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2010年  3月 その2

変更履歴

2011/03/22 記述統一 一所懸命 → 一生懸命

2011/04/05 誤植修正 伺う → 窺う

2011/04/08 記述追加 榊さんは診察の間、~ → 追加

2011/04/08 記述修正 その後、榊さんが、 → その後、入れ違いに入って来た榊さんが、

2011/04/10 記述統一 1年生、(中学)2年、高校3年 → 一年生、二年、高校三年

2011/05/29 記述統一 一つ、二つ、三つ → 1つ、2つ、3つ

2011/06/23 誤植修正 初め → 始め

2011/07/24 記述統一 一人、二人、三人 → 1人、2人、3人

2012/05/26 記述統一 エレベータ → エレベーター

2013/05/16 誤植修正 様態の急変するリスクよりも → 容態の急変するリスクよりも

2013/05/16 誤植修正 直すからってっ言ったよね? → 直すからって言ったよね?

2013/05/16 誤植修正 唯じゃ済まさないから! → 只じゃ済まさないから!

2013/05/16 句読点調整

2013/05/16 改行調整

2013/05/16 区切り行追加

2013/05/16 記述統一 友だち → 友達

2013/05/16 記述統一 一人っ子 → ひとりっ子

2013/05/16 記述移動 ついに、運命の日がやってきました。

2013/05/16 記述修正 運命の日がやってきました。 → 運命の日がやってきました……

2013/05/16 記述分割 その翌日になるとのことで、 → その翌日になると言われました。

2013/05/16 記述修正 それが今日です → そしてそれが、今日なんです

2013/05/16 記述削除 こちらの準備は、出来ているけど、

2013/05/16 記述修正 わたしの方は、大丈夫かどうかの → それは計画実行の

2013/05/16 記述結合 最後の確認でした。 → 最終確認で、

2013/05/16 記述修正 わたしは大丈夫です、と答えて → それに対してわたしは大丈夫と答えて

2013/05/16 記述追加 でも、まだ迷いは少しだけ残っていて、

2013/05/16 記述追加 その返事をする時、一瞬戸惑ってしまったけど、

2013/05/16 記述追加 やるって言ったんだから、もう後には引けません。

2013/05/16 記述追加 電話の後は、午前中に家事を済ませてから、

2013/05/16 記述結合 入り口の脇に止まっていました。 → 入り口の脇に止まっているのが見えて、

2013/05/16 記述修正 準備の1つなのかな → 準備の1つなのか

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんのマンションでは → エレベーターの最上階で降りると

2013/05/16 記述修正 玄関で汐月さんが → 玄関のドアの前で、汐月さんが

2013/05/16 記述修正 険しい表情をしていました → 険しい表情をしてましたね

2013/05/16 記述修正 容態の急変するリスクよりも → 容態が急変するリスクよりも

2013/05/16 記述修正 明日には新しい治療計画に入ってしまい → 明日からは新しい治療計画に入ってしまうので

2013/05/16 記述修正 これまで以上に一時退院どころか → 一時退院どころか

2013/05/16 記述修正 面会も難しくなるそうで → 面会も難しくなるから

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんの部屋の前に着くと → やがて、なつめちゃんの部屋の前に着くと

2013/05/16 記述追加 いよいよこれからだけど、ここまで来てもまだ、

2013/05/16 記述追加 今からでもやめた方が良いのではないかって思いが、

2013/05/16 記述追加 湧き上がってきて、とても不安です……

2013/05/16 記述追加 でも、もうやるしかないんだ。

2013/05/16 記述修正 今までと同じだけど、これからのことを考えて → これからのことを考えて

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんの体には、器械や点滴とか → 器械や点滴などが

2013/05/16 記述修正 つながっていない状態になっていました → 繋がっていない状態でした

2013/05/16 記述結合 今までよりも強くお人形じみて見えました。 → 今までよりも強くお人形じみて見えて、

2013/05/16 記述修正 間違いなくなつめちゃんのはずなのに → なつめちゃんのはずなのに

2013/05/16 記述修正 この度合いは上がっているんだ → それは間違いなく強くなっている……

2013/05/16 記述追加 何故かそこにいるのは、間違いなくなつめちゃんのはずなのに、

2013/05/16 記述追加 そっくりな他人なんじゃないかと感じたんです……

2013/05/16 記述追加 この、お人形みたいに見えるという感覚が、

2013/05/16 記述追加 本来のなつめちゃんから、よくない方向に変わった証で、

2013/05/16 記述修正 たくさんあるんだよ → たくさんあるの

2013/05/16 記述修正 病室に置いてきたけど、ずっとねえ → 病室に置いてきたけど

2013/05/16 記述修正 いつも通りに → いつも通り

2013/05/16 記述結合 それをなつめちゃんは気づいたようです。 → それに気づいたなつめちゃんの、

2013/05/16 記述修正 笑顔だった、なつめちゃんの表情は → 笑顔だった表情は

2013/05/16 記述結合 わたしは、なつめちゃんを呼びました。 → わたしはまず最初に、なつめちゃんの名前を呼びました、

2013/05/16 記述追加 ずっと避けていた、昔の呼び方で。

2013/05/16 記述修正 なつめちゃん、と。 → 「なつめちゃん」

2013/05/16 記述修正 わたしの言葉を聞いて → わたしの言葉を聞いた

2013/05/16 記述修正 不安な表情から大きく目を見開いて → 不安な表情から一転して、大きく目を見開いた

2013/05/16 記述修正 動揺しているのが分かりました → 明らかに動揺しているのが分かりました

2013/05/16 記述修正 なつめちゃん。 → 「なつめちゃん」

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんにとって → なつめちゃんにとっては

2013/05/16 記述修正 気分的に嫌だと思っているとか、その程度のことではないのが → 気分的に嫌だと思っている程度のことではないのが

2013/05/16 記述修正 良く分かりました → 改めてよく分かりました

2013/05/16 記述修正 自分の味方だと思っていたものに → 自分の味方だと思っていた相手に

2013/05/16 記述修正 裏切られた衝撃を受けて → 裏切られた衝撃で

2013/05/16 記述修正 焦点は定まらなくなって → 焦点は定まらず

2013/05/16 記述修正 わたしはさらに、 → わたしはさらに――

2013/05/16 記述修正 と、名前を呼ぶと → また名前を呼ぶと

2013/05/16 記述修正 何でも言うこと聞くから → 何でも言う事聞くから

2013/05/16 記述修正 だから―― → だから……

2013/05/16 記述修正 もう一度、 → もう一度――

2013/05/16 記述修正 と、名前を呼ぶと → 繰り返して名前を呼ぶと

2013/05/16 記述修正 私の嫌がることするの!? → 私の嫌がる事するの!?

