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2011年  3月 その4

変更履歴

2011/04/25 記述統一 1ケ所、二ヶ月、二ケ月 → 1ヶ所、2ヶ月、3ヶ月

2011/09/26 誤植修正 話し → 話

2013/12/28 誤植修正 みんなどうしたんたろう → みんなどうしたんだろう

2013/12/28 誤植修正 門埜さんたちのことだったげけど → 門埜さんたちのことだったけど

2013/12/28 句読点調整

2013/12/28 改行調整

2013/12/28 区切り行追加

2013/12/28 記述統一 居る・居ない → いる・いない

2013/12/28 記述結合 実家に行くと言う報告でした。 → 実家に行くと言う報告で、

2013/12/28 記述移動 みことは最後に、終業式までには戻ると言っていました。

2013/12/28 記述修正 普段と変わりなく聞こえました → 普段と変わりなく聞こえましたね

2013/12/28 記述修正 違うんだろうけど → 色々違うんだろうけど

2013/12/28 記述修正 そのニュースよりも → それよりも

2013/12/28 記述修正 今までずっと休学していた人たちの姿が見えて → 今までずっと休学していた人たちが来ていて

2013/12/28 記述修正 その人たちのところに → その人たちに

2013/12/28 記述削除 みことが話しているから、何か知ってそう。

2013/12/28 記述修正 是非出てきて欲しいと伝えて → 是非出てきて欲しいと

2013/12/28 記述修正 せめて今日だけでも、来てくれるように頼んでおいた → 伝えておいた

2013/12/28 記述修正 来てくれた生徒もいて → 来てくれた生徒もいたから

2013/12/28 記述修正 臨時の担任の山田先生が来たので → 新担任の山田先生が来たので

2013/12/28 記述修正 このHRの後は終業式で → この後は終業式で

2013/12/28 記述修正 何事もなかったように進んで、終わりました → 何事もなかったように淡々と進行してましたね

2013/12/28 記述結合 通知表と試験の答案が配られました。 → 通知表と試験の答案が配られたんですけど、

2013/12/28 記述修正 HRが終わって → 帰りのHRが終わり

2013/12/28 記述修正 葬儀に参列する事が → 葬儀への参列が

2013/12/28 記述修正 勝てた事はなかった → 一度も勝てなかった相手だ

2013/12/28 記述修正 椎名からの好意の申し出だったが → せっかくの椎名からの申し出だったが

2013/12/28 記述修正 構わないと言われたんだ → 構わないと言う提案だった

2013/12/28 記述修正 だから → なので

2013/12/28 記述修正 血縁の間宮の墓ではない自分で墓を立てて → 血縁の間宮の墓ではない自分の墓を立てて

2013/12/28 記述修正 そこに伯父貴の遺骨を納めようと思っている → その墓に伯父貴の遺骨を納めようと思っている

2013/12/28 記述修正 そこにいつか、私も入れればそれでいい → そしていつか、そこに私も入れればそれでいい

2013/12/28 記述修正 何か思いついたらと → 欲しいものを何か思いついたら言うと

2013/12/28 記述修正 みこととそこまで話した時 → そこまで話した時

2013/12/28 記述修正 みことの所へと声をかけて来た人たちがいて → みことに声をかけて来た人たちがいて

2013/12/28 記述修正 その人へと受け答えをした後に、みことは → その人へと受け答えをした後に

2013/12/28 記述修正 と言ってその人たちと一緒に教室を出て行きました → と言ってみことは、その人たちと一緒に教室を出て行きました

2013/12/28 記述修正 これから入院中の生徒の所に → これから入院中の生徒の家へ

2013/12/28 記述修正 すぐに帰っていたから → もう帰っていたから

2013/12/28 記述修正 色々と考えたり → 色々と

2013/12/28 記述修正 沢山あるけど → いっぱいあるけど

2013/12/28 記述修正 思ってしまいます → 思ってしまいますね

2013/12/28 記述修正 久し振りに忍さんが → で、久し振りに忍さんが

2013/12/28 記述修正 何だかすごく懐かしいな、なんて思ってしまって → 何だかすごく懐かしい、なんて思ってしまい

2013/12/28 記述修正 忍さん、最初にわたしと目があった時に → だからなのか、今日最初にわたしと目が合った時

2013/12/28 記述修正 久し振り → 久し振り、背伸びた?

