理解が追いつかない話
俺は走っていた。
なんで走っているのか、どこに走っているのか……分かってはいるが、自分がどういう状況にいるのかがよくわかっていない。
一体何が起きたのか……そこのところがよくわかっていなかった。
しかし、とりあえず走らなければならなかった。なぜって……それは呼ばれたからである。
俺は駅近くにある病院にたどり着いた。そして、そのままロビーに向かっていく。
「あ……岸谷」
と、俺の背後から弱々しい声が聞こえてきた。俺は振り返る。
「……佐田」
そこには、悲しげな顔で立っている佐田の姿があった。
俺は少し落ち着くことにした。
「……電話で言ったこと、本当なんだよな?」
俺は分かってはいたが、確認した。佐田は悲しげに小さく頷いた。
「さっきまで、知弦のお母さんがいて……でも、命に別状はないって。お母さんも安心してた。なんか、ベランダから落ちちゃったらしいんだけど……」
そう聞いて俺は思わずホッとしてしまった。飛び降りた……その言葉だけだと、一体どの程度の高さから飛び降りたのかわからなかったからである。
「……なんで、知弦が……」
まるで「それをやるのは自分の方だった」と言いたげな感じで佐田はそう言った。
俺にはなんとなくわかっている。これは……宮野の宣戦布告だ。
そして、それは……俺に対して向けられている。
お前の行動が、私を追い詰めたんだぞ、と宮野はそう言いたいのだ。
そして、俺はそれくらいのことは分かっていた。
しかし……
「……とにかく、宮野の部屋に行くぞ。お前もまだ会ってないんだよな? 案内してくれ」
俺はそう言うと、佐田は小さく頷いた。
俺は少し躊躇ったが……とにかく行かなければならないという気持ちで、宮野のいるであろう部屋に向かったのだった。




