限界の話
そして、俺と佐田は病院から帰ることにした。
よく考えれば、俺も佐田も制服姿だった。結局、学校を抜け出してきてしまったわけで。
「……どうするの? 今日」
佐田が少し遠慮がちにそう言った。
「どうするって……学校に戻るだろ」
俺がそう言うと佐田は少し悲しそうな顔をする。顔を見れば、学校に戻りたくないというのはわかる。
だけど……
「……俺は、帰るから」
俺はそう言ってしまった。先程の病室でのこと……宮野は俺のせいで飛び降りたと言った、違う……宮野の本当の目的は……
俺がそう言って帰ろうとすると、何かが俺を後ろから引っ張った。
俺は振り返る。見ると、佐田が俺の服の裾を掴んでいた。
「……待って」
消え入りそうな小さな声で、佐田はそう言った。きっと佐田が今感じている感情は恐ろしいほどに歪んだものだろう。
自分の親友が飛び降りた……自分だって、川に飛び込もうとしていたが。
「……なんだ?」
俺はそれでも、佐田に優しくできなかった。言ってあげるべきなのだ。そばにいる、と。
でも、それは……佐田を完全に許すことだ。いや、それはきっと、俺にはできることのはずなのだが……
そう考えると、宮野のあのニヤリとした邪悪な笑顔が頭に浮かぶ。
「えっと……少し……ファミレスとかで休んでいこうよ、ね?」
佐田は取り繕うようにそう言った。ここで断ってしまったら、佐田は……
「……わかった。少しだけな」
自分でもわかっている。少しだけなんでことはない。これに付き合ったら学校になんて戻らない。
佐田は安心したようだった。しかし、なんだろう……宮野が飛び降りたせいだけじゃない……何かとても深刻そうな顔で……
「じゃあ……行こっか」
それでも佐田は笑顔で俺を見た。そのつらそうな笑顔は見ているだけで悲しい気分になったが、同時に俺は心の何処かで……清々しい気分を感じてしまっていたのだった。