6話 初仕事
「君が鳥村君か? 俺は岩藤 伯斗。よろしく頼む」
「あ、はい。鳥村 基樹です。よろしくお願いします」
この人が岩藤さんか。
くっそイケメンだな。
やっぱこの業界の男はイケメンかオッサンしかいないのか?
となると俺もイケ…いや将来のオッサン枠の方がお似合いか。
岩藤さんは一言で言うなら高身長のクール系イケメン。
スーツっぽいグレーのジャケット以外は、カジュアルな感じでチノパンにスニーカーでネクタイもない。
少し青っぽい長めの黒髪が整った顔とよく合っている。
普通にモデルとかでもやっていけそうな感じだ。
俺も久しぶりの本格的な外出だし、一応気合入れてきたんだけどな。
でもこうして見比べるとチェック柄のネルシャツは正直ない。
これじゃあ良くて地元民っぽいオタク風の男に、イケメンが道を尋ねている図にしか見えないだろう。
「十日谷さんから話は聞いている。今日は男二人だからな。今井町などの観光地と商業施設辺りを中心に散策する予定だ。行くぞ」
「はい」
今井町って言えば確か江戸時代くらいの古い街並みが残った観光地だよな。
小学生の頃に何回か行ったことあるけど昔はそこまで人いた記憶ないし、そんな場所に何しに行くんだろう。
にしても岩藤さんはあんまり無駄話とかしないタイプの人かな。
余計なことを聞かれるよりかはいいけど、無言なのもちょっと気まずいんだよな。
まあ仕事だし、研修中だけだと割り切って頑張るしかないか。
そこからしばらく男二人の静かな散歩が続く。
だが今井町入ったところで岩藤さんが突然立ち止まった。
「こうやって街を散策することは苦手か?」
「え? いや、別にそんなに嫌じゃないです」
「そうか、ならいい。俺達がこうやって街を散策するのも大切な仕事の一つだ。誰かの親や子かもしれない人達の健康や幸せに繋がる…な」
「な、なるほど」
頭の中に一瞬疑問符が浮かんだが、とりあえず同意しておく。
「だが、周囲の人から見れば俺達は何をしているかわからない平日の昼間から町を歩いている怪しい男二人組だ。だから計画的に町を散策し、周囲に溶け込む努力をしなければならない。その為には経済的な活動がとても大切になる。その理由がわかるか?」
「んー……。わかりません」
前言撤回、この人ケッコー喋るな。
「自然な形で町の人との交流することが出来るからだ」
「自然な形で…ですか?」
「ああ、目的が見えない人間ほど怪しいものはない。他にも金銭を消費することは町で暮らす人々の経済や暮らしを支えることにも繋がり、結果として魂に穢れが発生するのを抑えることにも繋がる。だから今日はカフェ巡りをするつもりだ」
「か、カフェっすか」
男二人でカフェ巡り。それは逆に怪しまれる気がするが。
アニメとかとコラボしてる店とかならいいだろうけど。
「カフェは嫌か? 仕方ない。なら今井町でお土産を買ってから近くの寿司屋に寄るぞ。それでいいか?」
「あー…はい。それで大丈夫です」
ただ観光地を満喫したいだけに見えるけど。
と思ったが知り合ったばかりの先輩にそんなことを言えるわけもない。
「ところで鳥村君。君はこの仕事についてどこまで知っている?」
「え? あー…この白い指輪に靄が吸い込まれて人の調子が治ることと、朧人っていう人型の化物とたまに戦うことがあるくらいですかね?」
「朧人と実際に戦ったことは?」
「えぇっと…二回くらいです。でも人が戦ってるのを見てただけで自分は戦ってないですね」
「そうか。今後、自分で戦ってみたいという思いはあるか?」
「まぁ…やってみたいなっていう気持ちは正直ありますね」
もちろん痛いのとか怪我するのは嫌だけど。
でも十日谷さん達が使ってた武器とか銃で、化け物をバンバン倒しまくることに憧れみたいな感情があるのは事実だ。