2013/05/16 記述修正 ひどいことしないで → 酷い事しないで

2013/05/16 記述修正 啜り泣く声へと変りました → 啜り泣く声へと変わっていきます

2013/05/16 記述修正 これは夢なんじゃないかとさえ思えてきました → 実は全部夢なんじゃないかとさえ思えてきます

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんを、生かす為にいるのでもない → わたしの人生は、なつめちゃんを生かす為にあるのでもない

2013/05/16 記述追加 わたしは意を決して、

2013/05/16 記述追加 なつめちゃんへと話しかけ始めました……

2013/05/16 記述修正 さっき → 「さっき

2013/05/16 記述修正 あなたは仁科さん → あなたは『仁科さん』

2013/05/16 記述修正 なつめちゃん → 『なつめちゃん』

2013/05/16 記述修正 まず正しい名前で呼ばせてよ → まず正しい呼び名で呼ばせてよ

2013/05/16 記述修正 親友なんかじゃないよ。 → 親友なんかじゃないよ」

2013/05/16 記述修正 と、わたしが言うと → そうわたしが言うと

2013/05/16 記述修正 すすり泣き続けていました → 啜り泣き続けていました

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんは → 「なつめちゃんは

2013/05/16 記述修正 なつめちゃん →なつめちゃんはさあ

2013/05/16 記述修正 両親に生かされていた、とか言ったけど → 両親に生かされていたって言ったけど

2013/05/16 記述修正 経済的な理由とかで、助かるはずの人とかも → 経済的な理由で、助かるはずの人だって

2013/05/16 記述修正 目をかけてくれているご両親や → 目をかけてくれている両親や

2013/05/16 記述移動 さあ、直してよ、なつめちゃん。

2013/05/16 記述修正 なつめちゃん。 → なつめちゃん」

2013/05/16 記述結合 ちゃんと教えたんだからさ。 →  ちゃんと教えたんだからさ、

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんのすすり泣きは → なつめちゃんの啜り泣きは

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんからは → でもなつめちゃんからは

2013/05/16 記述修正 なんで何も答えてくれないのかな → 「どうして何も答えてくれないのかな

2013/05/16 記述修正 なんか言ったらどうなの! → なんか言ったらどうなの!」

2013/05/16 記述修正 わたしは → それを聞いたわたしは

2013/05/16 記述修正 声が小さくって → 「え? 何? 声が小さくって

2013/05/16 記述修正 はっきり答えてくれない? → はっきり答えてくれない?」

2013/05/16 記述修正 それって → 「はぁ? それって

2013/05/16 記述修正 何をえらそうに、言ってるの? → 何を偉そうに、言ってるの?」

2013/05/16 記述修正 息がかかるほど近くに → 息がかかるほど近くまで

2013/05/16 記述修正 そんなだから、陰で、仁科のお姫様 → 「そんなだから、陰で、『仁科のお姫様』

2013/05/16 記述修正 な・つ・め・ちゃ・ん。 → な・つ・め・ちゃ・ん」

2013/05/16 記述分割 なつめちゃんは、発作とは違う感じで体を震わせて、 → そしたら、なつめちゃんは―― 発作とは違う感じで体を震わせながら――

2013/05/16 記述移動 そしたら、なつめちゃんは――

2013/05/16 記述修正 相変わらずのトーンでつぶやきました。 → 相変わらずのトーンでつぶやいて――

2013/05/16 記述修正 なにも → ……なんにも

2013/05/16 記述移動 相変わらずのトーンでつぶやいて――

2013/05/16 記述移動 その言葉は、途切れ途切れに、

2013/05/16 記述修正 途切れ途切れに、 → 途切れ途切れに――

2013/05/16 記述分割 何かを堪えるように、少しずつ、発せられました。 → 何かを堪えながら―― 搾り出すように―― 少しずつ―― 発せられ―― そして――

2013/05/16 記述移動 何かを堪えながらに――

2013/05/16 記述移動 搾り出すように――

2013/05/16 記述移動 少しずつ――

2013/05/16 記述移動 発せられ――

2013/05/16 記述修正 するんじゃねぇよ! → しないでよ!

2013/05/16 記述修正 わたしに対して → わたしへと

2013/05/16 記述修正 不意をつかれて、勢い良くベッドの後ろに倒されて → 不意をつかれて、勢い良く後ろに突き倒されて

2013/05/16 記述結合 なつめちゃんに、馬乗りにされました。 → その直後、掛け布団ごとなつめちゃんに馬乗りされてしまい

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんは、わたしが掛け布団に挟まれて → わたしが掛け布団に挟まれて

2013/05/16 記述修正 めちゃくちゃに叩いてきました → めちゃくちゃに叩きまくっていました

2013/05/16 記述修正 こっちを睨んでいる → そうしながらこっちを睨んでいる

2013/05/16 記述修正 もう逆上してしまって → すっかり

2013/05/16 記述修正 感情に任せてわたしを叩き続ける → 爆発した感情に任せてわたしを叩き続ける

2013/05/16 記述修正 思いっきり引っぱたきました。 → 思いっきり引っぱたき――

2013/05/16 記述修正 馬乗りの状態から逃れると → 馬乗りの状態から逃れた後

2013/05/16 記述修正 今度はこっちから、なつめちゃんを押さえ込もうと → 今度はこっちが押さえ込もうと

2013/05/16 記述修正 両足で、落ちかけている掛け布団ごと → 落ちかけている掛け布団ごと、両足で

2013/05/16 記述修正 押さえ込みました。 → 押さえ込み――

2013/05/16 記述結合 わたしを叩いてきました。 → わたしを叩いてきたので、

2013/05/16 記述修正 何度か引っ叩きました → さらに何度も引っ叩き――

2013/05/16 記述修正 しばらく2人して → こうして互いに

2013/05/16 記述修正 体力がなくなってきて → 体力がなくなってきたらしく

2013/05/16 記述修正 腕も上がらなくなって → 腕も上げられなくなってしまい

2013/05/16 記述修正 わたしの方に倒れてきました。 → わたしの方に倒れてきて――

2013/05/16 記述修正 わたしは、それを受け止め損ねて → それを受け止め損ねたわたしは

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんは → それでもなつめちゃんは

2013/05/16 記述修正 放せ! → 放してよ!

2013/05/16 記述修正 とか、叫んでいたので → なんて、弱々しく叫んでいたので

2013/05/16 記述修正 わたしは、うるさい、黙れ! → わたしは

2013/05/16 記述修正 と言って、さっきのお返しに → さっきのお返しに

2013/05/16 記述修正 頭突きしておきました。 → 頭突きしたんですが……

2013/05/16 記述修正 私を誰だと思ってんの! → 私を誰だと思ってるの!

2013/05/16 記述削除 黙れって言ってんでしょ!

2013/05/16 記述結合 と言って、さっきとは別の場所に頭突きしました。 → さっきとは別の場所に、もう1回頭突きしたら、

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんは大人しくなりました。 → なつめちゃんは大人しくなりました……

2013/05/16 記述修正 わかったから → 分かった

2013/05/16 記述修正 手の力を、緩めてよ → 放してよ

2013/05/16 記述修正 腕が痛いし、息苦しい → 肩と腕が痛い

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんの言葉のトーンが → そう言ってきた、なつめちゃんの言葉のトーンが

2013/05/16 記述結合 わたしは、手の力を緩めました。 → わたしが手の力を緩めると、

2013/05/16 記述修正 大きな溜息を吐いて → 大きな溜息を吐いてから

2013/05/16 記述修正 わたしに抱き止められたままの姿勢で → わたしに抱き止められた姿勢のまま

2013/05/16 記述修正 こんなに怒ったのも → こんなに怒ったり

2013/05/16 記述修正 こんなに暴れたのも → 暴れたりしたのも

2013/05/16 記述修正 こんなに誰かを叩いたのも → 誰かを叩いたり

2013/05/16 記述修正 こんなに誰かから叩かれたのも → 誰かから叩かれたのも

2013/05/16 記述修正 そんな負け惜しみを言う → まだそんな負け惜しみを言う

2013/05/16 記述結合 なつめちゃんに、反論しました。 → なつめちゃんを諭そうと思って、

2013/05/16 記述削除 だけど、その代わりに、

2013/05/16 記述削除 本当の親友の付き合い方が判ったでしょ?

2013/05/16 記述修正 親友ってのは、その相手と → 親友ってのは

2013/05/16 記述結合 本音と、本気で、語り合うものなんだよ。 → お互いに本気で語り合うものであって、

2013/05/16 記述修正 馴れ合うものではなくて → 馴れ合うんじゃなく

2013/05/16 記述結合 ぶつかり合うもの。 → ぶつかり合うものなんだ

2013/05/16 記述削除 これが、わたしの思う親友。

2013/05/16 記述削除 理解出来た? なつめちゃん。

2013/05/16 記述結合 ベッドに仰向けに倒れました。 → ベッドに仰向けに倒れたんですけど、

2013/05/16 記述削除 「隙あり!

