14話 夜
(今日は初の夜仕事か。やることは変わんないらしいけど、岩藤さんとじゃないしちょっと緊張するなぁ)
俺の記憶が少し飛んだ事件があった後も、岩藤さんとは二週間くらい一緒に仕事をして、すっかりにこの仕事にも慣れてきた。
未だに何があったかは思い出せていない。
けどあまり良い感じの死に方ではないらしいので、むしろこのまま思い出さない方がいいのかもしれない。
(それにしても俺も随分変わったよな……)
最初の頃は気が向いたときにだけ外へ出歩けばいいと思っていた。
だけど、今はもう暇になったらとりあえずどっかに出歩くかと思う自分がいる。
多分、真面目な岩藤さんの影響が大いにあるだろう。
それに給料も良いし、他の人たちも優しい。
だからもっと貢献したいと、今回の夜勤研修も二つ返事でOKを出した。
今回の集合場所は大和八木駅前にある、とあるゲームキャラクターの像だ。
(多分あの人かな?)
像の傍に大人びた雰囲気のスーツ姿の女性がいた。
少しゆったり感のある男物っぽいスーツに、夜の闇に浮かび上がるような眩しい青く長い髪のせいか、ぱっと見はコスプレイヤーのようだ。
少し落ち着かない様子で、しきりに腕つけた時計を見ている。
岩藤さん曰く、指輪を付けし者はお互い何か感じるものがある。
とのことらしく、その感覚を信じるなら多分あの女性が仕事仲間だろう。
(名前は確か藤掛……いや掃守だったっけ? あれ、どっちだったかな……)
初対面で名前を間違えるのはヤバいしなぁ。
確か、もう一人男の人が来るんだよな?
まだ来てないっぽいし来るまで待った方がいいか。
それならどっちの名前で呼びかけたとしても、実質間違うことはない。
でもあっちにも俺が同僚ってバレてるんだよな。多分。
なんかチラチラ見られてるし。
もしかして俺の服装がまずかったか?
今の服装は夜ってことでちょっと厚めのパーカーに青のデニム。
町に出歩く分には問題ないけど、スーツ姿の人と並んで歩くなら違和感がかなりあるだろう。
もしかして夜組の人は、みんな真面目系だったりするのかな。
だとしたらちょっとだるいかも。
「その指輪を付けてるってことは君が新人君?」
「あっ、はい。そうです。今日はよろしくお願いします。先輩」
なるほど、あえて名前を言わない。という手があったか。
感心しつつ手口を真似る。
「藤掛さん遅刻はしないんだけど、いつも時間ギリギリに来るのよ。もう少し待っててくれる?」
まだ来てない人が藤掛さんってことは、この人が掃守さんってことね。
青髪の女の人は掃守さん。青髪の女の人は掃守さん。
……よし頭に入った。
「はい、わかりました。あと……今日ってもしかしてスーツじゃないとダメでした?」
「そんなことはないわ。私は服を選ぶのが面倒だからいつもスーツを着ているだけよ。パンツなら夜も寒くないし。だから君も気にせず好きな服で活動すればいいと思うわ。その方が気分も乗るでしょ?」
そういうことか。よかった。
まあ仮にスーツ着て来いって言われても、ズボン破れたから今は無理だけど。
鷹羽さんの走りが激しすぎて、ズボンが破れて途中からパンツ丸出しで……。
いや思い出すのやめよう。危険だ。
忌まわしい記憶が脳裏に蘇り、俺は首を振って思考を止める。
それより思ったより優しそうな人でよかった。
髪は派手だし、色のついた眼鏡かけてるからちょっとヤバそうな人かなって思ったけど、岩藤さんといい案外人は見た目によらないものなのかもな。
「ところで今日はどんな感じでやるんですか?」
「三人で街を回る予定よ。夜は月の力が強まるから朧人も強い個体が出やすいしね」
「へーそうなんですね」
「悪い。待たせたみたいだな」
そう言って片手を顔の前にやりながら現れたのは、コートを着た刑事っぽい雰囲気の髭を生やした男性だ。
「いえ、時間通りですから大丈夫ですよ藤掛先輩」
笑顔で掃守さんが答える。
「そうか。で、この子が新人の……えーなんだったか……。と、と、と、とあ、とい……」
「鳥村君ですよ」
「あぁそうだったな悪い鳥村君。藤掛だ。よろしく頼むよ」
差し出された手を握る。
ガッチリとした男らしい手だ。
香水でもつけてるのか、柑橘系のさわやかな匂いがする。
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあさっそく行くか。三人だと目立つからな。今日は繁華街を中心に適当に回るぞ」
「はい、わかりました先輩。鳥村君行くわよ」
「あ、はい」
掃守さんの隣は何となく行きづらいので、藤掛さんの隣についていく。
「掃守から聞いているかもしれないが、夜は朧人が出やすい上に強力な個体も出ることが多い。まあそれ以外にも単純に最近日本の夜は物騒になってきたからな。基本的に単独行動は禁止だ。わかったな?」
「了解です」
「ところで朧人と戦った経験はもうあるのか?」
藤掛さんの問いに頷く。
「はい、岩藤さんと一緒に何度か。薄霧級数体程度なら問題ないだろうと一応お墨付きももらいました」
「なら何とかなるか。朧人が襲ってきた時は俺がまず空間を構築する。だから余計なことを考えず、自分の安全を第一に考えてするんだ」
「了解です」
先輩たちはみんな頼りになるなぁ。
あのブラック企業もこんな人たちばかりだったら、辞めずに済んだんだろうけど……。
怒鳴る、切れる、媚びへつらうの三拍子だったからな。
まあ今更どうしようもないし、考えても仕方ないことだけど。
「ところで夜はなんで朧人が出やすいんですか?」
「夜はみんな仕事で疲れて魂が淀んで穢れを生みやすい。穢れを餌にする朧人にとっては最高の食事タイムってわけだ」
「なるほど」
ってことは夜の仕事は結構ハードになりそうだ。
「それと上の個体になると多少の知性もある。だから目立つ時間帯は活動を避ける個体も多い事も影響しているだろうな」
「あとは月の存在もあるわね。月の光は朧人の力を強めると言われているの」
「へーそうなんですね」
ホントまだまだ知らないことだらけだな。
「先輩たちはこの仕事はどれくらいやってるんですか?」
「確か三十の頃に始めたから今年で八年目になるか」
「私は藤掛先輩の一年後に入ったから七年目ね。……あっ藤掛先輩。ここが前言ってたお店ですよ。予約してるので早く入りましょう」
掃守さんが藤掛さんの腕を引っ張って、店先に赤い提灯が置かれた店を指さす。
「あぁここなのか。わかった。鳥村君、お金は俺が出すから好きなように食べていいぞ」
「えっ、いいんですか?」
「知ってると思うが、うちの業界は給料がいいからな。一人二人奢ったくらいで痛むような懐事情じゃあないさ。……とその前にどうやらお客さんのようだ。やるぞ二人とも」
藤掛さんの目線の先を追うと、そこには二体の薄霧級朧人がいた。




