這い出した店員(ツイッターお題小説)
くにさきたすくさんが考えたショートショートメーカーのお題に基づくお話です。お題は「『這い出した店員』というタイトル(テーマ)のショートショートを「考えオチ(意味を考えさせる)」で書きましょう。プラス「雨」の要素も入るかな?」です。
もう暮れだというのに外は雨が降っている。結局今年はクリスマスも雪が降らず、今一盛り上がりに欠けた。
「甘いものは食べ飽きたから、ピザでも頼もうか」
ベッドから這い出した亮輔が言った。いくら私しかいないといっても、全裸で布団から出ないで欲しい。目のやり場に困る。
「梨都子もそれでいい?」
すでに亮輔は携帯でピザ屋を検索しながら言う。異を唱える事ができない雰囲気だ。
「いいよ」
私はベッドの脇に脱ぎ捨てた下着を取りながら応じた。
「お、ここが一番早そうだな」
亮輔は注文先を決め、通話を開始していた。
「もしもし、ピザ頼みたいんだけど、どれくらいで届く?」
店員が答えている声がかすかに聞こえる。亮輔はニヤリとし、
「じゃあ、ミックスピザのLを一つ。配達が遅れたら、代金は半額でいいんだよね?」
通話を終え、ベッドに戻ってくる。
「ちょっと、もうやめてよ!」
私は亮輔の手を跳ね除けた。その時、ベッドの足元にあるテレビの画面に長い黒髪で顔を覆った女性が映った。
「え?」
私はギクッとして亮輔にしがみついた。
「どうした?」
亮輔がまた身体を触ってきたので、私は勝手に点いたテレビを指差した。
「は?」
間抜けな顔でそちらを見た亮輔だったが、異変に気づいたようだ。画面に映った女性はピザの箱を抱えており、その漆黒の髪を画面から突き出し始めていた。
「ひいい!」
私達は同時に悲鳴を上げ、ベッドから飛び出した。女性は更に画面からヌウッと頭を出し、上半身も出してきた。私達は恐怖のあまり、泣き出していた。
「お待たせ致しました、ドレミピザです。千八百円になります」
その女性は髪を掻き分けて陽気な笑顔で告げた。今度は私達はポカンと口を開いたまま、笑顔の店員を見つめた。亮輔は言われるままに財布から千円札を二枚出した。
「二百円のお返しです」
店員はニコッとして百円玉を亮輔に渡すと、
「毎度ありがとうございました」
そう言って、テレビ画面に入り込んで行き、テレビは勝手に消えた。私達は顔を見合わせ、次いでピザが入っていると思われる箱を見た。亮輔が恐る恐る開くと、湯気が立ち上り、美味しそうなミックスピザが現れた。
「……」
黙ったままでまた顔を見合わせてしまう。このピザ、食べて大丈夫なのだろうか?
ちょっと失敗しました。