2013/05/16 記述修正 また偉そうに説教したお返しだよ → また偉そうに説教したお返し!」

2013/05/16 記述修正 と言って → と言った後

2013/05/16 記述結合 鼻血出てるじゃん。 → 鼻血出てる、

2013/05/16 記述修正 それ、何とかしてよね → 早く何とかしてよね

2013/05/16 記述修正 布団とかも血まみれじゃない → 布団も血まみれじゃない

2013/05/16 記述修正 と言って、大笑いしていました → なんて言って、大笑いし始めたんです

2013/05/16 記述修正 わたしは → 頭に来たわたしは

2013/05/16 記述移動 誰がやったと思ってんだよ!

2013/05/16 記述修正 誰がやったと思ってんだよ! → これ、誰がやったと思ってんだよ!

2013/05/16 記述削除 と言って、もう一度、

2013/05/16 記述修正 さっきのわたしの悲鳴が、相当大きかったせいか → ちょうどこのタイミングで

2013/05/16 記述修正 慌てた様子で部屋に入ってきて → 慌てた様子で部屋に入ってきてしまい

2013/05/16 記述修正 様子を窺って固まっていました → 様子を窺って固まっていましたね

2013/05/16 記述修正 異様な光景に見えたのかなあ…… → 異様な光景に見えたのかなぁ……

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんの心を変える作戦は → なつめちゃんを変えさせる作戦は

