3話 組織
(うわー、はえー……。一体何キロ出てんだよ)
流石にバイクを追い越せはしないが、ちょっと遅れて並走するくらいの速度は出ている。
まあそれでも十分ヤバいんだけど。
多分このバイク法定速度無視してるし。
だから原付に乗った筒を髪にいくつも巻き付けたおばさんがビックリして、二度見どころか三度見くらいしてる。
最初は驚きの早さで走る鷹羽さんを。
そして最終的におんぶされている謎の男、つまり俺へと。
(わー…人ってこんな速度で走れるんだー)
何だか周囲の目線がすべて俺に集まってる気がして、パーカーのフードを被り己の視界を遮り現実逃避する。
もしかしたら俺が数年間引きこもってる間に、世の中は色々と変わったのかもしれない。
いやそもそも知識が浅かったのかも。
引きこもりの俺がちょっとランニングの習慣持っただけで、割と走れるようになるんだから。ガチで鍛えた人はきっとこれくらい余裕なんだろう。
それにしても乗り心地は…最悪だな。
砂利どころか岩でガッタガタの道を走る車に乗ってるような感じだ。内臓がシェイクされまくってちょっと気分が悪くなってきた。
ってかどこに向かってるんだこれ。チラッと見た感じまだ街中っぽいけど。
「あの、どこに向かってるんですか?」
「えっ? あー…十日谷さんに正式に入るまで、詳しい事は話すなって前に怒られちゃったからなー。えっとそうだねー……。世界の人達を救うとってもいい仲間達がいる建物に向かってるんだー。だからもうちょっと大人しくしててねー」
「そ、そうっすか…」
やべー…きな臭さしかない。
多分俺の本が何とかなるって言ってたのは、物に囚われてはいけません的なアヤシイ宗教の教えを授けて救われるからってことか。
いやでも、それならさっきの灰色のモヤってた謎人間とか白い世界はどう説明するんだろう。うーん……。最新科学なら出来なくもないか?
でもそれだと今から行く宗教の教えに反してそうだし…いやいや待てよ。
そこは発想の転換で世界の全てをデータに置き換えることが究極の環境保護である。的な最近の流行りっぽいのを謎に取り入れた新興宗教の可能性もあるか。
とにかく俺が引き籠ってる間に色々世の中は変わっちまったようだな。
「とーちゃーく! 十日谷さん。後輩君連れてきました! もう指輪も付けてるので、才能は保証付きです!」
「またか鷹羽。ここに生き物を連れてくる時は事前に一報を入れろと言ったじゃないか。……いや、待て。指輪持ちの人間だと?」
え、何。今どんな状況?
声と雰囲気的に話し相手はちょっと厳しそうな感じの女性っぽい。
つーかここどこよ。
色々気になるから一瞬だけチラ見するか。
とはいえ顔を見られるのは困る。
だからフードを前に出す形で顔を見せずに視界を確保する。
うん、パッと見はどっかのこじんまりとした事務所っぽい感じだな。
書類とタブレットが雑然と置かれた机や謎のデカい人型ロボット兵器的な物が飾ってあったりと、そこまでキッチリとしたところではなさそう。
人は…あ、やべ。女の人と目線があった。
金髪の鋭い目付きに白い男物のスーツ、海外の人だろうか。
いやどことなく日本人っぽいし、ハーフかもしれないな。
どちらにせよ見た目的にはあんまりいい末来が想像出来ない。
「はーい。次から気を付けまーす!」
「はぁ…まあいい。それでこの人の名は?」
「えっと…名前は…あっ鳥さんです!」
「鳥……? 他には?」
「わかりません! ほら自己紹介して!」
「ぐぇっ」
ゴミ捨て場に投げ込む袋のように雑に投げられる。
それほど痛くなかったが、精神的にガリっと何かが削られた気がする。
流石にちょっと心が傷つ…って今はそんなことより…これからどうする?
