表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪童召還のススメ  作者: 直線T
3/6

3

 その翌日、王室で会議が行われた。ただいつものように王の前で頭をたれているだけだったが、皆が同胞の死を惜しんでいるからのように見えた。そして王もまたその一人だった。全員が集められそろっているにもかかわらず、王はしばらく口を開かなかった。

 「ディクスロート、報告を」

 「はっ、私はストライズの合図の後、門前で逃げる民の殲滅に当たっていました。ストライズが何発か撃ったのを不審に思ったのですが、敵の姿を確認できず。それからすぐに地面に何かが落ちる音がしたので確認に向かいました。そこにはストライズの死体が」

 「ふむ、なるほど。しかし死体は無かった。その説明を」

 魁導は王の言葉に驚いた。たしかに死体を確認した。「死体が消えた?たしかに死体の処理については部下に任せました。ですがたしかに死体を確認しました」

 「君は確かに頭に二発の銃創とつぶれた右腕を確認したんだね?それが間違いなければ彼は死んでいる。だとすれば誰かが死体を持ち去ったことになる」

 (死体を持ち去る?助けようとはしたが住民は一人も門外に出てはいない、となると他にも勢力が?)

 「許せねぇ」ストライズと通信で話していた声の主だ。「あいつはクソ野郎だが同志だった」

 「口を慎めベイション、私が命ずるまで口を開くな・・だがその通りだ。彼は私の優秀な部下の一人であり、志を同じくする君達の仲間だった。私も穏やかではないよ」王は立ち上がり、魁導の前に立った。「ディクスロート、君の証言に偽りはないんだね?」

 魁導は顔を上げ、王の目をまっすぐに見た。「嘘偽りはありません。王、盟友の仇、必ず討ち取ることを誓います!」

 ディクスロートの部屋。佐竹と村長と魁導が集まっていた。

 「君がストライズをやったって?」

 「にわかに信じがたい。奴はワシらの目の届かぬ場所からその圧倒的な火力で苦しめてきた。そうやすやすと殺せる男ではない」

 「不意打ちだ。それに相性もあった」

 佐竹は魁導の胸倉をつかんだ。「問題はそこじゃない!」

 「落ち着くんじゃ。急にどうした?」

 「君は勇者が召還されるまでやり過ごすとそういったじゃないか!どうして危険を冒してまでストライズとの戦いを選んだんだ!」

 「あいつのやり方が気に入らなかった。殺せる機会があったから殺した。それだけだ。奴は悪だ、殺して当然だろう?」

 魁導は物怖じせず佐竹を見た。

 「僕は・・僕は殺したぞ。罪の無い人を殺した・・・僕は悪か!君の言葉を信じて、自分を押し殺して人を殺した僕は悪か!?」

 「まだ勘違いしてるのか?」魁導は佐竹の胸倉を掴む腕を払った。「俺はクズだ、他の不良より少し話しが通じる程度のクズだ。お前が俺の話を真に受けた?知らねぇよ、てめぇが信じる善とやらこの世界にはねぇ。善か悪かなんて価値観は現実にはねぇんだ」

 佐竹は言い返す言葉も無く部屋を出て行った。

 「魔王配下の一人を倒したお主は正しいよ。現にばれていない。言葉を言葉通りにしか受け取ることの出来ない奴はまだまだ若造じゃ。しかし、その若造が主の背中で泣いているのに見てみぬふりを続けるのなら、ワシは軽蔑するよ」

 「俺はあんな奴に会ったこと無いんだ。まるで正義のヒーローみたいな、現実にいやしねぇと思ってた。はじめは笑っちまうくらい興奮したけどよ、あいつが背中に立って俺を慕うような目で見てくるとさ、怖くなっちゃうんだわ。突き放したくなる・・」

 村長はふわふわとその場で魁導を見ていた。その後ドアを貫通し、佐竹の後を追った。

 佐竹は爆薬庫の中で体育座りをしていた。いい歳なので泣くことはなかったが、虚空を見ながら呆けていた。コツンコツンと足音が聞こえた。しかし佐竹の耳には聞こえていなかった。

 「ドア、半分開いてた。キャラにないことしてんなよ」

 わき腹に蹴りを食らった。

 「うぐっ・・あなたもしかして?」

 ため息をつきながらめんどくさそうにあたりを見た。ドアを閉めた後佐竹の隣に座った。魔王の前でしか会ったこともなく、話したこともないがおそらくバレッタだ。女王様という風貌で部下の間でも評判が良い。

 「何かあったわけ?」

 「僕は鬼無くんを勘違いしていたみたいなんです。初めて会ったときはまるで漫画のヒーローみたいで・・こうしてこの世界で再開出来て本当にうれしかったんです。心細そさが無くなりました」

 バレッタは佐竹の頭をポンポンと叩いた。「あいつはクズだよ、今はね」

 「今は?」

 「昔は確かにヒーローだった。小さい頃ってのはさ、誰しも善悪が主体になってる。あいつが正義のために振るう拳はいじめからみんなを守ってた。でもさ、中学にでもなればこの世は善でも悪でもない、まさに人間って奴らばっかりになる。あいつが誰かを守るために振るった拳は自分を苦しめるだけのものになった。あいつがやめようと思っても周りがそうはさせない、喧嘩を買う日々の中であいつは確かに腐っていった」

 「バレッタさん、鬼無くんの友達なんですか?」

 「私は河西」河西は立ち上がった。「あいつを救えるんだとしたら間違いなくあんただよ。オタク君」河西は扉を開けてどこかへ行ってしまった。

 「僕が・・救う?」

 河西は自室のドアを閉めたあと、ドアにもたれかかった。

(もう救われてるのかもね・・)