2013/05/16 記述修正 汐月さんから言われていた、注意事項は → 汐月さんから言われた注意事項には

2013/05/16 記述修正 特に何もなくて → 特に何もなかったから

2013/05/16 記述削除 忍さんの意見を参考にして、

2013/05/16 記述修正 とてもひどいことを言ったなあ → とてもひどいことを言ったなぁ

2013/05/16 記述修正 思いつく限りの、ひどい言葉を言いました → 自分なりにがんばったつもりです

2013/05/16 記述修正 叩く時は、一箇所に集中させないこと → それと叩く時は、1ヶ所に集中させないこと

2013/05/16 記述追加 頬を引っ叩いたのは、汐月さんからの助言で、

2013/05/16 記述追加 顔を平手打ちすると効果的だと言われたからで、

2013/05/16 記述修正 頬を引っ叩く時も → それに叩く時だって

2013/05/16 記述修正 もみ合ってたんです → やってたんです

2013/05/16 記述修正 随分助かりました。 → それで随分助かりましたね……

2013/05/16 記述修正 なつめちゃんの方は → なつめちゃんの方はわたしとは違い

2013/05/16 記述修正 問題なしでした → 問題なしでしたね

2013/05/16 記述修正 この後 → 治療が済んでから

2013/05/16 記述修正 初めてお互い → 再会して初めて

2013/05/16 記述修正 まず、ケンカの前の話は → ケンカの前の話は

2013/05/16 記述移動 そして、ここで決まったこと、

2013/05/16 記述修正 ここで決まったこと → この時に決めたのは

2013/05/16 記述結合 お互いに一切忘れることにしました。 → お互いに一切忘れることと、

2013/05/16 記述修正 それは、なつめちゃんの呼び名を → なつめちゃんの呼び名を

2013/05/16 記述修正 ちなみにこれは、汐月さんからの入れ知恵ですけどね → ちなみにこれも、汐月さんからの入れ知恵です……

2013/05/16 記述修正 なつめ → 『なつめ』

2013/05/16 記述修正 わたしがケンカに勝ったから → さらに、わたしがケンカに勝ったから

2013/05/16 記述修正 なつめ、と呼ばれることを → そう呼ばれることを

2013/05/16 記述修正 いつか必ず、ケンカで負かしてやる → 「いつか必ず、ケンカで負かしてやる」

2013/05/16 記述削除 わたしは、なつめのその宣言に、

2013/05/16 記述削除 いつでも受けて立つ、と答えておきました。

2013/05/16 記述修正 見えました → 見えましたね

2013/05/16 記述修正 明日病院へと戻るとのことで → 明日病院へ戻るとのことで

2013/05/16 記述修正 マンションを出る時に → マンションを出る時

2013/05/16 記述修正 と言いました → と言ってきたんです

2013/05/16 記述修正 もう負けない → もう負けないから

2013/05/16 記述修正 心配だったなつめちゃん → 心配だった『なつめちゃん』

2013/05/16 記述修正 なつめ → 『なつめ』

2013/05/16 記述修正 となっていました → に変わっていましたね

2013/05/16 記述修正 これで → これからは

2013/05/16 記述修正 解決に向かうはずです → 解決に向かうと思います

2013/05/16 記述修正 祈るだけです。 → 祈るだけです……

2013/05/16 記述分割 今日が、高校一年生としての、 → 今日は、終業式でした。

2013/05/16 記述削除 最後の登校日となりました。

2013/05/16 記述修正 今日が最後の登校日です → 今日が一年生最後の登校日となりました

2013/05/16 記述追加 終業式となればもちろん、

2013/05/16 記述修正 と思って → ……と思って

2013/05/16 記述修正 さらに新記録達成でした → さらに新記録達成です

2013/05/16 記述修正 今年度いっぱいでやめて → 今年度いっぱいで辞めるとのことで

2013/05/16 記述修正 その挨拶だったんです → その挨拶でした

2013/05/16 記述修正 校長先生のことを。 → 校長先生のことを……

2013/05/16 記述分割 後は通知表を受け取って → その後教室で通知表をもらいました。

2013/05/16 記述削除 教室の荷物を抱えて、帰って来ました。

2013/05/16 記述修正 諦めて1人で帰ってきました → 仕方なく1人で学校を出ました

2013/05/16 記述修正 航海堂へは、荷物を抱えたままいくと → 荷物を抱えたまま航海堂へ行ったら

2013/05/16 記述修正 忍さんから、計画性がないね → わたしの姿を見た忍さんに、「計画性がないね」

2013/05/16 記述修正 笑われました → と笑われてしまいました

2013/05/16 記述修正 わたしは → その時ついでに

2013/05/16 記述修正 解決したと思うことを → 解決したことを

2013/05/16 記述修正 家に帰って → バイトを終えて家に帰り

2013/05/16 記述修正 まだ全てが解決した訳じゃないけど → まだ全部が片付いた訳じゃないけど

2013/05/16 記述修正 解決の方向に向かって → 解決の方向に向かったはずだし

2013/05/16 記述修正 学校も明日から春休みなんだなぁと思った途端に → 明日から春休みなんだなぁと思った途端に

2013/05/16 記述修正 急に疲れを感じました → なんだかすごく疲れを感じた気がします

2013/05/16 記述修正 今日は、何も考えないでぐっすり寝ます。 → 今日はもう、何も考えないでぐっすり寝ます……

2013/05/16 記述修正 わたしへの診察の日で → わたしの診察の日で

2013/05/16 記述修正 場所は、なつめの病室に、来てくれればいいとのことで → なつめの病室で診察すると言われていたから

2013/05/16 記述修正 いつも通りに、なつめの病室へと向かいました → 午後に病院へ行って来ました

2013/05/16 記述追加 いつも通りに車で送ってもらって、

2013/05/16 記述修正 榊さんは診察の間、談話室で待っていると言い残して → 榊さんに病室の手前までついて来てもらってから

2013/05/16 記述結合 なつめの病室の前で別れました。 → 病室に入ると、

2013/05/16 記述修正 病室には、なつめの姿はなくて → 部屋の中には、なつめの姿はなく

2013/05/16 記述結合 白衣姿の汐月さんが待っていました。 → その代わりに白衣姿の汐月さんが待っていて、

2013/05/16 記述修正 そして、わたしの外傷の確認と → わたしの外傷の確認と

2013/05/16 記述修正 わたしの外傷の確認と → そして、わたしの外傷の確認と

2013/05/16 記述削除 今のなつめのことを、話してくれました。

2013/05/16 記述修正 なつめは、別室で新治療に入っているそうで → 別室で新治療に入っているなつめの話になり

2013/05/16 記述修正 教えてくれました → 教えてもらいました

2013/05/16 記述修正 実は前準備でしかなくって、新しい治療に耐えられるだけの → 新しい治療に耐えられるだけの

2013/05/16 記述結合 体を作っているのだそうです。 → 体を作ると言う治療に入る前段階でしかなく、

2013/05/16 記述修正 そしてその後の治療は → その後の治療は

2013/05/16 記述修正 遅くても、なつめは → 遅くても

2013/05/16 記述修正 外国へ渡るのだそうです → 外国へ渡るのだとか

2013/05/16 記述修正 わたしはそれを聞いて → これが前に

2013/05/16 記述削除 汐月さんの言っていた、

2013/05/16 記述修正 と言う訳だったのかと、理解しました → 言っていた理由だったんだ……

2013/05/16 記述修正 同じ事になってしまう → 同じ結果になってしまう

2013/05/16 記述修正 それを恐れていたんだ。 → それを恐れていたから……

2013/05/16 記述修正 結局わたしは先生に → 結局わたしは汐月さんに

2013/05/16 記述修正 メガネ、幾つ持っているんですか? → ずっと疑問に思っていた、メガネのことを

2013/05/16 記述修正 と、尋ねてみました → を、特に持っている数についてを尋ねてみました

2013/05/16 記述修正 その中から1枚取り出して → 1枚

2013/05/16 記述修正 これが私の本当の名刺 → 私の新しい名刺

2013/05/16 記述修正 その後汐月さんは、部屋から出て行こうとしていたので → 立ち上がった汐月さんへと

2013/05/16 記述移動 わたしは、これでこの人と会うのは、

2013/05/16 記述移動 最後になる予感がして、

2013/05/16 記述修正 立ち上がった汐月さんへと → 席を立った汐月さんへと

2013/05/16 記述修正 今まで色々、お世話になりました → これまでお世話になった感謝を込めて

2013/05/16 記述修正 と、頭を下げて挨拶しました → 立ち上がってから、頭を下げて挨拶しました

2013/05/16 記述修正 汐月さんは、こちらこそ、と返して → それを見て、汐月さんも、「こちらこそ」と返してから

2013/05/16 記述修正 軽く右手を上げてから → 軽く右手を上げて

2013/05/16 記述修正 つぶやいていたのが聞こえました。 → つぶやいていたのが聞こえた気がしたけど、気のせいかな……?

2013/05/16 記述修正 この後談話室で → この後は談話室で

2013/05/16 記述修正 何も言わない榊さんの方から → 何も言わない榊さんが、今日は話しかけてきて、

2013/05/16 記述修正 ……棗は変わった → ……棗は変わった、前と比べると

2013/05/16 記述修正 言うことを聞かないし → 指示に従わないし

2013/05/16 記述修正 お前のおかげだ → お前がやった事の成果だ

2013/05/16 記述修正 榊さんとももう会えないのかなと → 榊さんとも会えなくなるのかと

2013/05/16 記述修正 最後になるだろう → 最後になる

2013/05/16 記述修正 それは、俺じゃなくて、棗と会えなくなることを心配しろ → 「そこは、俺じゃなくて、棗と会えなくなる方を心配しろ」

2013/05/16 記述修正 と怒られました。 → と怒られてしまいました……

2013/05/16 記述修正 わたしは、筋違いかも知れないけど → 最後に、これは筋違いかも知れないけど

2013/05/16 記述修正 なつめを宜しくお願いします → わたしから、なつめを宜しくお願いしますって

2013/05/16 記述修正 と、お願いすると榊さんは → 伝えたら、榊さんは

2013/05/16 記述修正 言ってくれました。 → 言ってくれました!

