2???年 ??月 その1
変更履歴
2011/11/27 小題修正 20??年 ??月 その4 → 2???年 ??月 その1
2011/11/27 冒頭文追加
2011/11/27 記述修正 これは、学校が近づくと更に酷くなって、 → 電車を下りて学校が近づくと、避けられるのは更に酷くなって、
2011/11/27 中吊りの広告の記述追加
2014/01/26 句読点調整
2014/01/26 改行調整
2014/01/26 区切り行追加
2014/01/26 記述修正 もう → 倒れてから
2014/01/26 記述修正 よく判らなくなっています → さっぱり判らなくなってしまっています
2014/01/26 記述修正 実はわたしは、とっくの昔に死んでいて → 実はもうとっくの昔に死んでいるのに
2014/01/26 記述削除 ずっと気づかないまま、
2014/01/26 記述修正 何百年も経っているんじゃないかとか → 何百年も経っているんじゃないか
2014/01/26 記述修正 最近はそう思っています → 最近ではそんな風に考えてしまいます
2014/01/26 記述移動 あまりにも、夢を見ている時間が長すぎるから……
2014/01/26 記述修正 もう数え切れないくらい → 本当にもう、数え切れないくらい
2014/01/26 記述修正 どう言うことかって言うと、派手になってるって言うか → 派手になってるって言うか
2014/01/26 記述修正 めちゃくちゃになっているって言うか → メチャクチャになっているって言うか
2014/01/26 記述修正 更に現実味がなくなって来ています → さらに現実味がなくなって来ているんです
2014/01/26 記述修正 とても疲れる気がするんです → とても疲れます
2014/01/26 記述結合 思い出せない。 → 思い出せないけど、
2014/01/26 記述修正 何となく、雰囲気が変な気が → 周りの雰囲気が変なんです
2014/01/26 記述修正 4月3日だったんです → 4月3日なのに気づきました
2014/01/26 記述修正 明日はもう登校日でした → 明日はもう登校日です
2014/01/26 記述修正 お休みを3日分損した気分です…… → お休みを3日分損した気分だ……
2014/01/26 記述分割 早々に寝てしまい、 → 早々に寝てしまいました。
2014/01/26 記述修正 そして翌日になって、登校日になりました → そして翌日、登校日です
2014/01/26 記述修正 それも相変わらず今日も続いていました → それも相変わらず続いています
2014/01/26 記述修正 何だかなあ…… → 何だかなぁ……
2014/01/26 記述修正 何となく車内を見渡すと → 何気なく車内を見渡すと
2014/01/26 記述修正 そこには、週刊誌の見出しが載っていて → そこに載っていた週刊誌の見出しには
2014/01/26 記述修正 別人とは思えないほど良く似てるけど → 別人とは思えないほど似てるけど
2014/01/26 記述修正 さすがにアイドルじゃないしね → さすがにアイドルじゃないもんなぁ
2014/01/26 記述修正 それにしても、良く似てるなぁ…… → だけど、似てるよなぁ……
2014/01/26 記述結合 色白で長い黒髪の女の人が載っていました。 → 色白で長い黒髪の女の人が載っていたんですが、
2014/01/26 記述修正 でもその人、顔がすごく、みことっぽい…… → その人、顔がすごくみことっぽいんです。
2014/01/26 記述移動 こっちも良く似てる……
2014/01/26 記述修正 こっちも良く似てる…… → こっちもそっくり……
2014/01/26 記述修正 避けられるのは更に酷くなって → 避けられるのはもっと酷くなり
2014/01/26 記述削除 うわぁ、思いっきり避けられてる、何なんだろう……
2014/01/26 記述修正 更に違和感があるのが、逆にわたしに近づいてきて → 逆にわたしに近づいてきて
2014/01/26 記述修正 怖そうな人ばっかりです。 → 怖そうな人ばっかり……
2014/01/26 記述修正 ちょっと気分がいいです → ちょっと気分がいいかも
2014/01/26 記述修正 三崎 → 三崎!
2014/01/26 記述修正 力強い大きな声で → 怒鳴るように
2014/01/26 記述修正 許さないから覚えとけ → 許さないから覚えとけ!
