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卒業試験で喋る毛玉を作ったら異端認定されました。~毒舌なエリートモフと、癒し系巨大アルパカとのモフふわな日常生活~  作者: 御堂


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天才錬成術師レティシア・レンディは異端審問官にしゃべる毛玉を貸し出す

レティシア・レンディと言えば、数年前まではアカデミーでは神童、天才、鬼才、将来の王宮筆頭錬成術師、など色んな飾り文句が付けられるとびきりの錬成術の遣い手として知られていた。


まず、家系が錬成術に明るいレンディ侯爵家の家門だった事もあり、血統的にも問題なく、魔力量も平均値を上回る潤沢な数値を保持していた。

そこに本人の努力とヒラメキなどが掛け算の相乗効果を発揮し、アカデミーでは優秀な成績を残していたし、王宮の錬成術部門にも早くから出入りして、国王の覚えもめでたく、将来の活躍が期待されていたエースの一人でもあった。


そんな22歳のレティシアは現在…、城下の片隅で小さな工房を構えのんびり暮らしている。王宮勤めを約束されていた彼女が、なぜここにいるのか。

それはアカデミーの卒業試験で、神器錬成の課題で不合格をもらったからである。

仲間が剣や弓、槍、甲冑などの見事な神器を錬成して披露する中、レティシアが見せたのは…


毛玉だった。


しかもしゃべる。

ポン!と地面に降り立つと、毛先を器用に動かして

「よぅっ!元気?」

といいながら、手を挙げてるかのような動作まで見せた。

爆笑が起きる中で、試験官達の「ふざけるな!」という叱責と、生み出された毛玉を検分する教官達の前で、レティシアはしばらく茫然としていた。

結局、二回目のやり直しの機会が与えられたものの、次に彼女が生み出したのは


ふわっふわの巨大アルパカだった。


笑い転げる同級生達と、顔を見合せて審議に入るアカデミー側の大人達の前でレティシアは、産まれたばかりのしゃべる毛玉とふわっふわの巨大アルパカをなでることしかできなかった。


神器錬成の課題としてコレら(モフたち)は相当であるのか、という長い会議が持たれたが(かなり紛糾したが)、最終的に


ビジュアルとしてどうなん?


という結論に至り、レティシアはアカデミーを退学し、ここに至る。



「だから毛玉じゃないっての。キューティクル強めのスライムだって」

「スライムに毛が生えるか。なんなんだ、キューティクル強めって」

「レティが生み出したスライムなんだから、毛は生えるだろうが」

「ではお前は自分が魔物だと認めるんだな?レティシア・レンディは魔物を錬成したと認めるんだな?」

「魔物じゃねぇよ!毛の生えたただのスライムだよっ!」

「だからそれが…!」


目の前で言い争う師匠(自称キューティクル強めのスライム)と、王宮異端審問官のラファエル・ランドールの言い争いを、わたしは眺めている。

師匠は、去年の卒業試験で偶然錬成してからの縁で、侯爵家の実家を出てから一緒に暮らしている。二回目に錬成した巨大アルパカのパカちゃんも、共に暮らす家族だ。


師匠が綺麗に梳かされた毛を持ち上げて、わたしの後ろで寝てるパカちゃんを指(?)さす。

「んじゃあ、お前にはあのパカが魔物に見えるのか?あん?」

「あれはどう見てもアルパカだろう!?アルパカじゃなくてお前の話だ」

「だからー、話のわかんねぇヤツだなぁもう」


異端審問官のラファエル・ランドールはアカデミーの同級生だった男だ。ずっと首席だったわたしの二番手に甘んじてた生徒、という認識。

神経質そうな見た目の通りの、王宮の厳格な分野に進んで今こうしてここにいるのだから、人生分からないものだ。というものの、わたしたちはまだ22歳。この先どう転ぶかも分からないのだけど。

そしてどういうわけか、ラファエルはわたしの工房にやって来ては、師匠と不毛な言い争いを繰り返している。ここのところ毎日だ。

代わりばえのない内容に、聞いているわたしもいい加減飽きてきた。


「ランドール様?とりあえずお茶でも飲んだら?」

「レティシア・レンディ嬢、お前にも聞くことがある」

「なんでも答えるから、とりあえずお茶をどうぞ?」


ようやく静かになった工房で、ラファエルは椅子に座って優雅にお茶を口にした。貴族らしい上品さでカップをつまんでいる。

アカデミー時代は特に交流もなかったけど、ラファエルはランドール伯爵家の次男で、名前に違わず美しいプラチナブロンドを持つ怜悧な美男として有名だった。そして非常にモテていた。