ゾンビゲーとか戦場で無双する系のゲーム結構好きだし。
「なら簡単に説明しておこう。朧人と出会わない日の方が少ないからな。既に知っていると思うが、朧人は生物の魂から発生する穢れが集まって出来た化物だ。だから人と称されてはいるが、人以外の朧人も出ることがある。極まれだがな」
そう言って今ちょうどすれ違った散歩中の犬を岩藤さんが軽く見る。
「穢れは魂のバランスが何らかの理由で崩れるとより多く濃く発生すると言われている。通常は余暇などである程度発散されるが、中には自分のみならず周囲の穢れも貯めこみ続けてしまう霧影体質と呼ばれる人もいる」
「へー……」
「そういった人たちには特別な対処が必要だ。だからよく穢れを纏っている人や、穢れが濃い人には注意を払い記憶に留めておけ」
「はい」
霧影体質か……。
もしかしてあの書店員さんとかそうなのかな。
また今度確認しておこう。
「朧人はその由縁から扱いを議論され続けているが、奴らは人の魂を穢し餌とする化物だ。情を持てば己と仲間が傷つき人々の魂もまた穢れてゆく。だから容赦はするな」
「はい!」
「そして朧人は魂顕器もしくは魂器と呼ばれる魂の力で生み出した特別な武器でのみ効果的に傷つけることが可能だ。ここまでは理解出来たか?」
「はい、何となくは」
なるほど。
鷹羽さんや十日谷さんが使ってた斧とか銃がソレだったってことね。
通りで突然何もない所から出したり出来たわけだ。
「すでに経験していると思うが、戦闘は白界や狭界と呼ばれる特殊な空間内で行う。誰かに見つかればすぐ日本どころか世界中に拡散されてしまう可能性があるからな」
「確かに…」
「それに普通の空間では朧人に逃げられてしまう可能性もある。だからこの白い指輪の力を借りて現実の複製空間を構築・転換し、そちらの世界で処理するのが基本となる」
へー。
あの白い空間は戦闘用の別空間ってことなんだ。
思ってたよりすごい物なんだなこの指輪。
「そういえばあの世界ってずっと先まで続いてるんですか?」
「いや空間の規模は直径百メートルほどしかない。故に敵を閉じ込めるが一方で己も安易に逃げることが出来ぬ牢獄となる。空間を強制解除するにはかなりの魂力を消耗するからな。だから状況次第では空間構築する場所選びも重要になる」
「はい、わかりました。ところで空間を構築? するにはどうすれば?」
まあ本当のところ頭から抜けてってるところもかなりあるけど。
「決まったやり方はないが、最初は指輪に触れながら言霊を唱えるやり方が確実だろう」
「こ、言霊ですか…」
「そうだ。言葉は好きなもので構わない。実力が付けば頻繁に使う事は無くなるが、一生使い続ける物になるからな」
「うーん…好きなものですか」
うわー……、俺そういうの苦手なんだけど。
いい例とかテンプレみたいなものとか教えてくれないかな。
「だが長すぎるのは業務に支障が出る。構築前に朧人に襲われたり、逃げられてしまう可能性があるからな。こだわりもあると思うが、可能な限り短文にしておけ。わかったな?」
「はい。それであのー参考程度にですけど岩藤さんの言霊? を教えてもらってもいいですか?」
「……人々の苦悶から生まれし哀れなる者たちを浄化救済し、再び正常なる輪廻へと導くその入り口となる穢れなき白銀世界を生み出したまえ。…だ」
「はい? えっ?」
なんて言った? もしかして色んな人のパターンをまとめて言ってくれたのか?
言霊は短い方が良いって言ってたし。
まさかさっきの長文が一つの言霊なんてわけないだろう。
「あのどこからどこまでが――むぐ」
「待て、朧人だ。やるぞ」
岩藤さんは俺の口に手のひらで蓋をすると、何を言ってるかわからないほど小さな声でブツブツと何かを高速詠唱する。
すると一瞬の間に世界の色が白に染まった。




