破壊する話
「じゃあ……今日はホントにありがとうね」
最寄り駅まで帰ってくると佐田は俺にそう言った。
「あ、ああ……いや、別にお礼なんて言われる筋合いないが……」
「……ううん。付き合ってくれただけでも嬉しいよ」
心底嬉しそうに佐田は俺にそう言った。その表情は嘘をついているようには見えない……佐田の本心のようだった。
「じゃあ……またね」
小さく手を振って佐田は俺を見送る……俺はそのまま佐田に背を向けて去っていく。
ふと……俺は背後を振り返る。佐田はまだ手を振っていた。
なんだか恥ずかしくなって小さく頭を下げた後で俺は早足でその場を退散する。
……なんだろう。この気持ち。俺は……今嬉しいような気がする。
佐田は……もう俺の知っている佐田じゃないんだ。
だったら、俺はもっと佐田に対して心を開いてあげるべき……なんだろうか。
「……でも、俺には……」
そんなことを考えていた矢先だった。携帯の着信音が鳴り響く。
俺は携帯の画面を見る。
「……え?」
俺は思わず驚いてしまった。画面に移っていた電話の相手は……宮野だった。
なんでこんな時間に……それとともに先程佐田が言っていたことが思い出される。
俺は無言のままに電話の応答をすることにした。
「……はい?」
「あ! 雅哉君! 元気~?」
嬉しそうな声でそういう宮野。俺は何も言わない。
「……何の用だ?」
「え~? つれない態度だなぁ……あ! もしかして、汐美ちゃんとの楽しいデートの余韻を邪魔されて怒っているのかな~?」
……やはり、だった。
宮野は俺と佐田が……一緒にいた事を知っているようだった。
「お前……一体何がしたいんだ?」
「何って……言ったでしょ? 感じたいんだ。私って悪い子としているなぁ、っていう罪悪感をさ」
「……それなのにお前は……佐田の相談に乗ったんだろ? 一体どういうつもりだ?」
俺がそう言うと宮野は暫く黙っていた。しかし、フフッと小さな笑い声が聞こえてきた。
「え? わからないの? 簡単でしょ。汐美ちゃんはこれで……完全に雅哉君のことを信用したんだよ?」
「はぁ? どういうことだ?」
「だって、そうじゃない。あんなにも酷いいじめをしていた自分に、雅哉君は付き合ってくれた……今とてもつらい状況にいる汐美ちゃんにとって雅哉君は私以外に唯一、信用出来る人間になったんだよ」
嬉しそうにそういう宮野。俺は……少し恐怖を感じた。
宮野が言っていたことを総合すれば……宮野は佐田を壊したいと言っていた。そうなると、宮野がやろうとしていることは……
「お前……まさか……」
「フフッ……あ~。そろそろ楽しいデートが終わったことを、汐美ちゃんが私にお知らせに来る時間かなぁ~? でも、可哀想にね。汐美ちゃんはこれから知ることになるんだから……雅哉君は汐美ちゃんのことを騙していたってことを」
「……は!? お、お前……一体佐田に何を言おうとして――」
俺が返事をする前に、宮野は電話を切った。
……ヤバイ。確実にヤバイ。
俺は直感的にそう確信した。宮野は……マジで佐田を壊そうとしている。
俺は慌てて佐田に電話をする。こうなっては……先に佐田に宮野の正体を教えるべきだ。
しかし……
「……出ない」
佐田は電話に出なかった。今からでは佐田の帰り道に追いつくことも出来ないだろう。
そうなると……
「……クソッ。宮野め……!」
俺は怒りながらも走って宮野の家に向かったのだった。