万年二番手だったため、いつも首席だったわたしはよく睨まれていた記憶はある。まぁ…わたし達はその程度の関係性だ。


師匠がポヨンと飛んでわたしの膝に乗る。ブラシで師匠の毛を整えていると、ラファエルが黙ってわたしたちを見ていた。

「あら?もう尋問始める?」

「いや。まだ…」

銀縁のメガネをスイッと指で押し上げて顔をそらす。

膝に乗る師匠が「けっ」と毒づいた。

「お前も本気でレティが魔物錬成なんかしないのわかってんだろ」

「しかし、レティシア嬢が生み出したモ…モフモフ、は城下にはびこっている現状がある。優秀さは認めているが、王の民を惑わしているという見方も多い」

モフモフ、を言う時だけ、なぜかラファエルは顔を赤らめる。クールビューティの赤面とか見てられない。


「みんなが喜んでくれるから、錬成したんだけどな」

「喜…喜びはするだろ。モ、モフは」

「おぅよ」

どもるラファエルに師匠が返事をしている。また何やら言いあいを始めた二人を放っておいて、わたしは師匠の毛づくろいを続ける。


侯爵家の家を出て、城下の端っこのエリアで工房を構えたわたしの仕事は、モフモフやふわふわを錬成することだ。

アカデミーでの神器錬成の最終課題を不合格にして以来、わたしはモフモフしか錬成できなくなった。

錬成術と合成術という二つの異なるスキル持ちだったわたしは、ある程度のものをゼロから作ったり、モノとモノを掛け合わせる事はなんでもできた。

だから天才とも言われていたわけだけども。

どういうわけか、あの時からわたしが錬成したり合成したりするものは、ことごとくモフモフしたりふわふわしたり…毛を生やすようになってしまっていた。


家門の面汚しでもあるのに、そんなわたしの新たな才能を両親や兄弟は大爆笑して受け入れてくれたから、結果オーライ。

どうせなら新しい商売でも始めたら?ということで、工房を構えたのだった。


今の仕事を詳しく言うなら、モフモフとかふわふわの…そういった手触りを求める皆さまに、枕とか寝巻きとかシーツとか、あとはペットの代わりのモノを提供している。寝具類が多い。

寝具屋ではないのだけど、工房は特別な寝具を造る所として知られている。別に良いけど。でも寝具だけじゃないのはここに明記しておく。


初めは実家の家族のために作っていたものを、親戚や使用人たちのクチコミでだんだんと販路が広がり、今では贈答用にと求められるようになっていた。

のんびりしているように見えても、注文は多いのでなかなか忙しかったりもするのだけど。

異端審問官が来る事態にまでなっているのなら、追い返す訳にもいかなかった。

ラファエルの言い分として、わたしの作った寝具を使用した大臣達が、会議中に寝てしまうという異常事態が発生してしまっているから。と言われれば、尚更だ。

商売の危機なのだ。

本業そっちのけで寝られるとか最高の褒め言葉なのに。


「おぉい!そこのむっつりスケベ」

師匠が毛を逆立ててラファエルをビシッと指(?)さす。指されたラファエルは顔を赤くして「誰がむっつりスケベだ!」と叫んでいた。

「異端審問官ラファエル・ランドール、お前だよ、このむっつり野郎が!お前の魂胆なんてな、俺はまるっとお見通しなんだよ!ったく毎日毎日ダル絡みしやがって!」

「魂胆とはなんだ!私は仕事の一環として」


「はいはい、はいはい。お仕事な?ってちがうだろ!お前の本当の目的はちがうだろ?異端審問官様が聞いて呆れるぜ。お前の目は『異端』を裁く目じゃねえ、深夜のペットショップを覗き込む『不審者』の目だ。仕事にかまけて、俺の毛並みの鑑定もふりに来てるだけだろ、このむっつり眼鏡!俺のモフぷよボディを触りたくて仕方ないのに、どーせ触れずに泣いて帰ってるんだろ?え?わかってんだよ、俺は!」


「な、モフ、ぷ、…はぁ!?」

ラファエルの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。

「あらそうだったの?ランドール様」

「ちが…!」

「なら貸し出しましょうか?気持ち良いですよ、師匠は特に」

「えええ!?」

赤くなったかと思えば、今度は目が輝くラファエル。

…なんだ。触りたかったのか。なら早く言えばいいのに。


「一応、わたしの家族なので大事に扱うことは約束して欲しいんですけど。あと賃料も一泊だと…」

「ちょ、レティシア嬢。私は別に」

「俺はイヤだよ?男と同じベッドとかムリ」

「ベッド…同衾!?」

師匠の一言に、ラファエルが白くなった。

…なにこの人…面白すぎやしませんか。

クールビューティと陰で騒がれるラファエルのフェチは把握したので、とりあえず放置。


「師匠?せっかくだから、この際…わたしの元同級生でもあるラファエルと、少しだけっ!仲良くなって欲しいなー」

「えー…?」

もったいぶる師匠の魂胆はわかっている。

同衾はしなくても、ラファエルのことを多少は気に入ってるのだ。心ゆくまで口喧嘩(おしゃべり)したいのだろう。

モフモフと密集する毛を揺らしながら、師匠は「どーしよっかなー」「レティが言うんならなー」と鬱陶しく言いながら、ラファエルの周りをポヨンポヨンと跳ねている。それを目で追うラファエルは、もはや異端審問官ではなく、愛くるしい小動物の行動を見守る愛玩者の眼差しをしていた。


わたしはラファエルの前にそっと貸し出し契約書を差し出す。

「お試しで一泊どうですか」

「…」

「ご自宅で異端かどうか試すのも『お仕事』なのでは?」

「…」

無言でペンを取り出したラファエルが、内容を読まずにサインをする。そしてペンをコートの内ポケットにしまうと、ニヤニヤ笑いながら跳ねる師匠を抱きかかえた。

「あ!お前、いきなり…」

師匠のモフモフの頭に顔を埋めたラファエルが、大きく深呼吸を繰り返している。

「レティシア嬢…」

「はい?」


「お前の才能…うらやま…けしからん!なんだ、このけしからん毛並み…うらやま…っく!」


何か聞こえたけど無視しておく。

師匠がくすぐったいと笑いながら毛をモフモフと揺らす。

「では!俺はコレを持って帰る、また明日!」

ラファエルはそう言いながら、カバンから人気パティスリーの菓子箱を取り出してテーブルに置く。

そして師匠を抱きかかえたまま、工房を出ていった。

「じゃあなー、レティー」

一部の毛を揺らして手(毛)を揺らす師匠達を見送る。

巨大アルパカのパカちゃんが、ふぇぇとあくびをしていた。




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