2013/05/16 記述修正 わたしは生まれて初めてもらった → 帰宅して夕飯を済ませた後、今日もらった

2013/05/16 記述修正 2枚の名刺を、机の引き出しにしまいました → 名刺と前の名刺を見比べてみたんです

2013/05/16 記述修正 その時に、名刺の肩書きを良く見ると → そしたら

2013/05/16 記述修正 国立精神・神経医療研究センター → 『国立精神・神経医療研究センター

2013/05/16 記述修正 精神発達研究室長 → 精神発達研究室長』

2013/05/16 記述修正 キャラ変わるところとか、びっくりしたなあ。 → キャラ変わるところとかも……

2013/05/16 記述修正 ほんとにびっくりしました → 本当に驚きましたね

2013/05/16 記述修正 それと、なつめのことも、驚きました → でもそれよりもショックなのは、なつめのことです

2013/05/16 記述修正 来月に、なつめは遠くへ行ってしまう。 → 来月には、なつめが遠くへ行ってしまうなんて……

2013/05/16 記述修正 それは寂しいけど、元気になる為なんだし → それはとても寂しいけど、でも元気になる為なんだし

2013/05/16 記述修正 最後は元気に明るく見送ろう → 最後は元気に明るく見送らないと

2013/05/16 記述修正 絶対に泣かないようにしよう。 → その時は、絶対に泣かないようにしなくちゃ……

2013/05/16 記述削除 思いました。

2013/05/16 記述移動 今日で、高校一年が終わって、

2013/05/16 記述修正 昔の友達とも再会しました。 → 昔の友達とも再会しました……

2013/05/16 記述修正 本当の自分の望みを見失って → 本当の自分の望みが判らなくなって

2013/05/16 記述修正 1人でがんばってます → 1人でがんばっています

2013/05/16 記述修正 違うタイプの人とかと → 違うタイプの人たちと

2013/05/16 記述修正 わたしからも、聞かないことにしています → わたしからは、何も訊かないことにしています

2013/05/16 記述修正 それでいいから。 → それでいいから……

2013/05/16 記述修正 全てを他人のせいにして → 全てを他人のせいにしてばかりで

2013/05/16 記述修正 あのケンカ後では → あのケンカの後では

2013/05/16 記述結合 わたしをライバル視しているのは、

2013/05/16 記述結合 なつめなりの、照れ隠しだと思います……

2013/05/16 記述修正 目指す目的を見つけて、それに向かって → 新たな目標に向かって

2013/05/16 記述修正 良かったと思ってもらえればいいな、と思います → 良かったと思ってもらえたら嬉しいです

2013/05/16 記述修正 お兄さんとか、お姉さんとかいる友達が → 年上のの兄弟がいる友達が

2013/05/16 記述修正 なつめは大丈夫じゃないかなと思います。 → 今のなつめだったら、きっと大丈夫……


3月25日 計画実行


ついに、運命の日がやってきました……


おとといに汐月さんから、なつめちゃんを、

一時退院させる日が決まったと連絡があって、

わたしが、なつめちゃんの所に行くのは、

その翌日になると言われました。


そしてそれが、今日なんです。


今朝も、汐月さんから連絡があって、

それは計画実行の最終確認で、それに対してわたしは、

大丈夫と答えて電話を切りました。


でも、まだ迷いは少しだけ残っていて、

その返事をする時、一瞬戸惑ってしまったけど、

やるって言ったんだから、もう後には引けません。


電話の後は、午前中に家事を済ませてから、

汐月さんから指定のあった、午後に到着するように、

お昼くらいに、家を出ました。


   ・   ・   ・   


駅からマンションの前に、歩いて近づいていくと、

救急車が、入り口の脇に止まっているのが見えて、

これも汐月さんの言っていた、準備の1つなのかと思いながら、

エントランスへ入りました。


エレベーターの最上階で降りると、

玄関のドアの前で、汐月さんが出迎えてくれましたが、

今までみたことがない、険しい表情をしてましたね。


汐月さんは、なつめちゃんの部屋へと案内しながら、

なつめちゃんの状況について、教えてくれました。


今のなつめちゃんは、新しい治療の直後というのもあって、

精神的には、かなり不安定になっているそうで、

これは、危険な状態になる可能性も高いけど、

容態が急変するリスクよりも、

この治療の成果が出る可能性を、優先したそうです。


今日を逃すと、明日からは新しい治療計画に入ってしまうので、

そうなると、一時退院どころか面会も難しくなるから、

何としても今日、けりをつけなければならないと、

深刻そうに汐月さんはわたしに告げました。


やがて、なつめちゃんの部屋の前に着くと、

汐月さんは最後に、問題が発生した時には、

前に教えたスイッチを押すようにと告げて、

別の部屋へと入っていきました。


いよいよこれからだけど、ここまで来てもまだ、

今からでもやめた方が良いのではないかって思いが、

湧き上がってきて、とても不安です……


でも、もうやるしかないんだ。


わたしは、一度深呼吸をしてから、

覚悟を決めて、部屋に入りました。


   ・   ・   ・   


ベッドで横になっているなつめちゃんは、

これからのことを考えて、器械や点滴などが、

一切、繋がっていない状態でした。


ずっと会えなかったせいなのか、

すがるような表情をして、こっちを見ているなつめちゃんは、

わたしには、今までよりも強くお人形じみて見えて、

何故かそこにいるのは、なつめちゃんのはずなのに、

そっくりな他人なんじゃないかと感じたんです……


やっぱり、会う回数が増えて、親しくするたびに、

それは間違いなく強くなっている……


この、お人形みたいに見えるという感覚が、

本来のなつめちゃんから、よくない方向に変わった証で、

今までわたしが、なつめちゃんの為と思ってしてきたことも、

結果的には、なつめちゃんの状態を、悪くしていたんだ。


この事実を今はっきりと目にして、

わたしの中の、最後の最後まであった迷いは消えました。


今日わたしは、本当の意味でなつめちゃんを助けるんだ!


「みな、久しぶりだね、

 やっと、話が出来る。

 話したいことが、たくさんあるの。

 あのね、みなからもらった、

 クマの名前なんだけど、

 私、考えたんだ。

 今回は、一時退院だから、

 ここには持って帰ってきてなくて、

 病室に置いてきたけど、

 ねえ? あの、みな?

 どうしたの?

 なんか、怖い顔、してるよ?」


なつめちゃんはいつも通り、

小さな子が母親に甘えるように、わたしへと話しかけてきたけど、

わたしはそれに答える気はなくて、

その気持ちが表情に出てしまい、

それに気づいたなつめちゃんの、笑顔だった表情は、

たちまち不安げに曇っていきました。


それを見ているのも、心苦しさを感じたけど、

これから先は、そんなレベルじゃない。


でも、やらなくちゃいけない。


わたしはまず最初に、なつめちゃんの名前を呼びました、

ずっと避けていた昔の呼び方で。


「なつめちゃん」


わたしの言葉を聞いたなつめちゃんは、

不安な表情から一転して、大きく目を見開いた驚いた顔になって、

明らかに動揺しているのが分かりました。


「みな、ど、どうしたの?

 その呼び方、前にやめてって、た、頼んだでしょ?

 分かって、く、くれて、いたんじゃないの?

 わ、私は、それを聞きたくないって、

 私の昔の話だって、き、聞いてくれたじゃない。

 なのに、な、何でその――」


「なつめちゃん」


わたしはもう一度、なつめちゃんの話を遮って、

どうしても、なつめちゃんが許さなかった、

その呼び方を繰り返しました。


だんだんと、青ざめていく顔色を見て、

この呼ばれ方が、なつめちゃんにとっては、

気分的に嫌だと思っている程度のことではないのが、

改めてよく分かりました。


なつめちゃんは、わたしがそれをやめないのを見て、

自分の味方だと思っていた相手に、裏切られた衝撃で、

すごく動揺して混乱し始めていました。


両手で自分を守るかのように、両腕を抱きしめたその体は、

目で見て分かるほどに震えていて、

私に向けられているその目も、焦点は定まらず、

まるで助けになるものを探すように、

せわしなく動いていました。


前に何度か見た、発作の前兆に似た状態になり始めた、

なつめちゃんに向かって、わたしはさらに――


「なつめちゃん」


また名前を呼ぶと、

「ねえ、み、みな。

 私、みなの気を悪くするようなことしたの?

 それが、何か分からないけど、

 ごめんね、ごめんなさい。

 教えてくれれば、私直すから、

 絶対に直すから、だから、

 許して、許して下さい。

 お願い、お願いします。

 何でも言う事聞くから、

 だから……」

と、なつめちゃんは涙ぐみながら、

わたしに懇願していました。


だけど、わたしはそれには答えないで、もう一度――


「なつめちゃん」


繰り返して名前を呼ぶと、

「みなは、私の親友でしょ!?

 どうして、私の嫌がる事するの!?

 なんで、私を苛めるの!?

 お願い!

 お願いだから、苛めないで、

 そんな、酷い事しないで、お願い……」

と叫んだ後、最後は顔を伏せて、

啜り泣く声へと変わっていきます。


この時のなつめちゃんは、もう本当に、

消えてしまいそうなくらい、打ちひしがれていて、

そうさせているのが自分なのが、現実ではないような、

実は全部夢なんじゃないかとさえ思えてきます。


でも、これは現実でした。


その証拠に、力いっぱい握り締めている手は、

爪が食い込んで、とても痛いし、

それ以上に、わたしの心はとても苦しかったから。


……でも、まだ、やめられない。


なつめちゃんは、わたしに対して親友と言った。


でも、なつめちゃんの思う親友は、

わたしの思っている、親友とは違ってる。


なつめちゃんの求める、親友っていうのは、

自分を守ってくれる存在で、

自分に何かを与えてくれる存在で、

自分の為にいる存在のことだ。


わたしは、そんなの嫌だ。


わたしは、なつめちゃんの為に生きてるんじゃないし、

わたしの人生は、なつめちゃんを生かす為にあるのでもない。


今のなつめちゃんは、わたしが親友として望んでいる、

なつめちゃんじゃない。


だから、元のなつめちゃんを取り戻させるんだ!


わたしは意を決して、

なつめちゃんへと話しかけ始めました……


「さっき、何でも言うこと聞くって言ったよね?


 じゃあ、わたしの言うこと聞いてよ、なつめちゃん


 わたしにとって、あなたは『仁科さん』じゃなくって、

 『なつめちゃん』なんだよ。


 だから、まず正しい呼び名で呼ばせてよ。


 それも許してくれなくて、何が親友なの?


 そんな、自分だけ欲しいものを求めるのは、

 親友なんかじゃないよ」


そうわたしが言うと、なつめちゃんは何も答えず、

ずっと、啜り泣き続けていました。


……まだだ、まだ。


「なつめちゃんは、自分がすごく不幸だって思っているよね?


 生まれてから、ずっと病気に苦しんできて、

 もう、死んじゃいたいって思っても、

 それも許されなかったって、言ったよね。


 でも、それって本当?


 人って、本当に死にたくなったら、

 どんな方法を使っても、死のうとするんだよ?


 本当に、追い詰められている人ってのは、

 死に方も選ばないんだよ。


 なつめちゃんはさあ、

 ベッドに縛り付けられていたって訳じゃなくって、

 自由に動けたんだよね?


 だから、わたしとも会えたんだし。


 なら、いつだって、死ねたんじゃないの?


 窓から飛び降りるとか、階段から落ちるとか、

 いくらでも思いつくと思うけど、どれか試したの?