2013/12/28 記述修正 なんて、言っていました → なんて冗談を言ってましたね

2013/12/28 記述修正 夕方にはもう出ないといけないって言っていたから → 夕方には店を出ると言っていたから

2013/12/28 記述修正 イタリア人並みの → 今日はイタリア人並みの

2013/12/28 記述修正 怒られるのなんて別に良いんだけどさ → 怒られるのなんて別に良いんだけど

2013/12/28 記述修正 前に私の昔話を聞かせたのと同じ座席だね → 前に私の昔話を聞かせたのと同じだね

2013/12/28 記述削除 わたしに真剣な顔で話し始めました。

2013/12/28 記述修正 忍さんには → あっさり

2013/12/28 記述修正 なつめからのメールが来ていました → なつめからメールが来ていたんです

2013/12/28 記述修正 それを片っ端から 新聞や雑誌の記者を使って調べさせて → それを調べさせて

2013/12/28 記述修正 ある事ない事、噂も含めてリークさせたんでしょう → 新聞や雑誌に掲載させたんでしょう

2013/12/28 記述修正 昨日からそれをずっと考えていました → 昨日からそれをずっと考えていたんです

2013/12/28 記述修正 みなもちゃんのせいじゃない → みなもちゃんの所為じゃない

2013/12/28 記述修正 摘発されることになった → 摘発された

2013/12/28 記述修正 誰かから傷つけたり、誰かを傷つけられたりってのは → 誰かから傷つけられたり、誰かを傷つけたりってのは

2013/12/28 記述修正 こういうのはずっと繰り返されるもので → ってのは、ずっと繰り返されるもので

2013/12/28 記述結合 一緒にいたいって思ってる。 → 一緒にいたいと思ってるってことで、

2013/12/28 記述修正 同じように思っていたって思う → 同じように思っていたと思う

2013/12/28 記述修正 まだ声の力は弱かったけど → まだ声は弱々しかったけど

2013/12/28 記述修正 忍さんの方こそ、と返して → 笑顔を作って頷いたら

2013/12/28 記述修正 やっと、2人とも笑顔になれました → 忍さんも笑顔を返してくれました

2013/12/28 記述修正 もう春は間近です → もう春は間近って感じですね

2013/12/28 記述修正 夜も早く寝てても、朝も7時には起きれなくて → 夜早く寝てても、朝7時には起きれなくて

2013/12/28 記述修正 今日は天気は良くて、風も南風で暖かくて → 今日は天気は青天だし、風も南風で暖かいから

2013/12/28 記述結合 すれ違う程度です。 → すれ違う程度でしたが、

2013/12/28 記述修正 一応並木道を端から端まで → それでも一応並木道を端から端まで

2013/12/28 記述修正 桜が満開になるお花見の時期は → 満開になるお花見の時期は

2013/12/28 記述修正 4月上旬くらいだと思いました → 4月上旬くらいだと思います

2013/12/28 記述修正 見に来よう → 見に来ようかな

2013/12/28 記述修正 ケイゴさんは → ケイゴさん

2013/12/28 記述修正 ケイゴさんには、お礼以外に聞いてみたいことがあるんだけど → お礼以外に聞いてみたいことがあるんだけど

2013/12/28 記述移動 ご飯よりもわたしの顔を見上げていて、

2013/12/28 記述結合 わたしに興味があるっぽいです。 → わたしに興味があるのか、

2013/12/28 記述修正 ヒョウちゃんは、しきりにわたしの顔を気にしながら → しきりにわたしの顔を気にしながら

2013/12/28 記述修正 お父さんはわたしに → 父はわたしに

2013/12/28 記述修正 威嚇じゃなくて、1ヶ所をじっと見ているのは → 威嚇以外で1ヶ所を見ているって

2013/12/28 記述修正 わたしの記憶では、普通に元気な時のヒョウちゃんでは → 普通に元気な時のヒョウちゃんでは

2013/12/28 記述修正 なんか頭の中で → それになんか頭の中で

2013/12/28 記述修正 この時、手足も力が入らずに → この時

2013/12/28 記述修正 指にも力は入らず → 指を動かすことすら出来ず

2013/12/28 記述修正 指からすり抜けていくのを → 手からすり抜けていくのを

2013/12/28 記述追加 でも手紙の心配をしている余裕はなくて、

2013/12/28 記述修正 走馬灯…… → 走馬灯……?

