密室
窓から差し込む真夏の光が身体を焼く。
部屋に充満する腐敗臭に、吐き気が込み上げる。
滝の様に流れる汗が、意識を奪ってゆく——。
何故——あの男は来ないのか。
あの扉が閉ざされてから、もう二日が経ったはずだ。
いつもの様に餌を与えに現れるのではないのか。
鎖に繋いだまま、水を与え、食べ物を与え、欲望を吐き付けに——。
「……悠……」
隆弘は朦朧とした意識の中、すぐ横で倒れている悠に声を掛けた。
「……悠、悠、——返事しろよ……っ」
隆弘は床に這いつくばったまま、悠の乾いた唇にそっと触れた。
指先に微かな呼級が触れる。
——だが返事はなかった。
閉め切られた部屋には鍵がかかり、繋がれた足枷はどんなに引っ張ってもドアまでは届かない。
手の届く場所には何もない。
それはあの男が、絶対的に自分が必要だと知らしめる為に創った空間———。
あの男が現れなければ、死ぬ様に計算された部屋。
太陽が照りつける閉ざされた密室は、信じられない程に熱くなり、そこに本当に酸素があるのかさえ疑う程、二人の呼級を奪っていく。
(——逃げなければ。この足を切り離してでも——外へ)
(……そうしなければ悠が死んでしまう)
隆弘は身体を引きずりながら恨めしく扉を見た。
ああもし自分に超能力でもあれば——そんな事を思ったその時、ふいにその扉が小さく開いた。