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13話 浄化4

「……むら君。とり……ら君、鳥村君!」


 ん? 誰だ、人が気持ちよく寝てるときに……うるさいなぁ。

 名字で呼ぶってことは家族じゃないだろうし、俺をわざわざ起こそうなんてするなんて変わった人もいたもんだ。


 仕方ないその変人を確認するためにも起きてやるか。

 うっ……眩しい。


 ゆっくり目を開けると、そこには俺の顔を心配そうに覗き込む女性二人。

 えっと……誰だ? この人達は。


「よかった。目が覚めたのね。鳥村君」


 茶色い髪の女性が目に涙を滲ませながら、ホッとした様子で微笑む。

 その様子から見て俺のことを知ってそうだが、俺の方はまったく心当たりがない。


「すみません。あの……誰ですか? っていうかなんで俺はこんなところで寝て――うっ、頭が……」


 急に鋭い痛みが頭に走り、見覚えのない人たちと楽し気に交流している自分の記憶が脳裏に流れる。


「記憶が混濁しているようね……。これを飲みなさい」


 女の人から手渡されたのは、透明のケースに入った丸くて白い錠剤だ。


「なんですか? これ?」

「いいから早く」

「いやでも……」

「時間がないわ。ごめんなさい」

「んぐっ!?」


 女の人が錠剤を手で俺の口の中に突っ込み、無理やり飲ませた。


「いきなりなにすっ……。あ、あれ粟飯原あいはらさんに鷹羽たかばねさん? どうして俺こんな場所に?」

「鳥村君はここに仕事で来たのよ。でも朧人との戦闘中の事故で死んでしまったの。すべて私の責任だわ」


 と言って粟飯原さんが頭を下げる。


「えっ、死んだ? 俺が?」

「それはオレが悪いんだよ。階段の方に逃げろって言ったから……」


 涙を拭い鼻をすすりながら鷹羽さんが言葉を絞り出すように言った。


「いや、鷹羽に伝え忘れた俺の責任だ」

「えっ? あっ岩藤さんもいたんですね。まあよくわかんないですけど、確かこっちの身体は問題ないんですよね?」


 念のため自分の身体を触ってみる。

 うん、特に問題はなさそうだ。


「記憶が少し飛んでいることを除けばな」

「それくらいなら大丈夫です。ところで仕事の方はもう終わったんですか?」

「完了済みだ。基樹、お前が報告した本屋の女の子、卯月うづきさんの浄化が今日の仕事だった」


 あーあの明日やるって言ってた仕事のことかな?


 ってことは今日の記憶が丸ごと飛んじゃったわけね。

 うわっ怖。


 でもまあニートやってた時は下手しなくても、一か月何してたかよく思い出せないこともあったしな。

 

 それに比べたら全然大したこともない気がしてきた。


「まあよくわかんないですけど、終わったんなら良かったです。それで俺はこれからどうしたらいいんですか?」

「そうだな。今日は万一の事を考えて事務所に泊まった方が良いだろう」

「わかりました」


 事務所で泊まりか。

 一応姉に連絡……。いやまあ別にいいか。


「オレが事務所までおんぶするぅ……」

「いえ、ここは私がするべきだわ」

「いや、今回の責任者として俺が運ぼう」

「あの……。みなさんお気持ちだけで十分です」


 悪いんだけど、感情がまっっったく付いてきてない。

 知らない話題で盛り上がってる場所に突然叩き込まれた感じだ。


「オレのこともう嫌いになった……?」

「えっ、いやいやいやそんなことないですよ!」


 じゃあ、と言わんばかりに俺に向かって背を向ける鷹羽さん。

 これは……無理だ。行くしかない。


「良かったぁ。じゃあいっくよー!」

「えっ、ちょ――ー」


 風圧で頭が持っていかれそうなスピードで走り始める。


 そんな鷹羽さんに抗議する余裕も勇気もない俺は、情けなく悲鳴を上げながらその細い体にしがみ付くことしか出来なかった。

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