2013/12/28 記述修正 その中には、忘れていたことが → その中に、ずっと忘れていたことが

2013/12/28 記述修正 ひとつ入っていたんです → ひとつ入っていました

2013/12/28 記述修正 それは藪野先生に → それは八二先生に

2013/12/28 記述修正 多分、少し遅かったみたいです。 → 少し遅かったみたい……

2013/12/28 記述修正 わたしの方だけ無事ってことはないよなぁ → わたしの方だけ無事ってことはないよね

2013/12/28 記述修正 書いてあったな…… → 書いてあった……


3月22日 みことからの訃報


今日は、終日バイトの予定が入っていて、

朝ご飯を食べた後、携帯を確認したら、

早朝にみことから連絡が入っていました。


こんな時間に連絡してくるなんて、何かあったのかな……


留守電を確認すると、昨日の夜にみことの伯父さんが亡くなって、

今日と明日の葬儀に出るから、実家に行くと言う報告で、

みことは最後に、終業式までには戻ると言っていました。


これであの時に使った盃は、本当に形見になっちゃったのか……


でも伯父さんとは、再会した時に話をしていたからか、

留守電のみことの声はとても落ち着いていて、

普段と変わりなく聞こえましたね。


わたしからは、気をつけて行って来てって、

メールを返しておきました。


伯父さんの立場があれだから、

きっと普通のお葬式とは色々違うんだろうけど、

とにかくみことには、無事にお別れを終えて帰ってきて欲しい、

そう思います……




3月25日 終業式


今日は二年最後の登校日で、終業式です。


おとといと昨日にあった、みことの伯父さんのお葬式は、

新聞に小さな記事で載っているだけでした。


それよりも、門埜製薬の不正のニュースが、

あれから毎日出ていて、次々と関係者が逮捕されています。


門埜さんは、どうなったのかな……


そんなことを気にしつつ、学校に行きました。


   ・   ・   ・   


教室に入ると、今までずっと休学していた人たちが来ていて、

その人たちにみことが声をかけているのが見えました。


あの人たち、みんなどうしたんだろう、

後でみことに聞いてみよう。


予鈴がなって、みことが席に戻ってきた時に、

話していたことを尋ねてみたら、

「あの事件の後から、今まで門埜に絡んで、

 学校に来なくなっていた生徒達の所に、

 何度か回っていたんだ。

 私がした事の謝罪と、もう学校は安全だから、

 是非出てきて欲しいと伝えておいた。

 今日は全員ではないが、

 来てくれた生徒もいたから挨拶していたんだ」

と、笑顔で説明してくれました。


みこと、そんなことをしてたのか、全然知らなかった……


それにしてもみこと、伯父さんの葬儀のすぐ後なのに、

とってもいい笑顔をしているなぁ。


きっと声をかけた人たちが、

みことの呼びかけに応えて来てくれたことが、

嬉しいんだなって思いました。


この後にわたしは、お葬式のことを聞こうとしたんだけど、

新担任の山田先生が来たので、

終業式の後に改めて話をすることにしました。


山田先生は来て早々に、門埜さんが自主退学したことと、

本来の担任だった鈴木先生も、退職したことを伝えました。


これを聞いてもクラスの人たちは、

連日やっている門埜製薬のニュースもあって、

驚いていると言うよりは、予想通りだったみたいで、

それほどざわつくこともなかったです。


   ・   ・   ・   


この後は終業式で、体育館へと向かいました。


終業式は、あの日の事件にも触れずに、

何事もなかったように淡々と進行してましたね。


終業式が終わって、教室に戻ってから、

通知表と試験の答案が配られたんですけど、

テストの出来は予想よりもちょっと良くて、

補習も大丈夫でした。


よかったよかった。


ちなみにみことの成績は、前よりも良くて、

学年で30位になっていました。


これは忍さんの言っていた、集中力の違いなのでしょうか……


   ・   ・   ・   


