不安定な話
「あ……岸谷」
病室から出てくると、佐田が不安そうな顔で俺に近づいてきた。
「あ……ああ。佐田。待たせたな」
「え、いや……えっと……知弦は?」
「ああ……まぁ、大丈夫って話だった。また、見舞いに来てほしいって」
俺がそう言うと、佐田は少し安心した顔で俺を見る。
「そう……良かった」
そう言って、やっと落着いたのか、佐田は脱力したように近くの椅子に座り込んだ。
「……大丈夫か?」
俺がそう言うと、佐田は俯いたままで小さく頷く。
「……私、馬鹿だった」
悲しそうな声で佐田はそう言う。
「え……何が?」
「だって……知弦が大変なことになっているのに……あんな……川に飛び込もうとして……ホントは、飛び込む勇気もないのに……」
そういって、懇願するような目つきで佐田は俺のことを見てくる。
「……岸谷さ……知弦の御見舞……また来てくれる?」
「え……あ、ああ。それは……いいけど……」
「……よかった。私だけじゃ……知弦に合わせる顔がないから……」
そういって、宮野はまた俯いた。その肩は小刻みに震えている。
宮野の言うとおりだ。宮野だけじゃない。
俺が……俺も佐田を壊している。
でも、心の何処かでそのことに対して、なぜ俺が罪悪感を感じなければいけないのか……そんなことを考えている。
「……岸谷」
と、俺がそんなことを考えていると、佐田が消え入りそうな声で俺を見る。
「……なんだ?」
「私さ……これから……どうすればいいのかな」
俺にも決してわからないようなことを佐田は言ってきた。
無論、俺は何も言うことも出来ず、ただ、悲しそうに小さくなっている佐田の事を見ることしかできなかったのだった。