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15話 夜2

 間違いない。


 見た目からしてどちらも朧人おぼろびととして最下級の薄霧はくむ級だろう。

 相変わらず手のひらについた口から、黒い液体がポタポタと垂れていて気持ち悪い。夜だとなおさらだ。


「築け」


 藤掛さんが呟くとあっという間に周囲の景色が白に塗り替わる。

 

 築け……か。

 シンプルでカッコイイなぁ。

 短めの言霊もクールでぜんぜんアリだよな。


 まあ俺みたいな渋みもない子供には、似合わないだろうけど。


「鳥村君、いい機会だ。余裕のあるうちに君の実力を把握しておきたい。一体任せてもいいか?」

「はい、やれます!」

「よし、いい返事だ。では任せたぞ。掃守もう一体の方は頼む」


 掃守さんが頷き、左手にドリルのような見た目の黄色い道具を生み出す。

 そして朧人に向けて引き金を引いた。


 道具の先から青い半透明のレーザーが一直線に照射され、朧人に拳大の風穴が開く。

 掃守さんがそのまま釣り竿を引き上げるような動作を見せると、朧人が縦に両断されてぐしゃっと音を立てて崩れ落ちた。

 

 マジか!

 レーザーかよ。


「それってもしかしてレーザー銃ですか?」

「これ? 高圧洗浄機よ」

「せん、じょう……き???」


 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。


「そう洗浄機。水を勢いよくノズルの先から噴射して汚れを落とす道具よ。これなら早々ほかの人とは被らないでしょ?」


 あーあれか。

 ペットボトルの霧吹きみたいなやつを、何度か学校の掃除のときに使った覚えがある。


 そりゃ被らないかもしれないけど……。

 武器としてはどうなのだろうか。


 まあ使えれば何でもいいか。それに強いし。


 見た目はどうであれ俺もあんな感じで、遠距離武器を使えたら戦闘で楽出来るだろう。


 もっといい武器を生み出せるように頑張らないとな。


「そんなことより来てるわよ」


 そうだった。

 今は目の前の敵に集中しないと。


 こちらに向かって走ってくる朧人に目を向ける。


 見た目はちょっと男っぽい感じ。

 薄霧級でも煙霧えんむ級に近いちょっと厄介なやつだな。


 岩藤さんが前に薄霧級の上のランクである煙霧級に実力が近づくと、薄霧級でも多少見た目に変化が現れる事があるって言ってたし。


 とりあえずまずは魂器こんきを生成してっと。


 右手に意識を集中して細長い武器を生み出す。


「綿棒……かしら?」

「まぁ……そんな感じです」

「そう料理が好きなのね。いいことだと思うわ」


 優しい言葉が痛い。


 これ刀のつもりなんです……。

 とは言えず持ちやすいように手の部分だけ太くした刀(仮)を構える。


 で……朧人の方は特に考えなしに突っ込んで来てると。

 なら……。


 掴みかかってきた朧人をサイドステップで一旦右に回避。

 そして回避と同時に左手に持ち替えた武器を勢いを利用して、そのまま朧人の首に……。


 ダメか。

 

(決まったら良かったけどやっぱ難しいな)


 岩藤さんにふざけるのは良くないが、余裕があるときに色々と技を試しておけ。

 と言われたので自分なりに使えそうな技三選を考えて、まず避けた瞬間に相手の首筋を狙う技を練習している。


 だが今回みたいに振りのタイミングが合わないことが多く、今のところ実戦での成功確率はまだ二割くらいだ。


(やっぱり武器を持ち変える動作が無駄なのだろうか)


 でもそれはそれで難しいんだよな。

 とりあえず先輩たちとは初めて組むし、さすがにここからは堅実にいこう。

 

 再びこちらに突進してきた朧人に対して、少し腰を落として待ち構える。


 そして俺に向かって飛びかかろうとして来たタイミングで足払い。

 朧人はヘッドスライディングのような感じで地面を滑る。


 そこへ後ろから馬乗りになり、念のため手首を切断してから首をぶっ叩く。

 一撃を受けた部分が液体となって飛び散り、残った部分も後追いするように崩れ落ちた。


「よし」


 弱い朧人に明確な弱点というものはない。

 一応、薄霧級は手に口が付いているケースが多いので、まずは腕や手首を狙うのがセオリーらしいが。


 とりあえずどの朧人にも共通するのはどこかを大きく切断すれば、あとはそのまま自壊してくれることが多い。


 ただ人と同じように腕や足だと何だかんだ耐えて、まだ抵抗してくる場合がある。


 だからこうやって首を狙うのが確実なのだ。

 まあ鷹羽たかばねさんは狙うのは面倒だから、バラバラになるくらいの勢いで吹っ飛ばせばいいとか言ってたけど。


 とにかくこうなれば、あとは復活する前に指輪で穢れを吸収すれば終わりだ。


「ナイスだ鳥村君。薄霧級相手なら問題にならなさそうだな。そのまま浄化もしておいてくれ」

「はい。……どうかこの哀れなる者から穢れを払い、安寧なる地へと導きたまえ。吸魂! ……終わりました。あの、先輩方何かありました?」


 何故か藤掛さんは眉間に手を当てながら顔をしかめ、掃守さんは首をグイッと上げて明後日の方向を向いている。


「いや、岩藤君の教えを受けただけはあるなと思ってな。その……なんだ。素晴らしい実力だ」

「藤掛先輩……? あっ、そ、そうですよね! 良い後輩が入ってきてくれて私も嬉しいわ」

「ありがとうございます……」


 俺もちょっとアレなのはわかってる。

 わかってるけどさ、岩藤さんが適度な長さにした方が、言霊を簡略化出来たときに自分の成長を感じられていいって言うから……。


 まあ褒められてるのは間違いないし、別にいいけど。


 なんで昔の俺は岩藤さんの言葉に納得してしまったんだろうか。


 でもあの時は言霊は魂の言葉と書いて魂言とも言い、完全にそらんじることを本言、略することを略言という。


 みたいな感じに説明されてカッケーってなんか心ときめいちゃったんだよな……。


 俺も大概まだ中二病から抜け出せてないってことか。


 まあでもみんな割と自分の好みで好き勝手やってる感じだし、別にそれでもいいよな?


「あれ? そういえば空間がぜんぜん戻りませんけど……。浄化のし忘れとか?」

「いえ、もうこっちも終わってるわ。でも戻らないということは……」

「あぁ、今のは様子見の先兵ってところだろうな。来るぞ」


 白い建物の影から姿を見せたのは、男女二人の朧人と黒衣を纏いナイフのような武器を手にした灰色のヒトだった。


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