 たぶん、何もしてないよね?


 両親に生かされていたって言ったけど、

 結局、そういう不幸な人生だったって、

 言いたかっただけでしょ?


 なつめちゃん、自分が院長先生の子供だから、

 こんなに生きていられたって言ってたけど、

 それは、周りの人たちがなつめちゃんを助けようと、

 努力し続けていたからだよね?


 それなのに、自分は生きたくもないのに生かされてきただとか、

 医者や看護師は、父親が怖くてやっていただけだとか、

 よくそんなこと言えるね。


 世の中には、必死に努力しても助からない人や、

 経済的な理由で、助かるはずの人だって、

 亡くなっていたりするんだよ。


 なつめちゃんの気持ちって、

 そういう人たちに対して、失礼だと思わない?


 一生懸命、目をかけてくれている両親や、

 治療にあたってくれてる、病院の人たちにも、

 どうして、申し訳ないって思わないで、

 そんな自分勝手なこと言えるのかな?


 ねえ、なつめちゃん、答えてよ。


 これが、わたしがなつめちゃんに対して、怒ってること。


 さっき、なつめちゃん、気を悪くしたことを、

 言ってっていったよね?


 直すからって言ったよね?


 何でもするって言ったよね?


 はい、だから言ったよ、

 なつめちゃんの態度で、気を悪くしたこと。


 ちゃんと教えたんだからさ、

 さあ、直してよ、なつめちゃん」



ここまでわたしが話すと、なつめちゃんの啜り泣きは、

いつの間にかやんでいました。


でもなつめちゃんからは、何も声は聞こえず、

何も答える気配はありません。


……まだ足りないの?


「どうして何も答えてくれないのかな、なつめちゃん。


 さっきの言葉は嘘だったの?


 なつめちゃんは、親友相手にそんな簡単に嘘つくんだ。


 そうやって、ずっと黙ってたって、だれも助けに来ないよ?


 わたしがまた慰めてくれるとか、期待してるんだったら、

 それは無駄だからね。


 わたしは、親友って呼ぶ相手に、

 嘘つかないし、シカトしたりしないよ?


 随分ひどいことするよね、なつめちゃん。


 ねえ、聞いてるの?


 いい加減、なんか言ったらどうなの!」


   ・   ・   ・   


「やめて」


わたしが怒鳴るのと同時に、

なつめちゃんは、小さくそう言いました。


……やっと来た!


それを聞いたわたしは、なつめちゃんのベッドに乗って、

両手で顔を覆ったままの、なつめちゃんの顔に、

自分の顔を近づけました。


「え? 何? 声が小さくって、聞き取れなかったんだけど、

 もっと、はっきり答えてくれない?」


わたしがもう一度聞くと、今度はすぐに、

「やめてよ」

と、明らかにさっきまでとは違う、

低いトーンの返事が、返ってきました。


……もう少しだ!


「はぁ? それって、回答になってないよ?


 わたしの言ったこと、聞いてなかったの?


 わたしは、なつめちゃんに、

 直して欲しいところを、言ったんだよ。


 その返答が、やめてってどういう意味?


 全然、答えになってないし、

 何を偉そうに、言ってるの?」


「もうやめて」


なつめちゃんは、また低いトーンでわたしに言いました。


明らかに、お願いしている言い方ではなく、

命令している口調で。


わたしは、わざとなつめちゃんに分かるように、

息がかかるほど近くまで、顔を寄せてから、

最後の言葉をかけました。


「そんなだから、陰で『仁科のお姫様』なんて、

 言われちゃうんだよ、な・つ・め・ちゃ・ん」


そしたら、なつめちゃんは――


「……なんにも」


発作とは違う感じで体を震わせながら――


「何も、知らないくせに」


相変わらずのトーンでつぶやいて――


「私の、気持ちなんて」


その言葉は、途切れ途切れに――


「分かったような」


何かを堪えるように――


「振り、してるだけで」


搾り出すように――


「全然、判ってないくせに」


少しずつ――


「偉そうに」


発せられ――


「私に、説教」


そして――


「しないでよ!」


最後の言葉を言うのと同時に、ベッドに乗って、

目の前まで体を近づけていた、わたしにへと、

とうとうなつめちゃんが、つかみかかって来ました!


そのタイミングで来るとは思わなかった、わたしは、

不意をつかれて、勢い良く後ろに突き倒されて、

その直後、掛け布団ごとなつめちゃんに馬乗りされてしまい、

わたしが掛け布団に挟まれて、手が出ないのをいいことに、

わたしの顔や頭を、めちゃくちゃに叩きまくっていました。


そうしながらこっちを睨んでいる、なつめちゃんの顔は、

今まで見たことないほど怒っていて、

すっかり我を忘れているようです。


わたしは、やっと布団から手を引き出すと、

爆発した感情に任せてわたしを叩き続ける、

なつめちゃんの手を押さえて、こちらも反撃に出ました。


つかんだ腕を引っ張って、こちらに顔を近づけてから、

なつめちゃんの頬を、思いっきり引っぱたき――


それでひるんだなつめちゃんを突き倒して、

馬乗りの状態から逃れた後、

今度はこっちが押さえ込もうと、体を近づけたら、

なつめちゃんは、落ちかけている掛け布団ごと、

両足でわたしを蹴り飛ばしてきて、

わたしはまた、後ろに倒されそうになったけど、

なんとか、暴れるなつめちゃんの両足を、押さえ込み――


その間に、上半身を起こしたなつめちゃんは

両手を振り回して、手当たり次第にわたしを叩いてきたので、

わたしはその手を払って抑えながら、

なつめちゃんの頬を、さらに何度も引っ叩き――


こうして互いに叩き合っていると、

なつめちゃんは、体力がなくなってきたらしく、

反撃してくる力も落ちてきて、

やがて、腕も上げられなくなってしまい、

わたしの方に倒れてきて――


それを受け止め損ねたわたしは、

思いっきり、鼻を頭突きされてしまい、

鼻血が出てきたのが分かったけど、

それをどうにかする余裕はなくて、

鼻血を垂らしながら、なつめちゃんを抱き止めました。


それでもなつめちゃんは、まだ抵抗して、

「放してよ!」

なんて、弱々しく叫んでいたので、

わたしは、さっきのお返しに、

なつめちゃんの頭に、頭突きしたんですが……


「痛い!」


「何すんの!」


「信じられない!」


「私を誰だと思ってるの!」


「只じゃ済まさないから!」


まだまだ、なつめちゃんは静かにしないので、

さっきとは別の場所に、もう1回頭突きしたら、

これでやっと、なつめちゃんは大人しくなりました……


   ・   ・   ・   


「……みな、もう、分かった。

 もう暴れないから、放してよ。

 肩と腕が痛い」


そう言ってきた、なつめちゃんの言葉のトーンが、

さっきよりも落ち着いているのを確認して、手の力を緩めると、

なつめちゃんは大きな溜息を吐いてから、

わたしに抱き止められた姿勢のまま、

耳元でつぶやき始めました。


「こんなに怒ったり、暴れたりしたのも、

 誰かを叩いたり、誰かから叩かれたのも、

 生まれて、初めてだよ。


 あーあ、思いっきり引っ叩かれたから、

 きっとこれ、あざになるよ。

 私の体質、分かってんでしょ。


 もう、一生直らないかも知れない、

 どうしてくれるの、みな。

 責任取ってもらうから」


わたしは、まだそんな負け惜しみを言う、

なつめちゃんを諭そうと思って、

親友ってのは、お互いに本気で語り合うものであって、

馴れ合うんじゃなく、ぶつかり合うものなんだと伝えると、

なつめちゃんは、

「分かったよ、よーく分かったよ。

 嫌って言うほど分かったよ!」


と耳元なのに、大声で叫んでから、

わたしの耳に噛み付きました!