帰りのHRが終わり解散になった後に、

わたしはみことに、お葬式の話を聞いてみたら、

みことは少しだけ、寂しそうな顔をしていたけど、

話をしてくれました。


「元々私は、伯父貴の葬儀には出られないはずだったんだ。

 私の破門回状が回れば、もう今度こそ、

 敷居を跨ぐ事は許されない。

 だが伯父貴は私の破門を、自分の葬儀の後にするように、

 遺言を残してくれた。

 だから私の所にも連絡が来て、葬儀への参列が許されたんだ。


 私は伯父貴の親族として葬儀に参加させてもらえた。

 間宮 四良の姿も同じ親族席にあったが、

 席も離れていて、一度も口を利かなかった。

 死んだ伯父貴の顔は安らかで、

 月並みな表現だが、まるで眠っているようだった。

 通夜も告別式も盛大に行われたよ。

 喪主は、次期組長に襲名した、

 伯父貴の右腕だった幹部の椎名が執り行った。

 この椎名と言う男は、幹部の中では一番の若手だが、

 体術の実力では伯父貴の次に強かった男で、

 私も何度か勝負したけど、一度も勝てなかった相手だ。


 火葬の後の骨拾いで、伯父貴の遺骨は椎名の配慮で、

 私にも分骨してもらえる事になって、

 それを小さな骨壷に入れて受け取った。


 この後は、親族での形見分けだった。

 私には何もないと思っていたから、

 もうこっちに戻る支度をしていると、椎名がやって来て、

 形見として、家紋の入った白木の鞘の匕首を差し出された。

 堅気の人間には、ドスなんて不要なものなんだが、

 せっかくだからありがたく受け取っておいたよ。


 葬儀がつつがなく終わった後に、

 椎名から破門回状について聞かれた。

 破門ではなく、除籍通知にしても構わないと言う提案だった。


 破門は言わば組からの罰で、除籍の場合は特に非はなくて、

 自らやめる場合に使われるものなんだ。

 せっかくの椎名からの申し出だったが、

 私は伯父貴との約束通り、私への扱いは破門で、

 すぐに出して欲しいと伝えた。


 私はあの日、伯父貴との言いつけを破って、

 伯父貴の元へと帰って来た。

 これは伯父貴個人としては、喜んでくれたと思うが、

 組としては許されない事だ。

 だから、ケジメをつける意味でも、

 伯父貴は破門にすると言っていたに違いない。

 私は伯父貴の遺志に従いたい。

 なので、約束通りに破門にしてもらった。


 これで、臥龍会とも伯父貴との縁も切れてしまったけど、

 遺骨も形見もあるし、何よりも伯父貴との絆は、

 私の記憶の中にあるから大丈夫だ。


 私は伯父貴の家の墓に入る事は出来ないから、

 血縁の間宮の墓ではない自分の墓を立てて、

 その墓に伯父貴の遺骨を納めようと思っている。

 そしていつか、そこに私も入れればそれでいい。


 前に誕生祝いの話をした時、

 欲しいものを何か思いついたら言うと話したよな。

 それで、私からのお願いなんだが、

 伯父貴の四十九日が済んで、喪が明けたら、

 私と一緒に伯父貴の墓参りに来て欲しい。

 せめて墓前にでも、伯父貴にみなもの事を紹介したいんだ」


   ・   ・   ・   


これを聞いてわたしは、頷いて答えました。


そこまで話した時、みことに声をかけて来た人たちがいて、

その人へと受け答えをした後に、

「すまない、みなも。

 これから入院中の生徒の家へ、

 その生徒の友人と共に通知表を届けに行くんだ。

 また近いうちに連絡する、それじゃあな」

と言ってみことは、その人たちと一緒に教室を出て行きました。


この日はかなもギルドで忙しくてもう帰っていたから、

この後わたしは1人で帰ってきました。


   ・   ・   ・   


明日からは春休みです。


そして1週間後には4月になって、

もうわたしも、三年生になってしまいます。


なんだか時間が経つのが早くて、いまいち実感がありません。


色々とやらなきゃいけないことがいっぱいあるけど、

今はまだ考えたくないなって思ってしまいますね。


せめてこの春休みくらいは、

何事もない日常を満喫しようと思います!