脳裏にパッと浮んだこれからのルートは二通り。
まずは無難に自己紹介すること。
そしてもう一つは、このまますぐに逃亡することだ。
前者は無難だが何か面倒事に巻き込まれる気がしてならない。
先ほどの鷹羽さんとの会話。
そしてさっき見た女性の恰好から考えると、俺が就職して一日でバックレたブラック会社と方向性は違うものの結局は同類の可能性が高いからだ。
後者は上手く行けば相手も動揺して何事もなく終われそう。
だけど相手も俺みたいなのを相手するのは慣れてるだろうし、正直ここまで俺を連れてきたあの子から逃げ切る自信がこれっぽっちもない。
「落ち着いて。君の安全は保障するし、金銭の要求をすることもない。不安なら顔も見せなくてもいい。ただ今の君にとって大切な事を話すから、しっかり話を聞いてほしいんだ」
「えっ、大切な事…ですか?」
案外まともだな。
いや、これは油断させる作戦かもしれない。
油断するな俺。
「ああそうだ。まずは説明する前に軽く自己紹介しよう。私は十日谷 月見。ここの責任者だ。私たちは生命循環支援協会の一員として活動している」
生命じゅん…なんだって? なんかきな臭い組織名だな。
「主な活動は魂に不調を起した人々を浄化すること。表向きは環境保護団体として森林整備や街の清掃活動をしているけどね」
環境保護活動って俺の変な妄想がマジで当たってんじゃねーか。
でも森林整備とかしてるなら普通の団体なのか…?
いや待て待て、主な活動が謎すぎる。なんだよ魂を浄化するって。
騙す気があるならせめて現代社会で荒んだ人々の心を癒して、よりよい社会を目指している。とか言った方が良いと思うけど。
「活動の鍵となるのが君も着けているその白い指輪だ。私達の間では白夜の指環や白環と呼んだりもする特別な代物でね、人々から生まれた穢れ…朧を視覚化すると同時に吸収して魂の不調を正す力があるんだ」
へーすご。
あの無理やりつけられた指輪にそんな効果が……。
ってあぶな。何、信じかけてんだ俺は。
確かに今まで見た光景と矛盾はないけど…さっすがに、はいそーですかとそんなすぐに受け入れることは出来ない。
「それは厳しい条件を乗り越えた者にしか着けるが出来なくてね。そして君はその条件を満たした貴重な人材というわけなんだ。……どうだろう私達の活動に協力してはくれないだろうか?」
口調は真剣で本当っぽいけど、コレはあれか。
君は選ばれた人間なんだって特別感出して騙すやつ。
アニメとかRPGで悪サイドがよく使う手法にソックリだ。だが残念だったな。ニート生活でひたすら王道系のRPGをやり続けた俺には通用しない。
とにかく今はここからどうやって無事帰れるかだけ考えた方が良いか。とりあえずシンプルにそのまま逃げるのはリスクが高そうだ。
となるとここは一旦賛同したフリをして隙を見て逃げる…。
うん、これしか道はない。
「…わかりました。こんな自分でもお役に立てるのなら」
「ありがとう、感謝する。色々と混乱しているだろうから今日はもう帰りなさい。ああ、あとこれは手間賃だ。それと出来れば警察には駆け込まないでほしい。問題はないが色々と後処理が面倒なのでね。ではまた会おう」
背筋が凍るようなセリフが耳に届いてすぐ、パーカーのポケットにずっしりとした重みを感じる。
「あ、え…あ…えっと…お、お疲れ様でした!!!」
急に怖くなった俺は周囲の物にぶつかるのも気にせず、部屋を飛び出した。
その後どうやって帰ったのかさっぱり覚えてないが、気づいたらいつの間にか自分の部屋に戻っていた。
もしかしてあれは夢だったのかとも思ったが、ポケットに入っていた銀色に輝く『SILVER 1,000g』と刻印された延べ棒が俺に現実を突き付けるのだった。




