不快な話
結局、俺と佐田は薄暗い夜道を、そのままあてもなく歩いていた。
先を行く俺の後を、佐田が付いてくる……佐田は何も喋る気はないようである。
俺は……考えていた。自分のしたことを。
俺は……宮野の頬を叩いた。宮野は俺のことを「最低」と言った。
最低……か。
俺はそのまま立ち止まった。そして、佐田の方に振り返る。
「え……何?」
佐田は不思議そうな顔で俺を見ている。
「……俺って、最低かな?」
俺がそう言うと佐田はキョトンとした顔をする。それから、少し経ってから、自嘲気味な顔で俺を見る。
「それ……私に聞くの?」
佐田は意味がわからないという顔で俺を見る。俺は真面目だった。
「ああ。教えてくれよ。俺は、最低なのか?」
俺がそう言うと佐田は悲しそうな顔をする。それから、佐田は少し迷ったような顔をしてから先を続ける。
「……私さ、イジメられてんだよね」
自嘲気味に笑いながら、佐田はそう言った。
俺は……驚かなかった。なんとなく、理解できていたし、予想はついていた。だからこそ、驚かなかった。
「……そうか」
「ハハッ……嘘じゃないよ。ホント。ねぇ、岸谷……嬉しい?」
無理矢理作った笑顔で佐田はそう言う。俺は何も答えなかった。
「……いい気味だって思うでしょ? 自業自得だって……そう思うよね?」
俺はそれでも答えなかった。そして、何も言わなかった。
「……何か言ってよ」
佐田はそう言って、項垂れてしまった。俺は……ただ、その佐田を見ていた。
「……別に。感じないよ。何も」
俺がそう言うと、佐田は顔を上げる。そして、少し安心したように笑った。
「……そっか。じゃあ……大丈夫だよ。アンタは、別に最低じゃない。少なくとも、私にとってはね。逆に聞くけど……私はどう? この状況でアンタにこの話をした私って……最低だよね?」
佐田は確かめるようにそう言う。俺は少し迷って黙ったままだったが……しばらくしてからやはり、言うことにした。
「……最低だよ。お前は」
俺がそう言うと佐田は、少し悲しそうな顔をした後で……うっすらと笑った。
「……だよね」
それだけ言って、佐田はまた、黙ってしまった。俺は、言ってしまった。
きっと今、俺が佐田に言った言葉は……俺にとって、気持ちのよいものだったのだろう。
だけど、その時の俺は……全く何も感じなかった。むしろ、不快ささえ感じさせる……そんな気持ちなのだった。




