小川哲『スメラミシング』を読んで
出会いは最悪だった。ネットで公開されている10000字の先行公開分の文章「スメラミシング」を読んで、ほぼ発狂に近い怒りを覚えた。
というより、自分は読書向きの人間ではない。この短編集も創作のはずなのだが、書かれてあること一語一語に、作者の主張はつまりこういうものなんだな、というように読み取ってしまう。
読みながらそうした考えがこちらに頭をもたげてくる度、向こうもヒットアンドアウェイ戦法で時折、切れ味鋭い言葉のナイフでこちらをぶん殴ってくる。
コノヤロウ、そんなに殴り合いがしたいのか、と思い始めた三作目「スメラミシング」中盤から、どうも話のトーンが落ち着いてきた。こちらも身を入れて、そのあたりからは落ち着いた気持ちで、読む。
結局、キングオプコントをBGMに今日一日で最後まで読了してしまった。自分のような末端の書き手がどうこう言うのもおこがましい。本当によくできた話だと思う。ただはじめに読んだ時、どうしてこの作品に自分があれほど拒否反応を示したのか、とっくり考えるに、おそらくそれはこの『スメラミシング』がエセ宗教やエセ科学を作品にうまく落とし込んでいるからだと思う。
自分は盲信するタイプなので、小説という形式にはこれまで散々苦しめられてきた。
話は変わるが、文芸誌など読んでどうしてこんな人を叩きのめすようなことを書くのだろうと思ったことが度々ある。こんな時、死んでる作家なら扱いは楽だ。
魚心あれば水心あり。応えてくれる書き手だと思った。
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収録作品
「七十人の翻訳者たち」
古代アレクサンドリアと2026年の近未来が舞台。アレクサンドリアの王はヘブライ語の聖書をギリシャ語に翻訳するようユダヤの翻訳者たちに命じる。
現代パートではこのユダヤ教の逸話(創作なのか本当に聖書に書かれてるのか)の瑕疵を突く。宗教観で作品の価値が変わる、一か十かの作品。
「密林の殯」
荒っぽい会話の端々で、作者がすっと顔を出してくる。罵られたいあなたに。
「スメラミシング」
おめでとう、YOUは神になりました。
「神についての方程式」
一番ポップな作風。科学と神学の講演を、ライターが記事にする。
「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」
神を信仰しない星の歴史。陰謀論はここにも。
「ちょっとした奇跡」
地球最後の歴史をつくる若者たちの航海。終末色強し。希望はある。