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悪童召還のススメ  作者: 直線T
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 (感傷に浸っている時間はない。おそらくまだ近くに刺客がいる。目的は達した、だからこちらに引き返すということはないはず。だってこれは見せしめなんだから・・)

 「おい、こいつ」

 河西は立ち上がった。そして辺りを見回す。「ここから北の方角に暗殺者がいる、通ったルートを逆算すればここに行き着く。人数は二人、まだ人気の無い場所を歩いている。一人は身長180cm、もう一人は150cmのデコボココンビって覚えて」

 「この人を殺した相手であれば僕達に危害を与える可能性は低いのでは?人殺しは許せない行為だ、でも不用意な行動はすぐに見つかると、河西さんが言ったはずだ」

 河西はブラスの死体を見た。笑顔まで彼そっくりで自然と拳に力が入る。しかしそれをゆっくりと開き、佐竹を見た。

 「今はね、でも二人は魔族関係者、放って置けば私達の邪魔になるかもしれない。今はまだ人気の無い路地を歩いてる、あなたの足で追えば間に合う。だから今すぐ!」

 佐竹はまた握られた拳と死体を見た。一度うなづくとすばやく北の方角に走って向かった。

 河西は一度も死体と目を合わせようとしなかった。あの日の出来事が視界を奪っていつまでも前を塞ぐからだ。とぼとぼと歩き、道の端に腰を下ろした。音がした時、そしてそれをエコーで探知した時に状況は大方予想がついていた。彼から人が離れたその瞬間を狙ったのだろうと、ゆっくりと現場に向かったのはこれから、死体になるであろう者と顔を合わせるのが怖かったからだ。十分に時間を取って覚悟は出来ているつもりでいた。そして彼が息を引き取るその間際まで確かに奥底に仕舞えていたそれが今、じわりじわりと自身の心を蝕んでいた。

 妙な静寂に魁導はむずがゆくなって立ち上がった。「こいつを埋めてくる」魁導は死体を肩に背負った。

 「お願い」河西は魁導を見ずに答えた。「・・・あなたには関係ないでしょ!いいから消えて!」

 「関係ないなんて言うなよ」魁導は悲しそうに河西を見た。

 「・・あなたに言ったんじゃない」

 「知ってるさ。でもバレッタだって俺達の仲間だ。話したこともねぇから確証は無いけどよ、お前と話す姿は見てる。よく知ってる、悪い奴じゃねぇ」

 「放っておいて・・」

 「放っておけねぇさ」魁導は距離を詰めないでいた。「お前の背後のそれが陰りを生むなら、俺は善に成れねぇからな。お前は俺になっちゃいけない、俺が俺で在れるのはお前がお前だからなんだからよ」魁導は壁を飛び越えて森へと向かった。

 二人の姿を佐竹は陰から見つめていた。足元には気絶して倒れた二人の姿がある。このまま隠れているわけにもいかず、佐竹は二人を引きずりながら月明かりの下へと現れた。

 「僕は・・僕は河西のことを良く知らなかった」河西は佐竹を見た。「でもここへ来て、少ないけど会話もした。だから、分かったように言いたくはないけど・・君はこういう人になりたいんじゃない」

 なんだか肩の荷が下りたというよりはしりもちをついて荷を落としてしまったという気分になった。まさかずっと自分が気を使えないと思っていた二人から心配の言葉を貰うなんて重いもしていなかった。

 (こういう人になりたいんじゃない・・か)

 「はぁ~~」河西は大きなため息をついた。佐竹は少しビクっとした。「おい、うるさいよ」佐竹の膝下を蹴った。

 「いてっ、すいません」佐竹は河西を見て笑った。

 「フンっ」河西も照れ笑いをした。


 魁導は少し開けたところに穴を掘った。そしてその中にブラスを入れた。

 (えーっと、名前はなんだ)

 ブラスの服を漁る。そこにはこの世界に来たばかりの時に見た本と同じ文字で書かれた論文が入っていた。文字が読めないので魁導には内容は一切分からなかったが、その内容は河西が彼から聞いていた話について、それが少し詳しく書かれていたものだった。ところどころに絵がある。魔族と思しき者と人と思しき者の絵、その下には二人の細胞らしきものの絵が描かれていた。確かに形は異なっていた。しかしそれは変化によって生まれた違いで、根本的な違いは感じられなかった。

 (なんだこりゃ、さっぱりだ・・・まぁこっちの世界と同じと考えりゃ、これが名前か)

 魁導は大きな岩を持ってきた。そしてそこに恐る恐るブラスの名前を刻む。間違える。

 (間抜け)

 「あっ!う、うるせぇ!」魁導は岩を投げ捨て、もう一度新しい岩でやり直した。

 (馬鹿正直な野郎だ、誰とも知れん奴に)

 「誰だとかどんな奴とかは関係ないんだよ。上手くは言えねぇけどさ、こういうのはちゃんとやらないといけないんだ」

 (ストライズもか?)