あまりの痛さに、思わず悲鳴を上げて、

それと同時に手を離したから、

なつめちゃんは、ベッドに仰向けに倒れたんですけど、

「やられたまんまじゃ、嫌だからね。

 また偉そうに説教したお返し!」

と言った後、倒れたなつめちゃんはわたしの顔を見て、

「みな、鼻血出てる、早く何とかしてよね、

 布団も血まみれじゃない。

 それにしても、何その間抜けな顔」

なんて言って、大笑いし始めたんです。


これ、誰がやったと思ってんだよ!


頭に来たわたしは、今度はなつめちゃんのおでこに、

頭突きしときました。


ちょうどこのタイミングで、汐月さんが、

慌てた様子で部屋に入ってきてしまい、

「大丈夫!?」

と言ったまま、様子を窺って固まっていましたね。


ベッドに仰向けに寝ていて、

額を押さえて、呻いているなつめちゃんと、

なつめちゃんの、太ももの上に馬乗りになって、

鼻血を流しているわたし。


ケンカになるとは知らせてあったけど、

やっぱり、異様な光景に見えたのかなぁ……


   ・   ・   ・   


こうして、わたしの考えた、

なつめちゃんを変えさせる作戦は、

一応、成功に終わりました。


わたしが、これを相談した時に、

汐月さんから言われた注意事項には、

なつめちゃんを、言葉で追い詰めるところは、

特に何もなかったから、わたしの思うままに喋りました。


我ながら、とてもひどいことを言ったなぁと思ったけど、

あれくらい追い詰めないと、なつめちゃんはわたしに対して、

本気で怒らないかと思って、自分なりにがんばったつもりです。


ケンカについては、なつめちゃんの胸とお腹には、

絶対に叩いたり、圧力を加えないことと、

床への転倒を避ける為、ベッドから出ないことと、

立ち上がらせないこと、それと叩く時は、

1ヶ所に集中させないことでした。


頬を引っ叩いたのは、汐月さんからの助言で、

顔を平手打ちすると効果的だと言われたからで、

それに叩く時だって、出来るだけ左右に分けたり、

ちょっと位置をずらしたりして、

色々気を使いながら、やってたんです。


ケンカ慣れしてないのもあって、かなり大変でしたが、

かなとの件でちょっとだけ経験していたから、

それで随分助かりましたね……


   ・   ・   ・   


この後、わたしとなつめちゃんは、

汐月さんの診察を受けました。


わたしは、もう鼻血は止まりかけていたけど、

一応鼻にガーゼを詰められて、

後はなつめちゃんが叩いたり、引っかいたりした傷と、

噛み付かれた耳たぶを、治療してもらいました。


なつめちゃんの方はわたしとは違い、

体に影響が出ていないかを、慎重に診ていましたが、

わたしが頭突きしたところと、叩いた頬を冷やす程度で、

それ以外は、問題なしでしたね。


治療が済んでから、わたしはなつめちゃんと、

再会して初めて、本音で話をしました。


そして、この時に決めたのは、

ケンカの前の話は、お互いに一切忘れることと、

なつめちゃんの呼び名を『なつめ』にすることでした。


さらに、わたしがケンカに勝ったから、

何でも1つだけ言うことを聞くと言うので、

わたしは、わたしだけじゃなくて、

周りからもそう呼ばれることを、拒否するのを禁じました。


これは、ケンカに負けた代償だから、

守らざるを得ない、その敗北感の屈辱が、

なつめの心の中にある、この名で呼ばれることの記憶を、

塗り替えていってくれることを期待してです。


ちなみにこれも、汐月さんからの入れ知恵です……


それとなつめは、今日からわたしのことを、

ライバルとみなすそうで、

「いつか必ず、ケンカで負かしてやる」

と、宣言していました。


この時のなつめは、今までのお人形みたいな感じや、

消えちゃいそうな弱々しさはなく、

目にも力があって、むしろわたしに負けた悔しさで、

逆に生き生きとしているように見えましたね。


   ・   ・   ・   


窓の外を見ると、もう夕暮れになっていて、

いつの間にか、随分時間が経っていました。


なつめは、明日病院へ戻るとのことで、

今日は色々支度もあるだろうし、

わたしも明日は、登校日だから、

これで帰ることにしました。


マンションを出る時、なつめはエレベーターの前まで、

見送りに出て来て、右手を差し出してくると、

「みな、最後に握手」

と言ってきたんです。


わたしは頷いてその手をつかむと、なつめは、

「本当にありがとう。

 それと、もう負けないから」

と短く言って、つかんだわたしの手を握り締めました。


わたしを真っ直ぐに見つめる、と言うよりも、

挑むように睨みつける、なつめからは、

もう、心配だった『なつめちゃん』ではなく、

何かをつかんでくれた『なつめ』に変わっていましたね。


それを感じたわたしは、なつめに頷き返してから、

家に帰って来ました。


   ・   ・   ・   


なつめには、わたしの思いも伝わったはずだし、

これからは、周囲の人への接し方も変わっていくはずです。


これで、一番の気がかりなことは、解決に向かうと思います。


後はなつめが、持病に打ち勝ってくれることを、

祈るだけです……




3月26日 終業式


今日は、終業式でした。


補習は無事に逃れられたので、

本当に、今日が一年生最後の登校日となりました。


   ・   ・   ・   


終業式となればもちろん、

もう恒例とも言える、校長先生の話です。


なつめにもらった、腕時計を睨みながら、

話し始めを待ち構えて、話が始まると同時に、

校長先生を、凝視していました。


がんばって、校長先生!


一年最後に新記録を!


……と思って、見ていたら、

思わぬ話の内容で、さらに新記録達成です。


校長先生は、今年度いっぱいで辞めるとのことで、

今日はその挨拶でした。


でもって、時間は、それこそ有終の美なのでしょう、

1分ジャストでした!


もうわたしからは、何も言うことはありません。


校長先生、最後に素晴らしい記録をありがとう。


言われた話は、何1つ覚えていないけど、

わたしは、一生忘れません、

すっごく話の短い、校長先生のことを……


   ・   ・   ・   


こうして終業式は終わり、

その後教室で通知表をもらいました。


成績の方は、予想よりは点が低かったけど、

なつめに教えてもらう前と比べれば、

前回上がった成績も、半分くらいは維持出来てたから、

わたしとしては、上出来です。


出来れば、なつめと一緒に帰りたかったけど、

こればっかりは、どうしようもないから、

仕方なく1人で学校を出ました。


荷物を抱えたまま航海堂へ行ったら、

わたしの姿を見た忍さんに、

「計画性がないね」

と笑われてしまいました。


その時ついでに、相談に乗ってもらったなつめの件が、

解決したことを、忍さんに報告しておきました。


バイトを終えて家に帰り、荷物を置いて座ると、

まだ全部が片付いた訳じゃないけど、

なつめのことも、解決の方向に向かったはずだし、

試験も無事に終わって、

明日から春休みなんだなぁ、と思った途端に、

今まで張り詰めていたものが切れたみたいに、

なんだかすごく、疲れを感じた気がしましたね。


今日はもう、何も考えないでぐっすり寝ます……




3月30日 汐月さん


今日は、汐月さんから言われていた診察の日で、

なつめの病室で診察すると言われていたから、

午後に病院へ行って来ました。


いつも通りに車で送ってもらって、

榊さんに病室の手前までついて来てもらってから、

ひとりで病室に入ると、部屋の中にはなつめの姿はなく、

その代わりに白衣姿の汐月さんが待っていて、

わたしの外傷の確認と、問診による心理的な後遺症の確認の後、

別室で新治療に入っているなつめの話になり、

そこから出るのは、4月の中旬になりそうだと、

教えてもらいました。


さらに、今やっているその新治療と言うのは、

新しい治療に耐えられるだけの、体を作ると言う、

治療に入る前段階でしかなく、

その後の治療は、また海外で行うのだそうで、

遅くても4月末には外国へ渡るのだとか。


これが前に、3月中にしないといけない、

と言っていた理由だったんだ……


なつめの心を、変えてからでなければ、

この新しい治療は失敗して、前に海外で治療した時と、

同じ結果になってしまう。


もし今回、そうなってしまったら、

前回とは違い、もうなつめの心を支えるものはなくて、

本当に危険な状態になりかねない、それを恐れていたから……


それがわたしにも判って、改めて汐月さんを見ると、

「色々とあったけど、結果的には全て上手くいって良かった、

 これも貴方のおかげです、三崎さん。

 なかなか貴重な臨床データが取れました。

 本当に感謝するわ、ありがとう」

と微笑みながらわたしに言って、右手を差し出されたので、

わたしはその手を取って、握手に応じました。


もしかして、全部汐月さんの筋書き通りだった?