2014/01/26 記述移動 なつめの足、傷もあざも全然なくて、
2014/01/26 記述修正 なつめの足、傷もあざも全然なくて → その声は今まで聞いたことがないくらい力強いし
2014/01/26 記述移動 すごくきれいだった……
2014/01/26 記述修正 すごくきれいだった…… → 足には傷もあざもありません。
2014/01/26 記述修正 教室の前に人だかりが出来ていて → 教室の前の方で人だかりが出来ていて
2014/01/26 記述修正 長い黒髪を三つ編みにしている → ボサボサの長い黒髪を三つ編みにしている
2014/01/26 記述修正 ああの → ぁあの
2014/01/26 記述修正 ああ → ぁあ
2014/01/26 記述修正 あの → ぁの
2014/01/26 記述修正 取り囲んでいた人の中のひとりが → 取り囲んでいた人から
2014/01/26 記述修正 俺たちへの罰は → だから俺たちへの罰は
2014/01/26 記述修正 と言って、わたしへとやけに分厚い白い封筒を差し出されて → と言われるのと同時に、わたしへとやけに分厚い白い封筒を差し出すと
2014/01/26 記述修正 周りにいた人だけじゃなくて → 周りにいた人だけじゃなく
2014/01/26 記述修正 すっぴんの顔を → スッピンの顔を
2014/01/26 記述修正 ぐしゃぐしゃに歪めて → グシャグシャに歪めつつ
2014/01/26 記述修正 白い封筒の中を見てみると → とりあえず白い封筒の中を見てみると
2014/01/26 記述修正 たくさんのお札が詰め込まれていました → たくさんのお札が詰め込まれています
2014/01/26 記述修正 なんだ → なのか
2014/01/26 記述修正 この状況、ますます判らないよ → ますます判らなくなってきた
2014/01/26 記述修正 もう少し泣きじゃくって → 門埜さんが泣きじゃくって
2014/01/26 記述修正 眺めていたかったような気もするけど → もう少し眺めていたかったような気もするけど
2014/01/26 記述修正 この騒音は → その騒音は
2014/01/26 記述修正 だんだんとその音は大きくなって → だんだんとその音は大きくなり
2014/01/26 記述修正 両手には指輪じゃなくて → 両手には指輪じゃなく
2014/01/26 記述修正 左手で持った黒い木刀を肩にかけていました → 左手で持った黒い木刀を肩にかけています
2014/01/26 記述修正 夜はあんなに凶暴なのに → 夜はあんなに凶暴なのにぃ
2014/01/26 記述修正 けらけら笑っていました → ケラケラ笑っていました
2014/01/26 記述修正 キラキラしていた目に、似ているような、似てないような…… → キラキラしていた目に、似てなくもないような……
2014/01/26 記述修正 わたしのことを姉貴って呼んでたし → わたしのことを『姉貴』って呼んでたし
2014/01/26 記述修正 人のいなそうな屋上へと向かいました → まずは廊下へと連れ出しました
2014/01/26 記述修正 わたしの態度がいつもと違ってるっぽくて → わたしの態度がいつもと違ってるから
2014/01/26 記述分割 屋上についてから、話をした方がいいと思って、 → 場所で、話をした方がよさそう。
2014/01/26 記述結合 無言で葵ちゃんの手を引っ張っていきました。 → なのでわたしは、無言で葵ちゃんの手を引っ張っていき、
2014/01/26 記述修正 無事に誰もいない屋上について → 無事に誰もいない屋上に着くと
2014/01/26 記述修正 わたしは改めて、金髪の葵ちゃんへと → そこで改めて
2014/01/26 記述修正 葵ちゃんは、それを冗談だと思ったらしく → そしたら葵ちゃんは、それが冗談だと思ったらしく
2014/01/26 記述修正 それに付き合うように、話してくれました → 話を合わせるようにように喋り始めました
2014/01/26 記述修正 それ → あ
2014/01/26 記述修正 勝つためには手段を選ばなくって → 勝つ為には手段を選ばなくって
2014/01/26 記述修正 それよりも姉貴、聞いて下さいよ → それよりも姉貴ぃ、聞いて下さいよぉ
2014/01/26 記述修正 ケルベロスの狂犬のヤローが → 自警団のヤツらが
2014/01/26 記述修正 暴走族のチーム『ケルベロス』の → この地域一帯の高校をまとめる生徒会連盟が仕切る『風紀自警団』の
2014/01/26 記述修正 新リーダーでしょ? → リーダーでしょ?
