君に見せたかった話
俺と佐田はそのまま植物園の中の休憩所でソフトクリームを食べることにした。
というか……既に寒くなっているのにソフトクリームって、選択としては間違いだった気がするが……
「……ちょっと冷たいね」
佐田も同感だったらしい。というか、言い出したのは佐田なのだが。
「で……これでいいのか? お前の気は済んだか?」
俺がそう言うと佐田はキョトンとした顔で俺を見ている。
「……ううん。もう少しだけ付き合って」
俺が少し嫌そうな顔をしても佐田は嬉しそうに微笑んでいる。まぁ、俺が嫌がることをしたのだから、むしろ、俺が嫌がれば嫌がる程いいのか……
「……ああ、わかったよ」
そういって了承しちゃう俺も、俺なのだと思うが……
そうして、俺と佐田はアイスを食べ終わると、そのまま公園の奥の方に進んでいった。
小高い丘に向かっているようで、目の前には石造りの階段が見える。
「おいおい……どこまで歩くんだよ……」
なんだかわからないが、俺と佐田は少し高い所に登っていっているようだった。佐田は俺の方に振り返って笑っている。
「大丈夫。もうすぐ着くから」
そんな言葉は信用できなかったが……まぁ、付いて行くだけ付いていくしか無い。
俺は文句も言わずに佐田の後をついて行った。
そして、それから暫く経つと……俺と佐田は丘の頂上についた。
「……ふぅ。着いた」
佐田はそう言って大きくため息をつく。
見ると……目の前には広大な光景が広がっていた。
無論、小高い程度の丘なので地平線の向こうまで見える、とかそういうことはないのだが……美しい光景だった。
見ると、既にオレンジ色の夕焼けが町の向こうに沈みかかっている。
「綺麗でしょ?」
佐田はオレンジ色の光を見つめながら俺にそう言う。
「あ……ああ」
「これを……アンタに見せたかったんだ」
「え……?」
俺がそう言うと佐田はこちらを向いていた。茶色い髪の毛が、オレンジ色の光を受けて黄金色に輝いている。
「……辛い時、1人になりたい時……よく来るんだ。私の他には誰も来ないからね」
そういって佐田は今一度オレンジ色の光を見る。その表情を見れば……佐田が辛い思いをしているのは理解できる。
「別に……助けてほしいとかそういうのじゃないんだ。ただ……少しだけ、側にいてほしいの」
「え……それは……俺でいいの?」
俺がそう言うと佐田は真剣な目で俺を見る。既に夕日は沈みかかっていた。
「……アンタじゃないと嫌……かな? アンタはどうなの? むしろ……私はアンタにこそ、私を拒否する権利があると思うけど」
佐田はそう言って俺のことを見ている。ここで……俺がもし拒否するとどうなるのだろうか?
佐田は俺が拒否することを……考えているのだろうか。きっと考えていないわけがない。
だとすれば……
「……わかった」
「え……? いいの?」
俺の予想したとおり、むしろ、佐田は驚きの表情で俺を見ていた。
そうだ。きっと佐田は断られると思っていたのだ。
だからこそ、俺が断らなかったことを……意外に思っているのだろう。
「ああ。俺は別に構わない」
「……本気で言っているわけ?」
信じられないという顔で佐田は俺を見る。俺は小さく頷いた。
すると佐田は安心したように大きくため息を付いた。
「……よかった。やっぱり……知弦の言うとおりだった」
「……え?」
と、いきなり宮野の名前が出てきたことで俺は驚いてしまった。
「フフッ……実はさ、知弦にも相談してたんだ。そのアンタが……私を拒否しなかどうか、って。そしたら、知弦は『そんなこと絶対ない』って……それでも私は信じられなかったから……」
「あ、ああ……そうなのか」
俺は……完全に嫌な予感を感じていた。佐田の今日の行動……この裏にいたのは……宮野。
「……それでも、良かったよ。アンタを誘って」
ただ、嫌な予感も佐田の嬉しそうな笑顔を見ると、なんとなく薄れていった。
そうだ……違うんだ。もう佐田と俺の関係は昔のようなものじゃない。
俺はそう自分にそう言い聞かせてもう一度佐田と綺麗なオレンジ色の夕日を見ていたのだった。




