細胞
暗幕を張った部屋の中で、桂一郎はうっとりとそれを眺めた。
ぼんやりとした明りの下、現像液に浸された被写体がゆっくりと写し出されてゆく。
そこには伸びやかな少年の足が——。
「——ああ……やっぱりこの角度が一番いいな」
そう言ってうっとりと溜め息を尽くと、桂一郎はそれをピンセットでつまみ上げ、まだ乾き切らない未完成な画をじっくりと眺めた。
幼かった少年の身体に、筋肉の筋が現れ始める瞬間。
脂肪のない無垢な身体を守る様に、うっすらと、筋張った陰影が浮かび上がり始める年齢。
細胞の一つ一つが生命力に満ち、活性し、分裂を繰り返す。
毎日新しくされてゆく粘膜や肌が、まるで柔らかな新芽の様に眩しく映る——。
「……悠君……君は最高だな……」
桂一郎は興奮した声を押さえながら、その写真を部屋に張られたワイヤーに洗濯鋏で吊るすと
、再び現像液の中にある写真をつまみ上げ、じっくりと眺めては干す作業を繰り返した。
やがて暗室の中は、桂一郎の撮ったお気に入りの写真で一杯になった。
「——ああ……乾き切らないうちに触れられないのが残念だ」
触れるか、触れないかまで唇を寄せ、愛しそうに眺める——仄暗い中に浮かび上がるそれは、全て同一人物だった。
(少しだけ……その艶やかな肌に触れてもいいかい)
そう妄想の中で問いかけた桂一郎に、少年は黒目がちな切れ長の瞳を向け、冷たく言い放つのだ。
(汚い手で触るな)
(——じ、じゃぁ……髪の匂いを嗅ぐだけでもいい……)
整髪料の擦り込まれていない、まっさらな黒髪。
それは美容師に計算されて創られたものではない、自然な流れで、風の中を自由に散るのだ。
桂一郎は妄想の中でそっとその髪に触れた。
思った通り、太陽の下で自然乾燥した髪が、指の間をさらさらと滑り、外気の埃っぽい匂いがした。
その匂いを想像しただけで、下半身に血が一気に集まるのを感じる。
桂一郎は迷う事なく、ジーンズのボタンを外し、ジッパーを下げた。
下着から頭を覗かせる程固く、膨張したそれは、自身が少し触れただけで敏感に反応した。
(——ああ……っ悠君……っ)
擦りあげる度に腰が引け、桂一郎は思わず部屋の隅にある椅子に座り込んだ。
(直に君に触れられるはずがない……想像するだけなら許してくれるだろう……?)
その言葉に、冷めた目で見下ろす悠が口汚く桂一郎を罵る。
——そんな妄想が、いつも桂一郎の中に激しい快感を呼んだ。
ぞくぞくとした、背筋を走る何度目かの快感の後、桂一郎は低く呻くと、白濁の体液を床に散らせた。