DQN特権を許さない市民の会
「え~、毎度お騒がせしております。我々はDQN特権を許さない市民の会。通称、D特会の者でございます」
「日本を悪くしているのはね、こうやって渋谷でチャラチャラしている、アンタらなんだよ。パチンコはやる。出来ちゃった婚はやる。モバゲーで日本のゲーム文化を殺す。いったい何考えてんだ!!!」
5~6人の男達の甲高い奇声が渋谷の町をこだまする。彼ら『DQN特権を許さない市民の会』通称D特会は、イマドキな若者にルサンチマンの限りをぶつける可哀想な市民グループだ。元々は『在日特権をゆるさない国民会議』、略して在国会のメンバーであったのだが、在国会が内ゲバで解散した後に、「日本を悪化させる、ドンキホーテ、パチンコ、モバゲーなどのような『ファスト文化』を撲滅し、その担い手の中心である10代~20代の若者達を更生させる」という理念の下、元在国会メンバーらによって結成された。
そして、何故渋谷なのかといえば、秋葉原がオタクの聖地であるのと対をなすように、それらファスト文化の聖地であると彼らが勝手に決め付けたからだ。しかし、秋葉原にドンキホーテはあるが、渋谷には無い。
「え~、できちゃったら中絶すればいいなどというように、昨今の若者のモラルは著しく低下しております。このような輩がファスト文化で、この偉大なる大日本を弱体化させるのであります」
「しかし!こういう若者をね、賞賛して利権化することによってマスコミは利益を得ているんですよ。そして、そのマスコミを中心に群がる、大手広告代理店、ファスト文化系企業、それにパチンコ屋!こういう、カスどもが我々を騙して金をむしり取ろうとする。そして、それを知らずに搾取されてるアンタらも悪いんだよ!」
D特会の会長と思われる、体重100kg前後はありそうな七三分けの男が怒鳴り散らす。しかし、その内容は支離滅裂すぎてよく分からない。
「パチンコ、モバゲー、ドンキホーテを、日本から、たぁ~たきだせえ~!」「たぁ~たきだせえ~!!」
「我々はDQN特権を許さないぞ~!」「ゆぅるさないぞ~!!」
一体、なんのシュプレヒコールなのかわけが分からない。すると、通りがかりの大学生っぽいカップルが、「何アレ?キモ~い」と彼らの前では言ってはいけないセリフを口にした。
「なんだとこの野郎!?」D特会のメンバーが一斉にカップルに詰め寄る。
「てめえ、やったのか、やってねえのか?え?」
「やる際にはちゃんとコンドーム付けてんのか!?」
カップルは、慌ててその場から離れる。
「ああいうね、何も考えてない連中が日本をダメにしていくんですよ。こんな所でチャラチャラしてるんだったら、被災地にでも行ってこい!」と、偉そうな事を吠えているが、彼ら自身は一銭も寄付していないし、ボランティアにも行っていない。
すると、『暴力反対!差別反対!』というプラカードを掲げた30代前後のメガネ男が、「お前等!!差別はやめろ~!」とD特会に向って煽った。
「なんだぁ?てめぇは!?」D特会メンバーがメガネ男を囲む。
「こんな差別するぐらいなら、みんなでカバディーでもやろうよ」
「うるせぇ!売国奴」と一斉にメガネ男に殴りかかる。
「死ね死ね、この野郎」
「シナ人は日本から出て行け!」
「成りすまし鮮人を死刑にしろ!」
「殺せー!殺せー!」
いい歳した中年の男達の怒号が飛び交い、日の丸を片手に無抵抗なメガネ男を殴りつけ蹴りつけ叩きつける。その、醜くおぞましい光景を通行人たちがそっと素通りする。しかし、警察は動かない。逆に、何故かメガネ男がD特会を妨害したとして検挙された。
そして、メガネ男が現場からさって間もなく、また別の怪しい10人前後の集団がD特会の前に姿を現した。その集団は、それぞれ似たような最近のオシャレ系草食男子っぽい格好をしており、渋谷というよりも代官山や下北沢にいそうな感じであった。
「我々はオーディナリーデイズである。君たちのようなルサンチマンの塊を更生しに来た」集団はそう名乗った。
「なんだ?おまえら」
「君たちは日本のためとか何とか言っているけど、本当はこうやって友達同士でワイワイガヤガヤしたかっただけなんだろ?単に社会から承認されない苦しみを、誰かを差別することによって現実逃避しているだけだ」
「あぁーん!なんだ?我々に文句があるのか!?この不定朝鮮人めが!!」
「まぁ~たそうやって差別用語を出す。でも、君たちの本当の敵は朝鮮人やDQNじゃない。暴力や理不尽な出来事に対して母性的なやさしさで受け入れようとする日本社会が憎いんだろ?でも、その日本社会のシステムを当分変更する事は出来ない。むしろ、君達みたいに外部に暴力を向けようとするほど社会は崩壊に向かう。ほら、いじめられっ子が復讐したって少年院に送られるだけだろ。君らの行動は負の螺旋の一部に過ぎない」
セレクトショップに置いてありそうな、オシャレTシャツに身を包んだオーディナリーデイズのキャプテンが、彼らに向ってニヤニヤしながら告げる。
「ほら、別に無理して俺達みたいになれとは言わないけど、もっと普通にしたら?渋谷の町でこんな小汚い格好して差別を垂れ流しているのは正直惨めだよ。こんなのだったら、地元で友達とwiiのマリオパーティーでもやってた方が幸せじゃん。というか、君ら地元に友達すらいないの?」
「っんだとてめえ!言論の自由の無い国から来た劣等民族が何ほざいてんだ!!!」決して悟られたくない心の奥底にあるトラウマを穿りかえされ、D特会メンバーが一斉に怒り狂う。そして、手に持った日の丸をオーディナリーデイズに向って振りかざした。
「はぁ~い、正当防衛ね正当防衛」オーディナリーデイズも応戦する。リア充青年団VS非モテ青年団というドリームマッチの結果は、やはりオーディナリデイズの圧勝だった。そして、D特会のメンバーは全員お縄頂戴となり、しょっ引かれていった。
「やれやれ、でも君らもそうやって他人の神経を逆撫でし続けてきたんだろ?その火の粉が自分らにも飛び火してきただけさ」