唐突で脈絡のない話
そして、俺と佐田はファミレスについた。
いつもの場所ではない……適当なファミレスだった。
こんな平日に、こんな時間で……制服の俺たちはかなり浮いた存在だった。
「……何か、食べる?」
佐田が遠慮がちにそう言ってきた。俺はメニューを手に取ると、適当に眺める。
「俺……食べたけど……お前は?」
「え……ああ。私食べてないんだよね……」
申し訳なさそうにそう言う佐田。俺はメニューを佐田に渡す。
佐田は、適当にランチを頼んだ。俺も……デザートのアイスを頼む。
二人共無言で食事した。なんだか気まずい……いや、実際気まずいのだが。
そして、食べ終わった後で、俺と佐田は暫く無言のままだった。
「……えっと……変なこと聞いていい?」
と、佐田は急にそんなことを言ってきた。とても遠慮がちに。
「ああ……なんだ?」
「……その……岸谷はさ。好きな女の子とかいるの?」
急な変な質問で俺は思わず吹き出しそうになった。俺はただ、佐田のことを見る。
「……なんで?」
「え……いや、いるのかなぁ、って……」
佐田は全く答えになっていない返答をする。俺は意味もわからず佐田を見る。
「……いたら、どうなんだ?」
俺がそう言うと佐田は少し困り顔で俺を見る。
「いや、いたら……別に」
「……じゃあ、いなかったら?」
俺がそう言うと佐田は少し緊張した面持ちで俺を見る。それから、少し戸惑いながらも先を続ける。
「……安心、する」
髪の先をいじりながら、佐田はそう言った。安心……意味がわからなかった。
「……いないけど」
俺はただ、そう言った。佐田は少し驚いたようだったが、しばらくして優しく微笑んだ。
「……そっか。安心した」
「なんだそりゃ……意味わからん」
俺がそう言うと佐田はコップに入った水を見ながら、先を続ける。
「……もしさ。私がアンタと付き合いたいっていったらどうする?」
……あまりにも唐突だった。そして、脈絡がなかった。俺はただ、呆然として佐田を見る。
「……どうするって……どうするって……」
今度は俺が意味の分からない言葉を言った。佐田は少し悲しそうな顔をする。
「もちろん……断ってくれるよね?」
「……え?」
佐田はそういって、切なげな表情を見せる。
最初から、俺にそういうことを決めていたかのように。
「だってさ……おかしいでしょ? 私はアンタに散々酷いことしてきたのよ? そんなやつと付き合うっておかしいでしょ?」
「それは……」
「おかしいでしょ?」
俺の返答を挟まないようにするかのごとくそう言った。まるで佐田は俺にそう言ってほしいかのように。
俺は……
「……そう……だよな」
弱々しくそう言った。それから、佐田を見る。佐田は少し驚いたような顔をしていたが……小さく頷いた。
「……あはは。だよね……良かった……」
良かった、と小さくそう言って、佐田は頷いた。
佐田はそれから立ち上がる。財布から千円札を取り出した。
「……じゃあ、これで」
「え……お前、ちょっと……」
俺が引き留めようとすると、佐田は俺のことを睨みつける。
「……何? アンタ、今言ったでしょ、私と付き合うなんて、おかしいって」
「いや、それは……」
「それは……何?」
佐田は鋭い目つきで俺を見る。俺が何も言わないのを確認すると、佐田はまるで俺をあざ笑うかのように俺に微笑んだ。
「……やっぱりさ、岸谷は……岸谷だったよ。安心した」
そういって、佐田は俺を置いて行ってしまった。残された俺は勝手に考える。
俺は……間違った選択はしていないよな、と。