表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

過去の傷跡と、原点(オリジン)の修復

夜明け前、刹那、律、ひまりの三人は、一台のタクシーで、五年前の事故で刹那の祖父が亡くなった、郊外の廃墟へと向かっていた。

律の時間センサーの瞳には、周囲の風景とは異質の、血のような灰色と黒い淀みが混ざった強烈な波紋が、廃墟全体から噴き出しているのが見えていた。

「間違いない。ここが、奴らが仕掛けた**最も深い『時間の傷跡タイム・スカー』**だ」律が緊張した声で言った。「他の傷跡とはレベルが違う。まるで、過去の時間が穴を開けているみたいだ」

刹那は、左手首の螺旋の懐中時計を握りしめた。彼の時間跳躍者としての人生は、全てこの**「傷」**から始まった。

「オービターの狙いは、俺が過去を修復しようとする衝動を利用して、パラドックスの罠にはめることだ」刹那は冷静に言った。「だが、俺は行く。この傷を放置すれば、俺の存在そのものが不安定になる」

過去を縛る罠

廃墟となった祖父の研究棟の前に、**『操作者マニピュレーター』の佐藤梓と、『封鎖者ブロッカー』が待ち構えていた。彼らは、コアのバリアが作動しない「外部」**で、三人を迎え撃つ。

「ようこそ、修復者」佐藤梓は、白い杖を地面に突き立てながら、嘲笑した。「あなたは、最も触れてはいけない過去へと、自ら足を運んだ。ご存知でしょう? 過去を変えれば、未来は消滅する」

彼女の杖から、不可視の時間流の波動が放たれた。刹那の周囲の風景が、熱された陽炎のように歪み始める。

「これは、物理的な遅延ではないわ」佐藤梓は冷たい声で言った。「これは、『時間記憶のループ』。この傷跡に入った者は、過去の悲劇が起こる、五秒前の瞬間に、意識だけを永遠に閉じ込められる。あなたは、祖父を救えない自分を、永遠に呪い続けることになるわ」

刹那の視界が、一瞬で五年前の、焼け焦げた研究室の光景へと切り替わった。

ドォン!

刹那の意識は、**祖父が事故に遭う『五秒前の時間軸』**に、強制的に引きずり込まれた。彼の肉体は、意識のないまま、現在の廃墟の前に立ち尽くしている。

「刹那! 意識を保て!」律が叫ぶ。彼の時間センサーの瞳には、刹那の肉体の周りに、過去の時間が渦巻いているのが見えていた。

マイクロ・シフトと、祖父の声

刹那の意識の中。

炎と焦げ臭い匂い、そして祖父の咳き込む声が響いていた。祖父は、崩れ落ちた研究機器に挟まれ、懐中時計を胸に抱きしめている。

「刹那……逃げろ!」

刹那は、祖父を助けたいという強烈な衝動に駆られた。これが、時間跳躍者が最も陥りやすい罠だ。

(違う! 修復だ! 過去を変えるな! 変えれば、俺の*『今』*が消える!)

刹那は、自分の右手に集中した。彼は、修復モードで得た**『マイクロ・シフト』の力を、極限まで制御し、祖父の懐中時計の周りの時間流**に、微細な波紋を送り込んだ。

「修復……!」

それは、一秒の千万分の一の時間だけ、祖父の懐中時計の周囲の時間流の歪みを**『安定』**させる操作だった。

その時、祖父の唇が微かに動いた。事故の激痛の中で、祖父は懐中時計の表面に、古代の暗号を刻み込んでいた。

その刻印こそ、コアの『起動パスワード』の最初のピースだった。

刹那は悟った。祖父は、**『救われること』を望んでいたのではない。『未来へ繋ぐこと』**を望んでいたのだ。

刹那がマイクロ・シフトで祖父の過去の行動の『意図』を安定させた瞬間、過去の時間の重圧が、刹那の意識からスッと消えた。

アンカーの防衛線

刹那の意識が、**現実(現在)**へと戻り始めた、その刹那。

「戻すな!」封鎖者が、最大出力の時間遅延フィールドを、刹那の肉体めがけて放った。

「律! 今だ!」ひまりが叫ぶ。

律は、地面に両足を強く踏み込んだ。彼の瞳に、時間遅延の青い波紋が歪んで迫るのが見える。

律は、自分の意志を螺旋の懐中時計に繋ぎ、**「俺たちは、動かない」という強烈な『現実の定着』**の力を発した。

ズン!

封鎖者の時間遅延フィールドは、律の**『アンカーの力』**によって、一瞬だけ『弾き返された』。

刹那は、その隙に、完全に意識を現在へと引き戻した。

「やった……! 過去は変わらない。だが、傷跡は消えた!」

律のセンサーの目にも、研究棟全体を覆っていた灰色の波紋が、穏やかな黄金色の光へと変わり、修復されているのが見えた。

佐藤梓は、歯噛みした。

「馬鹿な……! 過去の決定的な傷を、パラドックスを起こさずに修復しただと!? コアの修復能力が、我々の時間ループの罠を打ち破った!」

彼女は、直ちに撤退を命じた。

「撤退よ! **彼らは、もはや『跳躍者』ではない。『時間修復者』**だ! 次は、**彼の最も親しい『記憶』**を標的にする!」

刹那の修復者としての最初のミッションは成功した。しかし、オービターは、物理的な過去から、**精神的な過去(記憶)**へと、攻撃の対象を切り替えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