 「ああ、あの時は頭に血が上ってたから部下に任そうとしちまったけどよ。見つけたらしっかり埋葬してやらんとな」魁導は論文をもとの場所に戻し、そしてそのままブラスを埋めた。岩をきちんと置く。「運が無かったな。次はしっかりやれよ」魁導は手を合わせた。

 

 二人のもとへ戻ると、暗殺者二人が気絶したまま縛られていた。「どんな感じだ?」

 「どうやら雇われみたい。ボロ布でぱっと見分からなかったけど中はただの人だった。これをのぞいてね」河西が一人の首の後ろを見せる。そこには何かの紋章に見える焼印がされていた。ドラゴンの顔のように見える。

 佐竹が同様にもう一人の首の後ろを見せる。やはり同じ焼印がされている。

 「これは?」

 「想像の域を出ないけど、恐らく奴隷もしくはそれに近しい者の証だろうね。まぁ河西さんの言ったように雇われって可能性もある。悪魔の契約ってあるだろう?魔族との契約が同じくらい重たいものであるとするなら相応の対価と引き換えにこの焼印が押されたって考えも不思議じゃない。衣服もあまり良いものとは言えない、金のために魔族と契りを交わした人たちなのかもね」

 魁導はぼけーっと話を聞いていた。「あー、つまり?」

 「つまり?」佐竹は首をかしげた。

 「そいつらは放っておいても平気ってことか?」

 「姿を見られる前に気絶させた。現段階ではレジスタンスなのか僕達の仕業なのかは判別つかない状況だと思う。何より手を出す必要のない相手だからね。だから、念のために縛ってはおくけど殺す必要はないと思う」

 「そうか、なら帰ろう。夜明けとともにここを出る。それまで休憩の時間を作りたいしな」

 「うん!」

 佐竹は元気よく返事して二人ボロ家へと向かった。しかし河西は腑に落ちないといった感じがした。心の中に不安が残る。彼らは魔族の手下だ、きっと場所がばれる!そう伝えた時に魁導はどうしていただろう?敵となれば魔族であろうと人であろうと手にかけなければならない日は来る。あの佐竹だって人を殺した。生きるために。しかし魁導は?この疑問は佐竹と同様に考えて良いものではないように感じた。たとえどういう過程であろうと結果は同じだ。そう考えを落とし込み、河西は二人を追いかけた。


魔王の城。その作戦室でカレットは地図とにらめっこをしていた。唸る彼を見る一人の男がいた。ワイングラスをくゆらせ、香りを楽しむ。

 「赤のワインは良い。心血を注ぐという言葉が形を得たような、そういう色をしている。そう思うと一層香りも味わい深くなる。ああ、素晴らしい」

 カレットは居心地が悪そうに彼を見た。「シェイド、ワインの話はもう十分だ。用がないのなら席を外してくれ」ため息をついた。

 「用?ああ用か。そうだな、話に夢中ですっかり忘れていたよカレット。今日からストライズに代わって私が君と共に作戦を指揮することになったのだよ」

 早く言えとカレットは呆れたが、シェイドのマイペースを思い出すとそれは諦めに変わっていた。カレットは地図をシェイドが見やすい角度に調節した。それに気づかずいつまでもワインにご執心なシェイドにカレッドは咳払いをした。

 「うん?どうしたねカレット」

 カレットは目を丸くした。

 (ストライズ、お主の無駄口はやっかいだったが今思うと幾分かこれよりマシだったわい)

 「今の反乱者の状況は知ってい..」カレットはシェイドの顔を見て察した。「んん、あー、奴らは城を降りて森の中へ逃げ込んだ。その際、小村の村人たちと接触。その後、巡回中の兵と遭遇、これを撃退。異常を察した部隊長により増援が贈られ、これもまた撃退。その増援の一人の証言によると北を目指すと奴らは言い残したらしい。これを受けスードとベイションが北へ向かった。しかし未だ発見の知らせはない」

 シェイドはそれでもワインをくゆらせていた。「聞いていたのか-」

 「ジートは?あそこはレジスタンス一掃の件で空き家も多いだろう、身を潜めるには最高の場所だ」

 「言葉通りに受け取るのであれば、奴らはジートには行かない。注意をひきつけるためだろう。レジスタンスが何かしらの兵器、もしくはそれに相当する何かを持っているという情報もある。であるなら彼らレジスタンスの仲間であるとして、ひきつけるためには本当の行き先を伝えねばらない」

 シェイドは地図を見た。地図上には緑の石が城下の森に、そしてそこから北にある国にも置かれている。そしていくつかの国に赤の石が置かれている。ジートにも置いてある。おそらくレジスタンスを表すものだろう。

 一言も発さないシェイドにカレットは諦めた。

 (これだから貴族の出は困る)

 「ジートの残党狩りは非戦闘員だったはず、報告は?」

 「ああ、昨晩直後に通信があった。標的は殺したと」

 「現時刻には帰ってきて不思議ではない時間だ。彼らはどうしてまだ帰らない?」

 「女を漁っているんだろう。よくあることだ」

 「通信装置は決して安いものではない。仕事が終わればすぐに回収するようにと君はいつも口やかましく言って聞かせているじゃないかカレット?何か臭うね」まるで表情一つ変えることなくシェイドは言った。

 王直属の配下である彼らは王の目に留まることを最も望む。それは結果的に仲間を出し抜こうとも、より功績を挙げることが何より優先される。それが普通だ。しかしシェイドは気づいたときににやつくわけでもなく、そして真意を隠すわけでも無く言い切った。何か臭うと。ともに仕事をしてカレットは彼の異常性に驚いた。そして同時に信頼をした。

 「部隊のいくつかをジート周辺に送り込むといい」シェイドはワインを口にした。「うん、人々の血と汗の味だ。素晴らしい」

 「シェイド、空きの部隊を村や国繋がる北、南、西に配置するとしよう」

 「ああ、それで結構。良い仕事だ」シェイドは作戦室を出た。「さぁ、我が裁定の時間だ」

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