3月28日 忍さんとの約束


今日は終日、航海堂のバイトでした。


で、久し振りに忍さんが午前中に顔を出したので、

一緒にお昼を食べることになったんです。


何だかすごく懐かしいなんて思ってしまい、

どうしてそんな風に思うんだろうって考えてみると、

忍さんと前に会って話したのは、2週間以上前でした。


忍さんの方は、最近は週に1日くらいは、

お店に出ていたみたいだけど、

わたしの方は、テスト期間中は休んだし、

その後も何日かバイトを休んでいて、

どうも日にちが合わなかったみたいです。


だからなのか、今日最初にわたしと目が合った時、

「みなもちゃん、久し振り、背伸びた?」

なんて冗談を言ってましたね。


今日は、夕方には店を出ると言っていたから、

特別にお昼休みを1時間延ばして、

イタリアンのレストランで、ゆったりランチです。


忍さんは、お店に向かう途中で、

「今日はイタリア人並みの昼休みだね。

 店長には内緒だよ、みなもちゃん」

と言っていて、怒られるからかなぁって思って尋ねてみたら、

忍さんは首を振って、

「いいや、違うよ、怒られるのなんて別に良いんだけど、

 減給されるのがかなり痛くてね。

 最近は、金銭的にピンチが続いててさ、

 少し借金している身分だから、

 叔父さんには頭が上がらないんだ」

と言って、苦笑していました。


   ・   ・   ・   


お店に入って、席に着くと忍さんは、

「この席、前に私の昔話を聞かせたのと同じだね、

 なんだか懐かしいな」

と言っていて、それを聞いてわたしも、

その時のことを思い出しました。


あの日は絵画展に連れて行ってもらって、

その後、ここで夕食をおごってもらったんだっけ。


あの日の忍さんの過去の話は色々驚いたなぁ、

なんて思っていたら、忍さんは少し改まって、

「ねえ、みなもちゃん、

 今日は何だか元気がない気がするんだけど、何かあったの?」

と聞かれて、わたしは精一杯普通にしていたつもりだったけど、

あっさり気づかれてしまったのが判って、その理由を話しました。


   ・   ・   ・   


実は昨日の夜に、なつめからメールが来ていたんです。


内容は、前に門埜製薬のことを聞いた回答で、

「門埜の件で私から直接やった事はみなに話した事だけ。

 門埜製薬に対するニュースの件は、

 多分、父が仕掛けた事じゃないかと思う。

 どんな企業でも何かしら不正なんてあるから、

 それを調べさせて、新聞や雑誌に掲載させたんでしょう。

 因果応報、自業自得だと思うけど、

 そんなに気になるんだったら確認させておくよ」

と書いてありました。


あれは、なつめのことに対する、仕返しなんだ……


これって元を辿れば、わたしがなつめに色々と言ったから、

その結果として、起きたことなんじゃないのかな。


わたしは今までずっと被害者のつもりでいたけど、

もしかしたら、加害者なのかも知れない……


そう思ったら、何だか気が重くなってしまって、

昨日からそれをずっと考えていたんです。


   ・   ・   ・   


そのことを忍さんに話すと、忍さんのことだから、

てっきり明るく慰めてくれると思ったら、

わたし以上に沈んだ表情になってしまい、

低いトーンで話し始めました。


「それはきっと、みなもちゃんの所為じゃない。

 みなもちゃんも被害者なんだよ。

 門埜製薬が摘発された大元にあるのは、私なんだと思う。


 そもそも、門埜の妹が2月の事件を引き起こしたのは、

 それより前の虐待が原因としてあって、

 虐待に対する反動で、ああなったんだと思うんだ。

 で、虐待の原因が何だったかって言うと、

 門埜の兄のチームだった、皇を潰した事だと思うんだよ。

 全てはそこから始まっている。

 つまり、あの時に私がやった事が全ての元凶なんだ。


 私はあの時も、司を完全には守りきれなかったし、

 今回もみなもちゃんを救えなかった。

 私は周りの人を不幸にしてばかりだ」


