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そういえばサツキ、居なくなる前に祭り行きたいとか言ってたな。
ガヤガヤと人の喧噪が聞こえる。出店の食べ物の匂い。走り回る子供達。
「ねえ、どうどう? 似合うかな」
白地に赤い金魚が泳いでいる浴衣を着た少女はその場でくるりと回ってみせた。
「似合うんじゃないか?」
と龍太郎はすぐに屋台に目を移して答えた。
「うわあ、興味なさそー」
興味はあった、浴衣を着たサツキは綺麗だと思った。最初は見とれてしまって言葉を失っていたくらいだ。照れ隠しに曖昧に答えただけだった。
「どうだ、僕の妹が可愛くないわけないだろお!、いやあ、惚れ惚れするね!」
啓介が横で自慢げにしている。
「でたよ、啓ちゃんのシスコン」
「なんか、久々にそのノリ見ると、怖くなってくる」
と普段通りの短パンにTシャツの杏奈は身震いをした。
「何も怖くなんかなーい!」
「クレープ食べよっかな」
と青い花柄の着物姿の鈴は口元に人差し指をつけて、クレープ屋を凝視していた。
「鈴よ、なぜ人の話を聞かないのだ」
「いや、聞いてるけどさ、わざわざ反応する意味ある?」
と鈴は啓介に冷たい眼差しを向けた。
「寂しいじゃんか」
「そばにいるだけ、ありがたいと思え。サツキ、杏奈、クレープくうぞ」
「わあーい」とサツキと杏奈もクレープ屋に近づいていった。
ぐすんと啓介は涙ぐんだ。
「啓ちゃん、たこ焼きと焼きそばどっち食べる?」
「んー、どっちも捨てがたいが、僕はたこ焼きかな」
「すいませーん焼きそばくださーい」
「たこ焼きっていったよねえ!」
「あれ? そうだっけ」
「もう、なんでたこ焼き食べるとか聞いたんだよ」
「ごめん、ごめん」
その後、五人で盆踊りに参加して、懸賞大会でサツキは大きなゴミ箱を当てていた。
「やったー」
サツキはゴミ箱を抱えながら嬉しそうにしていた。
「良かったな」
「うん! 楽しかった、今日こられて良かったー、また来たいなあ」
「来年も来たらいいだろ」
「そうだね、皆でこれたらいいなあ、あ、ねえねえ児童館寄ってこ」
帰り道。ちょうど、昔良く遊んでいた児童館のそばを通った。児童館に目をやると、街灯が一本立っていて、ほの暗く照らされた建物が一つ。上の山ほうは暗闇に包まれている。