2014/01/26 記述修正 この前だって、姉貴も食らったじゃないですか → ついこの前だって、やられたじゃないですか
2014/01/26 記述修正 あいつの原チャリ投げを → 夜間取締り
2014/01/26 記述修正 頭おかしいっスよ → チートっスよ
2014/01/26 記述削除 普通、原チャは乗るもんだろう、あんなクソ重いもん。
2014/01/26 記述修正 それを、振り回して投げつけてくるんだから → 進学校トップの成績でスポーツも出来て
2014/01/26 記述修正 ぜってー狂ってる → おまけにボンボンでケンカも強いなんて、ありえねぇ
2014/01/26 記述修正 あんな化ケモン相手に → あんなチート野郎相手に
2014/01/26 記述修正 暴走族のリーダーで → 自警団のリーダーで
2014/01/26 記述修正 ……姉貴、もしかしてマジで記憶がないんスか? → もしかしてマジで記憶がないんスか?
2014/01/26 記述修正 わたしの制服を脱がし始めました。 → わたしの制服を脱がし始めたんです!
2014/01/26 記述修正 ここで、何する気なんだろう…… → 一体ここで、何する気……?
2014/01/26 記述修正 思い出してしまったのもあって → 思い出してしまい
2014/01/26 記述修正 体がすくんでしまって抵抗出来ず → 体がすくんで抵抗出来ず
2014/01/26 記述修正 すっげえ地味なブラっスねぇ → 今日はすっげえ地味なブラっスねぇ
2014/01/26 記述修正 黒い猫の絵も映っていました → 黒い猫の絵が……
2014/01/26 記述修正 判らなくなってしまい → 判らなくなり
2014/01/26 記述修正 ショックでその場に座り込んでしまいました → その場に座り込んでしまいました
2014/01/26 記述修正 前に立った葵ちゃんは、しばらく黙って → 前に立った葵ちゃんは
2014/01/26 記述結合 わたしの様子を見ていました。 → わたしの様子を見ていたんですが、
2014/01/26 記述修正 そして → しばらくして
2014/01/26 記述修正 葵ちゃんから声をかけられました → 葵ちゃんから声をかけて来たんです
2014/01/26 記述修正 そう叫んだ葵ちゃんは、わたしに向かって → そう叫んだ葵ちゃんは
2014/01/26 記述修正 振り上げた木刀で殴りかかって来て → 振り上げた木刀をわたし目掛けて振り下ろして
2014/01/26 記述修正 スイカ割りのスイカみたいに → まるでスイカ割りのスイカみたいに
??月??日
倒れてから、どのくらいの時間が過ぎたのか、
さっぱり判らなくなってしまっています。
あまりにも、夢を見ている時間が長すぎるから……
実はもうとっくの昔に死んでいるのに、
それを気づかないで、お化けになってて、
何百年も経っているんじゃないか、
最近ではそんな風に考えてしまいます。
本当にもう、数え切れないくらい夢を見たんです。
色んな夢を見ては、目を覚ますんだけど、
そこもまた夢の中みたいな展開ばかりになっていて、
何が何だか判りません。
まるで、自分が出演した覚えのない、
自分とそっくりな人が出ている短編映画を延々と見ている様な、
そんな他人事みたいな気持ちになってきます。
でもいつも、出ているのは間違いなくわたしで、
夢の中では自分の意思で考えて、行動していると思う。
だからいつも、もしかしたらって思うけど、
やっぱり最後は夢なんです。
そんな果てしない夢の内容なんですが、
だんだんと変わってきています。
派手になってるって言うか、
メチャクチャになっているって言うか、
さらに現実味がなくなって来ているんです。
こうなっちゃうと、悪夢だって判った後でもとても疲れます。
せめて、もっと穏やかな夢を見たいです……
??月??日 へんてこな世界
目を覚ますと、もう夕方になっていて、
どうやらわたしは、いつの間にか眠っていたようです。
あれ、たしかわたし、何かをしようとしていた気がするんだけど、
なんだったっけ……?