そう言って、忍さんは申し訳なさそうに、

弱々しくわたしへと謝りました。


   ・   ・   ・   


こんなに沈んだ忍さんは、前にここで話した時以来だ。


忍さんは、今まで起きた事件を、

全て自分が悪いんじゃないかって考えている。


でもそれだったら、大乱闘の原因になった、

忍さんの妹の司さんにちょっかいを出してきた、

門埜さんのお兄さんが本当の元凶だと思うけど、

でもきっと、こんな犯人探しみたいなことは、

どれだけやっても無意味なんだと思う。


多分、門埜さんのお兄さんに聞けば、

どう言う理由かは判らないけど、何か理由があって、

その原因には、また別の人たちがいるんじゃないだろうか。


誰かから傷つけられたり、誰かを傷つけたりってのは、

ずっと繰り返されるもので、

それはもう、仕方がないんじゃないかと思うんです。


だからそれを突き詰めて、誰かを犯人にするんじゃなくて、

もっと前向きに考えていくべきじゃないかって思います。


何よりわたしが、忍さんに判って欲しいのは、

わたしは忍さんと関わったせいで、

不幸になったなんて思ってないし、

これからだって、一緒にいたいと思ってるってことで、

それは多分、亡くなった司さんだって、

同じように思っていたと思う。


だから、そんなに自分を責めないで欲しいって、

忍さんへと言葉をかけました。


忍さんは、わたしの言葉を聞いて、

まだ声は弱々しかったけど、少し笑ってくれて、

「ありがとう、みなもちゃん。

 そう言ってもらえると気が楽になるよ。

 今日はみなもちゃんの悩みを聞くはずだったのに、

 すっかり逆になっちゃったな。

 でも今の言葉は、みなもちゃん自身にだって、

 当てはまるんだから、みなもちゃんこそ、

 罪悪感を感じる必要はなくて、気にしなくてもいいんだよ。

 だから、みなもちゃんも気持ちを切り替えて元気だして、ね?」

と答えてくれたから、わたしは笑顔を作って頷いたら、

忍さんも笑顔を返してくれました。


この後わたしと忍さんは、お互いに気持ちを切り替えて、

自分自身はもう責めないって、約束し合った後に、

ランチをすごくいっぱい注文して、お腹いっぱい食べまくったら、

そしたらかなり元気が出てきました。


決して忘れられた訳ではないけど、

でもこれで、気持ちは切り替えられたって気がします。


   ・   ・   ・   


午後はすっかりいつも通りで、バイトに専念出来たし、

忍さんもいつもの調子に戻っていました。


これからは、忍さんとも約束したし、

出来るだけ思い悩まないようにしよう、

そう心に誓いました。




3月30日 天罰


春休みも、後4日で終わりです。


休みに入って、気温もかなり上がっていて、

もう春は間近って感じですね。


そのせいか、それともすっかり不安がなくなった反動なのか、

まさに、春眠暁を覚えずで、

毎日やたらと、眠くて眠くて眠いです。


夜早く寝てても、朝7時には起きれなくて、

毎日朝寝坊しています。


航海堂のバイトの時間までには、間に合うように、

寝坊しているから、誰にも迷惑はかけてないけど、

気が緩みきってるせいかなぁ……


   ・   ・   ・   


今日は天気は青天で、風も南風で暖かいから、

絶好の散歩日和です。


せっかくだから、荏田川まで足を伸ばして、

桜並木を見に行きました。


さすがにまだ、お花見に来ている人もいなくて、

散歩したりジョギングしたりしてる人が、

すれ違う程度でしたが、

それでも一応、並木道を端から端まで見てきました。


桜はまだ蕾か、ほんの少しだけ咲き始めている木も、

ちょっとだけあるけど、満開になるお花見の時期は、

4月上旬くらいだと思います。


やっぱり、桜の散り際が見たいから、

4月中旬にでも見に来ようかな。


   ・   ・   ・   


この後に、ヒョウちゃんのいる御家河へと向かいました。


土手の道を、自転車で走っている時、

白い大きな車が、通り過ぎるのを見て、

