キャラクター紹介 織部朔貴編
朝の通学電車は、制服姿の高校生で混み合っていた。
吊革を揺らすたびにリュックがぶつかり、どこからか小さな笑い声が聞こえる。スマホの画面を覗き込みながらお菓子の話をする者、試験勉強のプリントを手にしたまま舟を漕ぐ者。若さのざわめきに満ちていた。
織部朔貴──十六歳。青陽高校二年四組。
その喧騒のただ中で、彼は一人、吊革に掴まりながら単語帳をめくっていた。
「……うっ。」
胃の奥が重くなり、ページの文字が波のように揺れて見える。
慌てて単語帳を閉じ、窓の外へ視線をやった。
朝の街並みが流れていく。
ビルのガラスに、ぼんやりと自分の顔が映っていた。
――自分って、なんなんだろう。
そんな問いが、ふいに浮かぶ。
名前は織部朔貴。十二月二十四日生まれ。血液型はAB型。
母の実家近くで生まれ、幼い頃は海老名に住んでいた。五歳で横浜郊外へ移り住んだ。
父は大学の准教授で天文学を教え、母はメーカー勤務の会社員。
弟がひとり。
自分は体が弱く、入退院を繰り返した子ども時代を過ごした。六歳の頃には、生死の境をさまよったらしい──覚えてはいないけれど。
趣味は天体観測と天体写真、そして読書。
得意科目は数学と物理。所属は化学部。
情報を並べれば「自分」が定義できるような気がする。
けれど、そこに浮かび上がった像は、どこか薄っぺらくて掴みどころがなかった。
――いや、人間性は、人との関わりの中でこそ定義できるのかもしれない。
ならば、俺の周囲の人間は?
両親、弟。
友人の石田と中村。
化学部の顧問、薮内先生。
後輩の小春ちゃん。
真壁くん。
思いつく名前を数えるうちに、電車は高校の最寄り駅に着いた。
改札を抜けると、同じ制服を着た生徒があふれ出す。
肩をぶつけ合い、ふざけあいながら歩く男子。
カーディガンの袖を直しながら恋バナを続ける女子。
制服姿の群れは、まだ眠たい街を一気に青春色に塗り替えていく。
その波に押されながら、朔貴も校門へと続く坂道を上った。
――あぁ、そうだ。ひとりだけ、俺の人生にとびきり大きな変数がある。
青陽高校の門が見えてくる。
門の前で黒塗りの車が停まり、後部座席からひとりの少女が降りてきた。
短い髪が朝日にきらめき、彼女は運転席の服部さんに向かって屈託のない笑顔で手を振る。
榎本茉莉花。
俺の一つ上の学年の先輩で、化学部の部長で──そして、俺の幼なじみ。