うーん、思い出せないけど、まぁ、いいや。
とりあえず早く家に帰って、夕飯の買い物に行かなくちゃ。
わたしは急いで家に帰ってから、
スーパーへと買い物に行ったんですけど、
周りの雰囲気が変なんです。
何となくなんですけど、周りの人たちから、
避けられているような気がする。
わたしと視線が合いそうになると、顔を背けてる気もするし……
それが気になって何度か確認したけど、
自分に別に変なところはないし、いつも通りなのになぁ。
何だかよく判らないけど、
とにかく買い物を済ませて家に帰りました。
明日になれば、いつも通りになるかなって思って、
何気なくテレビを見ていたら、
てっきり今日は、3月31日だと思っていたのに、
4月3日なのに気づきました。
一瞬、エイプリルフールかとも思って、
携帯で確認しても、やっぱり4月3日で、
明日はもう登校日です。
おかしいなあ、まだ春休みだと思っていたのに。
何だか、お休みを3日分損した気分だ……
この日は明日の支度をして、早々に寝てしまいました。
・ ・ ・
そして翌日、登校日です。
今日からわたしも高校三年生ですが、全然実感はないし、
昨日感じていた避けられている感じ、
それも相変わらず続いています。
そのおかげで、電車はかなり込んでいるのに、
わたしの周りだけ余裕があって、
乗りやすいけど、何だかなぁ……
何気なく車内を見渡すと、中吊りの広告が目に止まりました。
そこに載っていた週刊誌の見出しには、
『徹底検証! おバカアイドルは本当に馬鹿なのか!?』
って書いてあって、そのアイドルらしい、
女の人の写真が載っていたんですが、
すっごいバカっぽい顔をしているけど、
どう見てもそれが、かなに見えるんです。
別人とは思えないほど似てるけど、かなはあんな顔しないし、
凪高じゃ有名でも、さすがにアイドルじゃないもんなぁ。
だけど、似てるよなぁ……
その隣の中吊りは、バイオリンコンサートの宣伝で、
『世紀の天才バイオリニスト 初の日本凱旋公演』
って書いてあって、純白のドレス姿でバイオリンを弾いている、
色白で長い黒髪の女の人が載っていたんですが、
その人、顔がすごくみことっぽいんです。
こっちもそっくり……
今まで想像したことなかったけど、
みことって、髪長いと全然イメージが変わるんだなぁ。
その広告を、もっと確認したかったんだけど、
もう降りる駅に着いてしまい、
バイオリン奏者やアイドルの名前までは、判りませんでした。
帰りの電車でも、また中吊りを探してみよう。
その前に、クラス替えがどうなってるか判らないけど、
もしふたりに会えたら、絶対このことを話そう。
・ ・ ・
電車を下りて学校が近づくと、避けられるのはもっと酷くなり、
凪高の制服を着ている普通の生徒は、
みんなわたしに近づかないようにしているし、
わたしの姿を見るだけで、
早足になって逃げていく人たちも多いです。
逆にわたしに近づいてきて、
頭を下げて挨拶してくる人たちもいるんですけど、
そう言う人たちは、どう見てもヤンキーの人とか、
怖そうな人ばっかり……
何がどうなっているのか判らないけど、
わたしは、すごく偉い立場の人になったみたいです。
もう違和感しかないけど、前に酷い目に遭わされた人たちから、
頭を下げられるのは、ちょっと気分がいいかも。
そんな風に思っていたら、後ろから、
今までとは違う感じでわたしを呼ぶ声が聞こえました。
「三崎!」
あ、この声はなつめだ!
でもなんで苗字?
とりあえず振り返るとそこには、
日に焼けた浅黒い肌にショートカットの髪、
上はジャージで下は短パンを着ている、
今まで見たことも、想像も出来ないような、
颯爽とした姿のなつめがいました。
え、これ、なつめ!?
