未来の原点と、究極の時間修復(アルティメット・ヒーリング)
古文書研究室。時永 刹那は、螺旋の懐中時計を深く見つめ、未来への最終跳躍の準備を整えていた。彼の腕には、ひまりが用意した古代の導体がしっかりと巻き付けられている。
「八十年後の未来。オービターの本拠地へ跳ぶ」刹那は、決意を込めた眼差しで、二人の友を見た。
ひまりは、PCに未来の座標コードを入力し、コアの修復モードを**『長距離跳躍』**に切り替えた。
「律くん。あなたと私が、コアの全エネルギーを使って、『帰還の錨線』を張り続ける。刹那の魂が、未来の時間の奔流に飲み込まれないように」
律は、刹那の前に進み出た。
「無事に戻ってこい、刹那。俺たちの日常は、お前が守ってくれた場所にある。必ず、お前を『今』に引き戻す」
刹那は、二人の固い友情を胸に刻み、深く息を吸った。
「行ってくる」
グゥゥゥゥン!
刹那がコアの起動ボタンを押した瞬間、研究室全体が黄金色の光に包まれた。
刹那の身体は、未来の座標へ向かって、時間流の巨大な渦の中に放り込まれた。
未来の対峙:崩壊した世界の監視者
刹那が辿り着いたのは、八十年後の、荒廃した未来だった。空は灰色に澱み、眼下には巨大な、ドーム状の未来都市が広がっていた。そして、都市の中心には、時間跳躍者を管理するための、巨大な螺旋状の塔がそびえ立っていた。オービターの本拠地だ。
刹那は、塔の最上階に、マイクロ・シフトで潜入した。
そこにいたのは、歳を重ねたが、その冷徹な美貌は変わらない、佐藤梓だった。彼女は、塔の制御装置の前に立ち、時間流の乱れを監視していた。横には、静かに佇む封鎖者が控えている。
「ようこそ、時永刹那」佐藤梓は、静かに言った。「あなたの**『修復者』**としての到達は、予測していました。この場所こそが、**時間軸の病巣**そのもの」
刹那は、コアを構えた。
「なぜだ、佐藤梓。なぜ、時間軸を破壊する?」
佐藤梓は、悲しみに満ちた笑みを浮かべた。
「破壊? いいえ。私たちは、人類の時間軸が、**『永遠の崩壊』へと向かうのを『監視』し、『最小限の痛み』**で管理しているだけよ」
彼女は、塔の制御装置のモニターを指差した。そこに映っていたのは、過去数百年にわたる、人類による『時間の傷』の記録だった。
「我々オービターは、この塔が、約八十年前に**『人類自身の愚かな時間兵器の実験』で自滅的な大事故を起こした際の、『残骸』**なのよ」
佐藤梓は続けた。オービターは、未来を救うために作られたのではなく、崩壊した時間軸から**『監視』するために生まれた存在**だったのだ。
「そして、あなたがコアで修復しようとしている**『最初の傷』。それは、この塔の崩壊事故そのもの。この傷が完全に消えれば**、私たちオービターの存在理由も、消滅する」
究極の時間修復
オービターの存在理由をかけて、最後の対決が始まった。
封鎖者が、強烈な時間遅延を塔の内部に仕掛けた。刹那は、重い時間流の中で、動けなくなる。
「もう遅い! あなたの修復の力は、私たちを救済できない! 絶望だけが残る!」佐藤梓が叫んだ。
その時、律とひまりが張る**『帰還の錨線』が、黄金色の光の柱となって、未来の塔の遥か上空**に出現した。
『負けるな、刹那! あなたの力は、希望だ!』(ひまりの声)
『俺たちが、お前を『今』に引き戻す!』(律の声)
刹那は、二人の友情をコアの最後のエネルギーとして受け取った。
「そうだ! 修復は、破壊じゃない! 全てを、あるべき姿に戻すことだ!」
刹那は、マイクロ・シフトで自分の存在を一瞬だけ『時間の軸』から解放した。そして、螺旋の懐中時計の全エネルギーを、**『修復モードの最大出力』**へと切り替えた。
ゴォォォォォォォォォォォォォン!!
塔全体が、眩い黄金色の光に包まれた。それは、時間軸の破壊ではなく、時間軸の『再構築』。
刹那の修復の力は、塔を崩壊させた過去の事故を**『消去』するのではなく、『事故によって生まれた歪み』を完全に中和**し、人類が自滅の道を選ばない、新たな、安定した時間軸へと、未来を優しく導いた。
**究極の時間修復**の成功。
佐藤梓と封鎖者の身体が、光の粒子となって分解し始めた。彼らは、修復された時間軸には、存在理由がないことを悟ったのだ。
『時永刹那……ありがとう。私たちは……解放された』
佐藤梓の感情を持たないはずの瞳から、一筋の涙が流れた。
最後の帰還と、日常の再開
光の粒子が消滅し、オービターの本拠地は、時間の守護を目的とする、平和な研究施設へと姿を変えた。
刹那は、帰還の錨線に、最後の力を込めた。
グゥゥン!!
時間のトンネルを通り抜け、刹那は、現在の研究室の床へと倒れ込んだ。
彼の上には、ひまりと律が、安堵の涙と共に、覆いかぶさっていた。
「刹那! おかえり!」
螺旋の懐中時計は、静かに輝きを失い、ただの古い懐中時計に戻っていた。コアのエネルギーは、時間軸の修復という最終目的のために、全て使い果たされたのだ。
数日後。
千堂高校の教室。時永 刹那は、窓の外の青空を見つめていた。彼の左手首には、もう何の力も持たない、古い懐中時計が巻かれている。
律は、隣の席で、相変わらず豪快な居眠りをしていた。
「なー、律。もう、時間の波紋とか、見えないのか?」
「ああ。全く見えない。ただの普通の景色だ」律は、目覚めてそう答えた。「でもな、刹那。お前の不安だけは、前よりも鮮明に見える」
「うるさいな」刹那は笑った。
ひまりは、教室のドアから、二人に新しい古文書のコピーを見せながら、笑いかけた。
時間跳躍者としてではない。三人の友人として、彼らは、**時間軸が安定した『日常』**へと戻った。
しかし、彼らの絆と共有された記憶は、**『クロノス・ジャンパー』**として、永遠の時間の中で、輝き続けるだろう。