 魁導はソファで昔の日々を思い出していた。まるでガキ大将のように立ちはだかっては暴力に苦しむ誰かを救ってきた。悪が誰かを苦しませ、救いを求める声がして、それが彼を善とした。

 「光が俺を善とする!」大好きな特撮ヒーローの言葉だった。なんだかヒーローの飽和状態で普通でないヒーローが流行った。ただそれだけの理由だったが、己を光とせずに民を光とする、光に照らされるからこそ、自身が光であれるのだという思想を彼は持っていた。アブラーマン、彼の容姿と名前だけはどうしても気に入らなかったが、当時それでもずっと見ていた。

 「光を見た!」少年は同世代の少年を囲む中学生達の前に立ちはだって叫んだ。「罪深き俺を照らす光、光が俺を善とする!」少年は変身ポーズを決めた。禊の油も、自身を燃やす炎も現実には存在しない。

 「罪深き男には慣れたけどよ・・俺は善になれるのか」そう呟いた後、脳裏に浮かんだのは昨日の光景だった。土手で不良に囲まれ、膝を着くも決して倒れることの無かった佐竹の姿。

 「僕は悪に屈しない!」

 (これからどうする・・)

 「戦う!そうだね?」

 また佐竹の声がした。魁導は頭をかいた。苛立ちとは違う感情、モヤモヤともいいがたい。それは心臓をジリジリと焦がす静かな炎だった。

 これは贖罪なのか?身を焦がす炎に胸を抑えた。

 「僕が協力者だ!」決めポーズの佐竹が脳裏に焼きついた。なんだかおかしくなって魁導は笑った。この世界にきて初めて笑った。

 胸を焦がす小さな火は業火となり、心臓を火球に変えた。魁導は立ち上がり、王室へと歩いた。扉を開けると王が王座に腰を下ろしていた。空を見ていた王はゆっくりとこちらを見た。その瞳には疑念も悪意も感じられなかった。魁導は王の前へと早足で近づき、無礼承知でガンをつけた。

 「王!」

 「ディクスロートどうし-」

 魁導は拳を握り締めた。拳に灯った炎はディクスロートのものではなく、間違いなく魁導の炎だった。大振りになることも無く、確かな軌道で最大限の威力を持った拳は王のあごに打ち込まれ、王の体を容易く吹き飛ばした。

 「狙いは私の命か」王はなんでもないように立ち上がった。

 「いいや、俺はこれから逃げる」

 「クックック」王は初めて感情を見せた。その目はたしかに笑っている。「それはなぜだ?」

 「俺は正義の味方なんかじゃない、ただの悪童だからだ!」魁導は不敵に笑った。

 物音を聞きつけた配下たちが集合した。王を囲む六人の配下と魁導と佐竹が見合った。戦力差は圧倒的。それでも魁導は佐竹の前に立ち、仁王立ちで王をにらんだ。

 「ディクスロート!クライド!貴様ら・・・裏切ったのか!」ベイションはうろたえていた。

 ベイションは王の命を待たず、魁導に殴りかかった。魁導はその手を掴み、地面にねじ伏せた。一発後頭部に拳をぶつけ、ベイションを気絶させた。

 「俺達に裏表はない。こいつがいる限り」魁導は佐竹を親指で指した。「俺は善となる」

 「魁導・・」

 その時、王室の壁に穴が開いた。そこには河西が立っていた。魁導はまるで少年のように笑った。心臓から昇ってくるものを抑えきれなくなり、不意に笑った。魁導は佐竹を肩に乗せると、その穴に向かって歩いた。それが彼らへの宣戦布告だった。

 「逃がすか!」

 一人が光弾を放つ。魁導は手のひらを前に出し、体を硬質化し弾く。外に出ると美しい景色が広がっていた。昨日は夜間の戦闘で、かつワープゲートを通ったがために城の外として見ることはなかった。城は高さ七十メートルはあろうという巨大な岩の塔の上にあった。その下には広大な森林と、奥には町も見える。

 「ちょっと!私が抑えてるんだから早くしてよ!」河西は空中に漂う小さな機械から銃を出し、制圧射撃をしていた。火力の高さに攻められないでいる。しかしそれも数秒しか時間は稼げない。それしか出来ないとしれば敵は警戒を解き、攻め入る。

 「聞けよこのヤンキーがっ!」河西は魁導の背中を蹴って岩から落とした。その後自分も降りた。

 「いやあああああああああああああ」

 魁導と佐竹はわめいた。魁導は地面に向き直り、佐竹を蹴って加速した。

 「うげっ」

 硬質化と同時に地面に着地した。そしてすぐさまジャンプし、佐竹を抱えた後岸壁を掴んだ。がりがりと岩肌を削りながらしばらく地面に向かって降下した。地面の少し手前で勢いは収まり、そのまま佐竹を地面に投げた。

 「いてて・・・」地面へと座り、佐竹は魁導を見た。「鬼無くん、どうして急に?」

 「そりゃあ・・なんていうか・・正義のヒーローになりたかったというか・・」

 「鬼無くん」佐竹はまっすぐな目で魁導を見た。「ヒーローなんて漫画の世界にしかいないよ?ププっ」

 「なんでてめぇはそういうとこだけ現実主義なんだよっ」魁導は河西の前に立った。「河西もそろったことだし、行きますか」

 「・・なんであたしのこと」

 「のぞき趣味は男の特権ってね」魁導は二人を見た。「俺は決めたんだよ。お前達を守る。もう動じたりしねぇ、お前達の存在が俺を正義のヒーローにしてくれるからよ!」

 「なにそれ?」佐竹はポカーンとした。

 河西は昔を思い出してクスクスと笑った。魁導も佐竹もつられて笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