その声は今まで聞いたことがないくらい力強いし、
足には傷もあざもありません。
わたしが驚いていると、そんなわたしの態度にはお構いなく、
色黒ななつめはわたしを睨みながら、
怒鳴るように話し始めました。
「私は卑怯な事が大嫌いなんだ、
だから、お前らみたいなのが一番許せないし、
絶対にお前らみたいなのとは、つるまない。
お前、またうちの部員にちょっかい出しただろ、
今度また手を出してきたら、許さないから覚えとけ!」
そう言うと、体育会系ななつめは、
すごい速さで走って行ってしまいました。
よく判らないけど、わたしはなつめのいる部の部員に、
何かをしてそれを怒っていたみたいです。
もう何が何だかさっぱり判らないけど、
とりあえず教室へ行って考えよう。
そう思って、わたしは新しい教室へと向かいました。
・ ・ ・
校舎に入ると、わたしの姿を見ただけで、
廊下にいる人たちは、壁際に並んで道を空けていて、
まるで王様にでもなったみたいです。
気分はいいけど、ほんと何なんだろうなぁ、これ。
わたしが新しい教室に入ると、
教室の前の方で人だかりが出来ていて、
どうやら、誰かが囲まれているように見えます。
わたしの姿を見ると、集まっていた人たちはすぐに道を空けて、
その中でうずくまっている女子が見えました。
ボサボサの長い黒髪を三つ編みにしている、
制服も普通で、スカートの丈もかなり長い、
わたしが言うのも何ですが、とても地味な女子で、
小さく啜り泣く声が聞こえています。
その女子は体を起こして、こちらを見たんですが、
どっかで見たことある顔に見えるんだけど、
どうしても誰だか思い出せません。
この人、絶対知っていると思うんだけどなぁ、
どうして思い出せないんだろう。
「あ、ぁあの、あの、あぁ、うぅう、
すすす、すい、まま、せん、ぁあ、あの、
ご、ごめん、なさ、い……、
ま、まだ、あ、ぁの、その……」
わたしが考えていると、その女子は鼻をすすりながら、
涙声でわたしに謝っているみたいでした。
でも、それ以上のことは聞いていても判らなくて、
何が言いたいんだろうと思ってそれを訊こうとしたら、
わたしが声をかけるよりも前に、取り囲んでいた人から、
「こいつ、今日の分の金が用意出来てないんですよ。
門埜の分以外はここに揃ってます、
三崎さん、どうぞお納め下さい。
だから俺たちへの罰は、どうか勘弁して下さい!」
と言われるのと同時に、
わたしへとやけに分厚い白い封筒を差し出さすと、
周りにいた人だけじゃなく、クラスの全員が立ち上がって、
深く頭を下げていました。
ん? 門埜?
この地味な女子が、門埜さん!?
眉かなり太いなぁ、それにこんなに目ちっちゃかったんだ、
でもやっぱり、メイク映えしそうな美人顔してる……
「どう、か、ぁの、あ、あの、どうか、
もう1、日、だけ、うぅ、あ、ぁの、
待って、く、くだ、さい……
うぅ、う、お、おねが、い、します……」
こんな中で地味な門埜さんは、スッピンの顔を、
涙と鼻水まみれにしながらグシャグシャに歪めつつ、
何度も床におでこをぶつけて、
わたしへと土下座して謝っていました。
とりあえず白い封筒の中を見てみると、
たくさんのお札が詰め込まれています。
お納め下さいってことは、
これはわたしにくれたお金なのか。
で、それが払えなかった地味な門埜さんは、
わたしに土下座して謝っている……
この展開だと、わたしってかなりの悪い人?
あぁ、ますます判らなくなってきた。
この場はとにかく、無難に済まして、
状況を訊ける相手を見つけよう。
わたしは門埜さんに、支払いの延期を認めてあげてから、
自分の席へと向かいました。
この後地味な門埜さんは、お金を工面しに向かったようで、
すぐに走って教室を出て行きました。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけですが、
門埜さんが泣きじゃくってわたしへと謝る姿を、
もう少し眺めていたかったような気もするけど、
今はそれどころじゃない。
誰か、今のわたしのことを詳しく知ってて、
そういうことをちゃんと教えてくれそうな人、
いないのかなと思っていたら、遠くからやけにうるさい、
原付バイクみたいな音がしてきました。
ここって4階なんだけど、どうしてバイクの音が?
その騒音は廊下の方からで、だんだんとその音は大きくなり、
この教室の前に来たと思ったら、
原付に乗った金髪の女子が、突っ込んできました!
