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11話 浄化2

 あの階段は一体どこまで続いているんだろうか。

 途中で雲が遮って先を伺い知ることは出来ない。


 いつもと違うこの世界の雰囲気から、もしかして天まで続いているのではと思ってしまう。


「まず俺が卯月さんに接触する。少し待っていてくれ」


 と残して岩藤さんは彼女の方に向かった。


 内容は少し離れていて聞こえなかった。

 けれど岩藤さんに話しかけられた彼女は、遠くから見ても飛び跳ねたり挙動が不審になるなど、明らかに喜んでいる様子だ。


 恐らく話は上手く進んでるだろう。

 やっぱイケメンは色々と得だな。


「話はついた。幸い彼女の魂は俺のことを覚えていてくれたようだ。芙雪ふゆき、彼女と一緒にまず階段まで向かってくれ」

「りょうかい!」

「あとは階段の傍にいる御魂洗様にご挨拶してから、その先にある温泉へ一緒に入浴するんだ。ただし御魂洗様には決して粗相のないように。接し方は知っているな?」

「もちろんだよー。じゃあ鷹羽隊員いってきます!」


 鷹羽さんは岩藤さんに向かってビシッと敬礼すると、女の子に話しかけて一緒に階段の方に向かっていった。


 あの階段の向こうに温泉があるのか。

 一体どんな感じなんだろう。


 男の霧影体質の人が見つかったら俺も行く機会があるんだろうか。でも知らない男の人と二人で温泉か。


 うーん……。

 気になるけどやっぱいいや。


 オッサンだろうがイケメンだろうが、知り合いじゃない限り気まずい未来しか見えない。


「では俺たちも階段の方に向かうぞ。そのうち魂洗いの儀を行った彼女から生まれた朧人がここのエリアに湧いて出てくるはずだ。それを階段前で浄化するのが俺たちの役目だ」

「はい」

「岩藤君。その前にあのサングラスをかけなくていいの?」


 粟飯原さんが疑問を投げかける。


「そうでした。助言ありがとうございます。基樹、お前もかけておけ」

「あっ、はい了解です」


 なんでサングラスなんかを……?

 疑問に感じつつも渡されたサングラスを言われるがままにかける。


 うん。

 ただの普通のサングラスだ。


 視界が晴れから曇りみたいにちょっと暗くなっただけだ。

 まあ人生で一度もかけたことないから何が普通かって言われても困るけど。


 でもなんで男の俺たちだけ?

 粟飯原さんもかけてないし、鷹羽さんたちも特に何もしてなかったよな?


 うーん……。

 まあいいか。

 考えてもどうせ理由わかんないし。


「では階段の近くまで行くぞ」


 階段までの距離は見た目遠く、歩いて五分近くの時間が掛かった。


(近づいてみると本当にデカい階段だな)


 階段の幅は何十人も同時に登れるのでは。と思うほど幅広い。

 一段一段の高さはそれほどではないが、細かすぎて目が痛くなってくる。

 

 色は少し灰掛かっていて、上に行くほど色が白に近づいていっているように見える。遠くから見たときと変わらず、中腹辺りから雲で遮られその先を見る事は出来ない。


 階段の前には女性が一人。

 近づいてくる俺たちをじっと見つめながら佇んでいる。

 白を主とした青い花模様の着物がよく似合っている、とても綺麗な人だ。


 硬い表情と長い銀色の髪も相まって生きた人間ではなく、職人が人生をかけて作り上げた精巧な人形のようにも見える。


「おはようございます。奈良支部に所属する岩藤と粟飯原、鳥村です。本日はよろしくお願いいたします」

「わかった」


 岩藤さんの深々と頭を下げた丁寧な挨拶に対して、女性は感情がない渇いた声で返答した。そしてすぐ正面の空間に目線をやって、それきり俺たちの方を見ることはなかった。


 肌も白くてすっごい美人だけど、ちょっと……いやかなり近寄りがたい雰囲気の人だな。


 でも何かよくわからないけど、どうしてか心が惹かれるようなものも感じる。まあお堅い雰囲気を除けば、俺の好みに割と近いからだけかもしれないが。


 ずっとこんな何もない場所にいるんだろうか。

 そうだとしたら大変な仕事だな。

 一周回ってここまで素っ気ない態度になるのも、わからないでもない。


「あの岩藤さん?」

「なんだ?」

「この人がさっき言ってた御魂洗様っていう人なんですか?」


 耳打ちして尋ねる。


「いや、あの方はここの守り手だ。それよりあまり見ない方が良い」

「えっ、どうしてですか?」

「それはだな……。説明すると長くなる。今はそんなことより戦闘準備をしろ。上の階段が黒ずんできた。そろそろ来るぞ」

「あ、はい」


 階段の上の方が確かにさっきよりも階段が黒くなっている気がする。


「基樹にはまだこの戦いは厳しい。俺たちの後ろに付いて、戦いを見て学びながら自分の命を守ることだけ考えろ。最悪逃げても構わん。ただし階段の前にいる彼女の近くには絶対近寄るな。わかったな?」

「はい」


 なんか誤魔化された気がする。

 まあ多分事情でもあるんだろうな。

 岩藤さんどちらかといえば説明したがりだし。


(……っとそんなことより今は武器を用意しとかなきゃな)


 棒を生み出し、いつ朧人が来てもいいように軽く腰を落として構える。

 相変わらず棒とも呼べない細さと長さだ。

 だがあるのとないのとではやっぱり安心感が違う。


 岩藤さんは見慣れてきた半透明の刀を、粟飯原さんは……何だあれ?


 籠手……なのか?


 大きさと幅は俺の胴体くらいあるかもしれない。

 そんな籠手が両腕に装着されていた。

 

 左腕は平べったくどっしりと、右腕の方は一回り細いがその代わり指の部分が猛禽類の爪のように鋭く尖っている。

 

 左腕は白とピンクの花びらデザインでいくらか圧が緩和されてるけど、右腕は紫と緑がメインのなんとも毒々しい色で、味方だとわかってても近寄りたくない生理的な怖さを感じる。


「来るぞ。構えろ」


 階段の上の方から流れるように黒ずみが現れる。


 そのまま階段から床へと移動して、正面の何もない空間にどんどん集結しやがて球体状の見上げるほど大きな黒い霧の塊を形成した。


 世界が欠けたのではと錯覚するほどの黒さに染まった時、黒い穴から這い出るように霧から朧人が次々と現れる。


 そして耳を塞ぎたくなるような大音量の奇声をあげながら、ここにいる俺たちを飲み込む勢いで向かってきた。

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