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サツキは五年前にいなくなったんだよ。村の皆で一生懸命探したじゃないか。それでも見つからなくて……そのはずなのに。
「お母さん、今日カレー?」
「そうよー、サツキが昨日食べたいって言うからさー」
サツキの母親は鍋にカレールーを入れている最中だった。
「昨日?」
耳を疑った。昨日、サツキがカレーを食べたいって言ったって?
「やったー」
サツキは無邪気に喜んでいた。
「昨日サツキが家にいたのか?」
龍太郎は啓介の肩を掴んで問いかけた。
「?」
啓介は眉根を寄せながら、龍太郎を見ていた。何も応えてくれなかった。
「龍ちゃん、次は杏奈ちゃんに会いに行こ」
「え、ちょ」
サツキは龍太郎の手を引いて玄関を出た。
「待てよ、いったいどういうことなんだよ!」
玄関を出てすぐ龍太郎は足を止めた。
「どうしたの?」
サツキは不思議そうな顔で龍太郎の顔をのぞき込んだ。
「どうしたのじゃねえよ、俺以外、今までお前がいるみたいな認識になっちまってるじゃねえか」
心のなかの疑問を正直に言葉にした。
「そうだったね」
「ついてけねえって」
「私、いるもん」
サツキは今にも泣きそうな顔になっていた。そうだ、この顔だこの表情がいつも俺を困らせた。
「いるけどさ」
いる。確かに目の前に昔と同じ姿のサツキがいる。
「私、帰ってきたんだよ! 龍ちゃんもっと喜んでよ!」
「そんなこと、言われても」
この状況で手放しで喜ぶなんてことできそうもなかった。はっきり言って理解できなくて怖いくらいだった。
龍太郎の顔をまっすぐ見るサツキはわなわなと肩を震わせて一言、
「ばか!」
と言い放ってから背中を向けて走っていった。
「ま、待てよ!」
龍太郎はサツキを追いかけた。少女の背中を追いかけた。
近隣の家々を通り過ぎ、橋を渡った。田んぼの畦道まで来ていた。