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といいながら龍太郎は小学生の頃の思い出を脳裏に描いた。
廊下を走る龍太郎。
前にはサツキが杏奈と並んで歩いていた。
タタタタタタ
龍太郎の魔の手がサツキの赤いスカートの端をとらえた。
一陣の風が通り過ぎた後のように、サツキのスカートがめくり上げられて、パンツが丸出しになった。
かわいい熊が顔をだした。
「きゃあ!」
「ははは、くまさんパンツー」
「もー」
「ちょっとやめなよ」
そんなこともしていたなと龍太郎は思った。
「なんだか、悲しい気分」
とサツキは泣き真似をする。
「いや、待て待て待て、お前が本当のサツキだとしよう、今まで何処いってたんだよ」
「神隠し」
とぽつりと言った。
「神隠しだあ?」
「そ、神隠し」
「なんで成長してないんだよ」
と居なくなった当時の姿そのままのサツキを見て言った。
「私にもわかりませーん」
「いったい、今まで何してたんだよ」
と当然の疑問をぶつけてみた。
サツキは無表情になってこちらを見つめるだけだった。
なんだか怖かった。
「それよりさ、帰ろお家、ほら」
「え……」
サツキは表情を戻して龍太郎の手を取った。
繋いだ手が温かい。
引かれるまま進んで行く龍太郎。
藤の花が揺れている。
前と変わらないサツキの姿をみて、本当に本人なのかもしれないと龍太郎は思い始めていた。
「なあ、おじさんとおばさん、啓ちゃんになんて言うんだよ」
「え? ただいまって言うだけだよ」
サツキはさも少しだけ遊びに出かけていたみたいにいった。五年も行方不明になっていたのに。それで通用するとでも思っているのだろうか。絶対に驚かれるに決まっている。
ガラガラガラ