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わらう若き哲学者たち(本編)  作者: 白髪書生
0章 キャラクター紹介ショートストーリー
1/5

キャラクター紹介 織部朔貴編

 朝の通学電車は、制服姿の高校生で混み合っていた。

 吊革を揺らすたびにリュックがぶつかり、どこからか小さな笑い声が聞こえる。スマホの画面を覗き込みながらお菓子の話をする者、試験勉強のプリントを手にしたまま舟を漕ぐ者。若さのざわめきに満ちていた。


 織部朔貴──十六歳。青陽高校二年四組。

 その喧騒のただ中で、彼は一人、吊革に掴まりながら単語帳をめくっていた。


 「……うっ。」

 胃の奥が重くなり、ページの文字が波のように揺れて見える。

 慌てて単語帳を閉じ、窓の外へ視線をやった。


 朝の街並みが流れていく。

 ビルのガラスに、ぼんやりと自分の顔が映っていた。


 ――自分って、なんなんだろう。


 そんな問いが、ふいに浮かぶ。


 名前は織部朔貴。十二月二十四日生まれ。血液型はAB型。

 母の実家近くで生まれ、幼い頃は海老名に住んでいた。五歳で横浜郊外へ移り住んだ。


 父は大学の准教授で天文学を教え、母はメーカー勤務の会社員。

 弟がひとり。

 自分は体が弱く、入退院を繰り返した子ども時代を過ごした。六歳の頃には、生死の境をさまよったらしい──覚えてはいないけれど。


 趣味は天体観測と天体写真、そして読書。

 得意科目は数学と物理。所属は化学部。


 情報を並べれば「自分」が定義できるような気がする。

 けれど、そこに浮かび上がった像は、どこか薄っぺらくて掴みどころがなかった。


 ――いや、人間性は、人との関わりの中でこそ定義できるのかもしれない。


 ならば、俺の周囲の人間は?

 両親、弟。

 友人の石田と中村。

 化学部の顧問、薮内先生。

 後輩の小春ちゃん。

 真壁くん。


 思いつく名前を数えるうちに、電車は高校の最寄り駅に着いた。


 改札を抜けると、同じ制服を着た生徒があふれ出す。

 肩をぶつけ合い、ふざけあいながら歩く男子。

 カーディガンの袖を直しながら恋バナを続ける女子。

 制服姿の群れは、まだ眠たい街を一気に青春色に塗り替えていく。


 その波に押されながら、朔貴も校門へと続く坂道を上った。


 ――あぁ、そうだ。ひとりだけ、俺の人生にとびきり大きな変数がある。


 青陽高校の門が見えてくる。

 門の前で黒塗りの車が停まり、後部座席からひとりの少女が降りてきた。

 短い髪が朝日にきらめき、彼女は運転席の服部さんに向かって屈託のない笑顔で手を振る。


 榎本茉莉花。

 俺の一つ上の学年の先輩で、化学部の部長で──そして、俺の幼なじみ。

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