一瞬、ケイゴさんの車かと思って振り向いて見たら、

別の車でした。


実は昨日、ケイゴさんに連絡してみたんです。


でも留守電になってしまって、直接話は出来ませんでした。


ケイゴさん、いつこっちに戻って来るのかなぁ。


お礼以外に聞いてみたいことがあるんだけど、

いつ聞けるかな……


そんなことを考えながら、目的の場所まで走っていきました。


絵を描いていた、いつもの場所に着くと、

いつも通りにやって来たヒョウちゃんへと、

家から持って来たご飯と水をあげました。


ヒョウちゃんは、今日は珍しくわたしに興味があるのか、

ご飯よりもわたしの顔を見上げていて、

しきりにわたしの顔を気にしながら、ご飯を食べていました。


もしかして、髪が短いからかと思ったけど、

この前に髪を短くした後にも、

何度か来ているからそれじゃないし、ご飯もいつも通りだから、

ご飯に不満があるって訳でもないと思うけど、

どうしたんだろう……


まぁ、いいか。


わたしは、ヒョウちゃんの背中を撫でながら、

河の方を眺めていました。


   ・   ・   ・   


今日はなんとなく、父からの手紙を見れそうな気がして、

いつもは学校のカバンに入れていた手紙を、

トートバッグに入れて、持ってきていました。


父はわたしに、最後に何を伝えようとしたのか、

これを読めば判るはずで、

絵を消してしまった理由もきっとここに書かれている、

それは間違いないと思っています。


わたしが手紙を手にしたら、

ヒョウちゃんは手紙に関心を示していて、

ご飯を食べるのもやめて、じっと手紙を見ていました。


威嚇以外で1ヶ所を見ているって、

普通に元気な時のヒョウちゃんでは、

あまり見たことない気がします。


そんなヒョウちゃんを見た後に、

わたしは手紙の封を開けようとして、

視線をヒョウちゃんから手元の手紙へと移した時、

すごい眠気と同時に目の前が暗くなって、

座っていたのに、立ち眩みのような眩暈がしました。


あ、これは眠いんじゃないんだ、

それになんか頭の中で、音がしたような、

なんだろう、これ。


この時、手紙を落としたのが判ったけど、

指を動かすことすら出来ず、

手からすり抜けていくのを感じました。


でも手紙の心配をしている余裕はなくて、

この後真っ暗になった途端に、

今までの出来事が、色々と浮かんできたんです。


これって、もしかして、走馬灯……?


その中にずっと忘れていたことが、ひとつ入っていました。


それは八二先生に、精密検査を受けろって言われていたことです。


今それを思い出したけど、少し遅かったみたい……


   ・   ・   ・   


よくよく考えれば、門埜さんが頭蓋骨に線上骨折だっけ、

多分頭の骨にひびが入ったんだと思うんだけど、

それだけのすごい衝撃があったんだから、

わたしの方だけ無事ってことはないよね。


色々あってすっかり忘れてたけど、

これって、自業自得なのかなぁ。


そういえばなつめのメールに、門埜さんたちのことだったけど、

因果応報って書いてあった……


忍さんとは、気にしないって約束したけど、

門埜さんを最後に追い込んだのがわたしなのは、

やっばり、変えられない事実なのかも知れない。


それは、どんな理由があったとしても、

追い詰めた罰を受けないといけないのかも。


門埜さんのお兄さんは、忍さんに半殺しにされた。


忍さんは、交通事故で司さんを失った。


わたしは、周りの誰も失わずに済んだけど、

伸ばしていた髪を失った。


でも、代償はこれだけじゃ足りなかったのかも知れない。


やっとこれから、平和な学生生活が過ごせるって、

期待してたんだけど、そんなに世の中甘くないみたいです。


これは、門埜さんを酷い目に遭わせた、天罰……


そんなことを考えながら、わたしは意識を失いました……




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