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『スプラッシュ・サマー・キス♡』[夏のホラー2025 恋とホラー⑥]  作者: のびろう。
水無月あおい編『ゾンビの島と、たったひとりの夜』
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エピローグ:「命のとなりで、キミを愛した」

あの日のことを思い出すと、いまでも心が熱くなる。


わたしの手の中にあった、彼の鼓動。

恐怖の中で交わしたキス。

体の奥に届いた、熱とやさしさ。

それはたしかに、命と命が結ばれた瞬間だった。


小学生アイドルのわたしが、

無人島で、命がけで、

恋をして、愛し合った――なんて言ったら、誰も信じないかもしれない。


でもそれでいい。


あれはわたしたちだけの夜。

真実は、ふたりだけが知っていればいい。


九月になって、ライブのリハーサルが再開された。


メンバーたちは、いつものように笑っている。

ももかは図書館の撮影のことでテンションが高くて、

しずくはダンスの構成にうるさくて、

りりあは新しい衣装に夢中で、

ななせは振り返りで感極まって泣いていた。


わたしは……ただ静かに、いつも通りだった。


でも、きっと顔は少しだけ違ってたと思う。

みんなが気づかないくらいの変化――でも、彼にはわかる変化。


「……また、会える?」


リハ終わりの廊下で、そう聞いた彼に、わたしは少し照れながらうなずいた。


「うん。今度は、ステージじゃなくて、ふたりだけで」


わたしたちの関係は、“大人”から見ればまだあいまいなものかもしれない。

だけど、あの夜、

わたしは彼を選んだ。

心も体も――全部、彼に預けた。


それは、夢なんかじゃなかった。


あの夜を知らないまま、大人になるなんて、きっとできなかった。

あの夜を知らなかったら、わたしは、

ただ“強がってるだけの子ども”で終わってた。


だけど今のわたしは、もう違う。


わたしは、知ってる。


死ぬほど怖い夜を。

愛した人のぬくもりを。

心と体がつながることの、意味を。


だからこそ、わたしは歌える。

この夏、ひとりの男の人を、本気で愛したって。


たとえそれが、

“命のとなり”でしか叶わなかった恋だとしても。


ライブ本番、ステージのライトがわたしを照らす。

客席の奥で、彼が手を振っているのが見える。

誰にも気づかれないように、小さく笑ってうなずいた。


――ぜんぶ、ありがとう。


もう一度、恋をしよう。

今度は、命の隣じゃなくて。

もっともっと、平和な明日で。


だけど、どんなに穏やかな世界でも。

あの夜ほど、強く愛せる自信は――

たぶん、ない。


だって、あの夏は奇跡だったんだ。


それが、わたしの“スプラッシュ・サマー・キス”。


わたしは、命のとなりで、

確かに、あなたを愛したのだから。


(水無月あおい編:完)

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