結局わたしは汐月さんに、うまく操られていただけ?


すごくそんな気がしたけど、

まあ、なつめが良くなれば、いいかな。


でもこの人には、聞いておきたいことがあったんだ。


わたしは、汐月さんに、

ひとつだけ質問したいと言ってから、

ずっと疑問に思っていた、メガネのことを、

特に持っている数についてを尋ねてみました。


汐月さんは、これも今までに見たことない、

レンズの上にフレームのないメガネを、片手で外しながら、

「ごめんなさい、それには答えられないわね、

 多すぎて、幾つあるのか判らないのよ。

 今度会う時までには、数えとくから。

 ちなみに全部、伊達メガネなの。

 それと、これを渡しておくわ、私の新しい名刺。

 そうねえ、2年後か6年後にでも、

 これが貴方の役に立つことを、願っているわ」

と笑って言うと、スーツのポケットから、

名刺入れを取り出して、1枚わたしにくれました。


そこには、前に教えてもらったけど、

もう忘れていた、汐月さんのすごい肩書きが、

ずらっと書かれていました。


わたしは、これでこの人と会うのは、最後になる予感がして、

席を立った汐月さんへと、

これまでお世話になった感謝を込めて、

立ち上がってから、頭を下げて挨拶しました。


それを見て、汐月さんも、

「こちらこそ」

と返してから、軽く右手を上げて、部屋を出て行きました。


その後入れ違いに入って来た榊さんが、舌打ちしながら一言、

「……食えない女だ」

と、つぶやいていたのが聞こえた気がしたけど、

気のせいかな……?


   ・   ・   ・   


この後は談話室で、榊さんに飲み物をおごってもらいました。


いつもなら、わたしが話しかけない限り、

何も言わない榊さんが、今日は話しかけてきて、

「……棗は変わった、前と比べると、

 妙に強気で、挑戦的な態度を取るようになったな。

 自分が納得しないと指示に従わないし、

 自分に非がなければ、絶対に謝らなくなった。

 あれだけ気力と根性があれば、大丈夫だろう。

 これも、お前がやった事の成果だ」

と、褒められました!


もしかして、汐月さんに続いて、

榊さんとも会えなくなるのかと心配になって、それを聞くと、

榊さんは、今回なつめと一緒に行くそうなので、

恐らく、棗が出国する時が最後になると、教えてくれた後に、

「そこは、俺じゃなくて、棗と会えなくなる方を心配しろ」

と怒られてしまいました……


最後に、これは筋違いかも知れないけど、

わたしから、なつめを宜しくお願いしますって伝えたら、

榊さんは、短く一言だけ、

「……ああ、任せろ」

と、言ってくれました!


その後、わたしは榊さんと別れて、

家に帰ってきました。


   ・   ・   ・   


帰宅して夕飯を済ませた後、

今日もらった名刺と、前の名刺を見比べてみたんです。


そしたら、前に聞いていなかったのが、ありました。


『国立精神・神経医療研究センター、精神保健研究所、

未成年精神保健研究部副部長、精神発達研究室長』


な、長い!


やっぱりすごい人だったんだなあ、汐月さん。


病院の先生で、大学の准教授で、研究所の室長。


名刺の肩書きもだけど、立場に対応させて、

キャラ変わるところとかも……


でも、一番びっくりしたのは、

あのメガネ、伊達メガネだったとは思わなかった!


これには、本当に驚きましたね。


でもそれよりもショックなのは、なつめのことです。


来月には、なつめが遠くへ行ってしまうなんて……


それはとても寂しいけど、でも元気になる為なんだし、

きっと今のなつめなら、その治療も気合と根性で、

がんばってくるだろうから、最後は元気に明るく見送らないと。


今のなつめに、馬鹿にされそうだから、

その時は、絶対に泣かないようにしなくちゃ……




3月31日 高校一年を振り返って


今日で、高校一年が終わって、

実際には4月5日からですけど、

一応明日から、高校二年生になります。


わたしにとって、この1年は、

中学生から高校生になったという、

環境の大きな変化もありましたが、

中学の時よりも、充実した日々が送れたような、

そんな気がします。


新しい友達も出来たし、昔の友達とも再会しました……


   ・   ・   ・   


小柄でかわいいくて、行動力はあるけど、

本当の自分の望みが判らなくなって、

自分自身も見失っていた、かな。


今は、本当に自分が望むものを手に入れようと、

逆境に立たされながら、1人でがんばっています。


今でもかなに対する変な噂とかは、なくなってなくて、

前まで、あんなにかなを頼っていた人たちは、

すっかりいなくなってますが、

その代わり、前までのかなを敬遠していたような、

違うタイプの人たちと、よく話しているのを見ます。


かなは、何かをしようとしているみたいです。


でもそのことは、わたしに話そうとはしないから、

わたしからは、何も訊かないことにしています。


いつか、かなが話せると思ったときに、

教えてもらえれば、それでいいから……


   ・   ・   ・   


お人形みたいで、色々悩みを抱えていて、

全てを他人のせいにしてばかりで、

わたしに甘えることしか考えてなかった、なつめ。


今は、本来の負けず嫌いの性格を発揮して、

新たな目標に向かって、強く生きようとしています。


あのケンカの後では、もうすっかり本性を出していて、

重病人なのでちょっと変な表現ですけど、

生まれ変わったように、生き生きとしています。


わたしをライバル視しているのは、

なつめなりの、照れ隠しだと思います……


   ・   ・   ・   


2人とも色々あったけど、わたしは2人に出会えて、

本当に良かったと思っています。


また2人にとって、わたしと過ごしたことが、

良かったと思ってもらえたら嬉しいです。


   ・   ・   ・   


それから、忍さん、汐月さん、榊さん。


わたしはひとりっ子だから、年上のの兄弟がいる友達が、

すごく羨ましかったんです。


わたしにとって忍さんは、とても頼りになるお姉さんです。


これからも、甘えさせてもらいたいです。


汐月さんは、本当にすごい人で、

わたしがなつめと関わらなかったら、

きっと出会うことのない人でした。


最後に言っていた、2年後とか、6年後とかって、

どういう意味だったんだろうなぁ、

今度、忍さんに聞いてみよう。


榊さんには、危ないところを助けてもらいました。


とっつきにくい人だけど、とても頼りがいのある人です。


わたしの直感が正しければ、

なつめ本人も、分かってないかも知れないけど、

昔も今も、なつめが慕っているのは、

榊さんなんじゃないかって思っています。


来月には、外国に行ってしまうけど、

榊さんがそばについていてくれれば、

今のなつめだったら、きっと大丈夫……


   ・   ・   ・   


来月からはクラス替えで、新しいクラスになります。


かなとは、また同じクラスになれたらいいなぁ。


新しいクラスでも、良い出会いがありますように……





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