クラスメイトがふたり体当たりされていたけど、
それには目もくれず、そのバイクの人は、
バイクに乗ったままわたしの前にやってきました。
メッシュが入った金髪のショートヘア、耳にはピアス、
細い眉に、真っ赤な口紅で、咥えタバコ。
右の頬には絆創膏が貼ってあって、両手には指輪じゃなく、
ケンカで使う武器みたいなのをつけてて、
左手で持った黒い木刀を肩にかけています。
短くしているスカートから伸びる足は、
両足とも、太もものところに包帯が巻かれていて、
膝から下は、絆創膏とあざだらけです。
そして、その人はわたしへと、
「姉貴、チーッス。
二年の分の上納金、回収完了しましたぁ、
いつも通り、正午までには、
いつもの口座に振り込ませますんでぇ、
しっかし姉貴はいっつも変らず地味っスねぇ。
夜はあんなに凶暴なのにぃ」
と、気だるい感じだけど聞き覚えのある声で言ってから、
ケラケラ笑っていました。
……この人、葵ちゃんだ。
そう気づいてみてみると、
今の葵ちゃんのギラギラした鋭い目つきは、
わたしが覚えている可愛かった葵ちゃんが、
夢中でUFOキャッチャーをやっていた時にしていた、
キラキラしていた目に、似てなくもないような……
まぁとにかく、わたしのことを『姉貴』って呼んでたし、
今までで一番親しげな態度だから、
きっと今のわたしに近い立場なのかもと思い、
わたしはヤンキーの葵ちゃんの手を掴んで、
まずは廊下へと連れ出しました。
・ ・ ・
「どうしたんすか、姉貴、今日はらしくないっスよ、
それ、新しいキャラ設定っスか?
ほんと、姉貴は化け猫っスねぇ」
わたしの態度がいつもと違ってるから、
それを訊かれてるっぽいけど、とりあえず、
他に誰もいない場所で話をした方がよさそう。
なのでわたしは、無言で葵ちゃんの手を引っ張っていき、
そして無事に誰もいない屋上に着くと、
そこで改めてわたし自身のことを尋ねたんです。
そしたら葵ちゃんは、それが冗談だと思ったらしく、
話を合わせるように喋り始めました。
「何の真似なんスかぁ、あ、記憶喪失ごっことかぁ?
それ、なんか楽しいんスかぁ?
そぉんなに自分の武勇伝、語らせたいってんなら、
わっかりましたよ、言えばいいんでしょ言えば。
姉貴はぁ、この凪高を統括している、
チーム『リンクス』のリーダーで、
普段は地味な格好だけど、闇討ちと奇襲を得意としてて、
勝つ為には手段を選ばなくって、
普段の地味な姿と、突然相手に不幸を与えるところから、
昼間の通り名は『黒猫』で、一度キレると半殺しどころか、
相手が動かなくなるまで笑いながらボコる極悪さと、
その表の顔からの豹変っぷりから、
夜は『化け猫』の通り名を持つ、
名実ともにこの地域で最強のリーダー。
で、私はその化け猫の妹分、こんなもんで、いいっスか?」
わたしは、チームのリーダーで、黒猫、化け猫……
そうか、だからみんな避けるわけだ……
「こんなん語ってたら、まぁた思い出した、
去年、私が姉貴に半殺しにされたこと。
あんときゃあ、マジで殺されるかと思いましたよぉ。
後にも先にも、私がビビったのはそれっきりっス、
それまで、負けたことなかったのになぁ」
この、かなり危なそうな葵ちゃんを、わたしが半殺しにした……
「それよりも姉貴ぃ、聞いて下さいよぉ、
自警団のヤツらが、まぁた手ぇ出して来たんスよ。
あいつら最近調子乗ってっから、またシメてやりましょうよ!
頭のケイゴさえ潰せば、残りはザコばっかだし楽勝っスよ。
ねぇ、姉貴? 聞いてます?」
ケイゴ? ケイゴってケイゴさんのこと?
「姉貴ぃ、まぁだその記憶喪失ごっこですかぁ?
そんなぁ、すっとぼけた顔しちゃってぇ。
この地域一帯の高校をまとめる生徒会連盟が仕切る、
『風紀自警団』のリーダーでしょ?
