……俺に? なんで?
理解ができなかった。俺は段々苛ついてくる。
「……え? なにそれ。もしかして……同情してんの?」
「え……同情?」
「うん。あー……あはは。なるほどね。久しぶりにあったイジメられっ子は、相変わらずかわいそうな高校生ライフを送っているんだろうなぁって思って……それで会いに来るってこと?」
「ち、違うよ! そんなんじゃ……ない」
宮野は真剣にそう言っていたが、だったら、なんで俺に会いに来るんだ?
益々理解が出来ない。俺は宮野のことを睨みつける。
「……どうぞ。ご勝手に。だけど、俺はお前のこと友達とも思ってないから。会いに来ようが話もしないし、対応もしない。それでいいでしょ?」
俺がそう言うと、宮野は少し悲しそうな顔をした。
なんなんだ……会いにくれば俺が許してくれるとでも思っているのか? さすがにそれは俺のことを馬鹿にし過ぎじゃないだろうか。
とても不本意だったが、俺はそれ以上話を続けるのをやめた。そのまま背を向けて横断道を渡る。
今度は宮野は呼び止めてこなかった。横断歩道を渡りきった後、俺は振り返る。
宮野は、まだ俺の事を見ていた。見ていた……というより、睨みつけていた。
「……なんなんだ。アイツは」
俺は吐き捨てるようにそう言って、宮野を今一度一瞥してから家への帰路を急いだ。