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16話 夜3

「あれも朧人……なんですか?」

「そうだ。その反応だと濃霧のうむ級を見るのは初めてか」

「はい、初めて見ます」


 肌を灰色に塗りたくられた人。

 と言われたら納得するほど見た目が人に近い。

 纏った黒い衣はボロボロで、ファンタジーな世界に登場する暗殺者のような見た目だ。


 感情もあるのか舌なめずりをして、こちらを見下したような顔をしている。


「今の君には厳しいだろう。俺たちが対処する。だが戦い方はよく見ておくように。掃守、煙霧えんむ級の方は任せたぞ」

「了解です、藤掛先輩。でも私が全部やってもいいんですよ?」

「俺だけろくに働いてないからな。これくらいはやらせてくれ。いくぞ!」


 藤掛さんは一体どんな武器を使う――何だあれ。

 鎧?

 いやロボットか?


 藤掛さんが突然飛び上がったと思ったら、手や足に次々と何処からか現れたメタリックな装甲が装着されていく。


 そして着地したころには、カラフルで角ばった渋い見た目のロボットに変貌していた。急な変化に黒衣を纏った朧人も動きを止め、ナイフを構えてこちらを伺う様子を見せる。


 だがそんなのはお構いなしな様子で、藤掛さん一気に朧人へと接近する。


 あっという間に距離を詰めた藤掛さんに対し、朧人がナイフを振りかざして応戦する。だが藤掛さんが軽やかなステップで全て回避していく。


(凄い。けど見た目とのギャップが……)


 てっきりあの厚みのある装甲で受けきるスタイルかと思ったら、案外そうでもないようだ。


 そうして全ての攻撃を悉く回避されることに、イラつきを覚えたのか朧人が藤掛さんに向かってナイフを投げつけた。その軌道を逸らすようにして弾いた藤掛さんに対し、朧人は新たに手にしたナイフで攻撃を仕掛ける。


 虚をつけたと思ったのだろう、その攻撃はかなり大振りだ。

 そんな攻撃に対して藤掛さんの回答は、大振りの拳。


 ナイフはプレス機にかけられたかのように一瞬にしてひしゃげ、朧人自身もトラックに轢かれた人形のように大きく吹っ飛び、地面の上を転がっていく。


「ふんっ!!!」


 藤掛さんは掛け声と共に天高く飛び上がり、頂点に達したところでくるくると回転しながら丸まった。そのままの状態で起き上がろうとする朧人目掛けて落下。


 解体現場で何かが落下した時のようなガシャァァンという凄まじい音。

 それと同時に、黒い霧がブワッと巻き上がる。


 晴れたころにはあの特徴的な朧人の姿は何処にもなく、地面に黒いシミだけが残されていた。


(ヤバッ、かっけぇ。でもなんだあのポーズ……)


 何故か藤掛さんは腕を組み、天を見上げていた。


 ま、まあとにかくこれで終わりだな。

 今度は掃守さんの番か。

 あっ……。


 藤掛さんが組んでいた腕をバッと広げたかと思うと、拳を握りグルグルと回転し出した。そして近くにいた二体の朧人を跳ね飛ばす。


 天高く舞い上がった朧人は自由落下した後、地面に衝突して黒い液体となって飛び散ってしまった。


「まっ、こんなもんだな」


 元の姿に戻った藤掛さんがどこかニヤついた顔で戻ってくる。


「先輩。私の分は……」

「悪い悪い。じゃあ浄化だけ頼むわ」

「私は雑用係じゃないんですよ?」


 文句を言いながらも掃守さんが浄化をする。

 その後、周囲の風景が色を取り戻し、再び世界が動き出した。


「思ったより楽勝でしたね」

「まあな。一番上の深霧しんむ級になれば中には油断出来ない奴もいるが、濃霧級までならこんなもんだ」

「へぇ」


 ま、藤掛さんの実力があってこそだろうけど。


「だが日と場所によっては煙霧級や濃霧級が何十体も同時に群れて出てくることもある。そうなればこう簡単にはいかないがな」

「そんなに出てくることもあるんですか」


 俺一人なら確実に詰みだな。

 俺もそれなりに強くなったから、今更講師による訓練とか要らないんじゃね。


 とか最近思ってたけど、それなら要るわ訓練。


「人手がまったく足りてない上に、朧人の出現は年々増加傾向にあるからな」

「でも確か日本の人口ってちょっとずつ減ってますよね?」

「そうだが今は昔より観光客が増えたからな。人の移動が増えた分、今までになかった問題が色々起こってるのさ」


 オーバー何とやらってやつね。

 こんなところにまで影響してるのか。


「まあ今はそんなことより飯だ飯。店に入るぞ」

「あっ、はい!」


 こういう居酒屋? に入るのって人生で初かも。

 どんな感じなんだろうな。まあとりあえず、二人が岩藤さんみたいなフードファイターじゃないことを祈ろう。


 期待と不安を抱きながら、俺は二人の後を追いかけて店に入った。

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