ついこの前だってやられたじゃないですか、夜間取締り。
あいつぜってー、チートっスよ、
進学校トップの成績でスポーツも出来て、
おまけにボンボンでケンカも強いなんて、ありえねぇ。
あんなチート野郎相手に、まともに殺り合う必要ないっスよ、
車で轢いちまえば、楽に殺れると思うんスけど、
どうっスかねぇ?」
ケイゴさんは、自警団のリーダーで、
わたしとも、前にケンカしてる……
葵ちゃんの衝撃的な話に、全く対応出来なくて、
ずっと黙っていたら、葵ちゃんから声をかけられました。
「姉貴、ホントにどうしたんスか?
顔色真っ青っスよ。
もしかしてマジで記憶がないんスか?
勘弁して下さいよぉ。
だったら、ちょっとツラ貸して下さいよ」
そう言うと葵ちゃんは、さっきとは逆に、
わたしの手を掴んで、屋上から校舎へと戻りました。
・ ・ ・
何処へ連れて行く気なのかと思いながら、
腕を引かれるままに歩いていくと、
女子トイレの中へと、連れ込まれました。
一体ここで、何する気……?
そう思っていると、葵ちゃんは、
「姉貴、いつまでも寝惚けてる場合じゃないっス。
自分自身を見れば、すぐに思い出すっしょ、
いいから、早く脱いで下さいよ!」
と怒鳴ってから、洗面台の鏡の前に立たせて、
わたしの制服を脱がし始めたんです!
この時、わたしは抵抗しようとしたんだけど、
葵ちゃんの剣幕がすごく怖かったのと、
前に門埜さんに襲われた時のことを思い出してしまい、
体がすくんで抵抗出来ず、されるがままに、
ブレザーとワイシャツを脱がされました。
「あれ、サラシ巻いてないんスね、いっつも巻いてるのに。
それにしても、白の無地って、
今日はすっげえ地味なブラっスねぇ、
まぁいいや、それより背中背中!」
そう言うと葵ちゃんは、背中のブラのフックを外してから、
わたしを、洗面台に背を向けるように立たせました。
ここで思わず、悲鳴を上げそうになってしまい、
慌てて両手で胸を押さえながら、
わたしの背中に、何かあるんだろうと思いつつ、
振り返って鏡を見ると、私の背中が映っていて、
その背中には、ほぼ一面に大きく、
ヒョウちゃんみたいな、黒い猫の絵が……
え、なにこれ……
唖然としているわたしへと、
自信満々な葵ちゃんの声が聞こえました。
「どんなにとぼけても、自分の体のタトゥーなら、
さすがに誤魔化せねぇっしょ!
チームリンクスのリーダーは、
黒猫のタトゥーを入れるって、
姉貴が自分で決めて、実践したんスからねぇ。
これでもまぁだ、そのふざけた遊びを続けるんスか?」
今までは、自分以外の周りが変だっただけだけど、
これはわたし自身にある証拠だ。
でも、わたしはこんなの知らない。
つまり、ここにいるわたしは、
わたしの思っているわたしじゃないんだ。
じゃあ本当に、わたしは記憶喪失なの!?
この時、わたしはすごく動揺して、
血の気が引いていくのが、自分でも判り、
もうどうして良いか判らなくなり、
その場に座り込んでしまいました。
そんなわたしを見下ろすように、
前に立った葵ちゃんは、わたしの様子を見ていたんですが、
しばらくして、さっきとは少し変わった冷めた口調で、
葵ちゃんから声をかけて来たんです。
「……これでも、戻らないんスか、姉貴。
どうやらマジで姉貴は、私の知ってる姉貴じゃあ、
なくなってるみたいっスねぇ。
だったらもう、どうしても私が勝てなかった、
常勝の化け猫じゃあねぇんだぁ。
こぉんな腑抜けた黒猫なんて、私は認めねぇ、
私はねぇ、自分より弱えヤツに従う気なんてねぇんだよ。
だからぁ、ここでぇ、あんたの首とって、
私が凪の頭とリンクスのリーダー継いでやるよ!」
そう叫んだ葵ちゃんは、
振り上げた木刀をわたし目掛けて振り下ろして、
わたしの頭は、まるでスイカ割りのスイカみたいに、
木刀で叩き割られた――
と、思ったところで、目が覚めました。