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量産勇者、自由を掲げよ。  作者: 陶花ゆうの
8 幸運の勇者さま
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25 ヘルヴィリーにて待つ

 リエラから透過視精でこの場所を教えられたヴィレイアは、まさに即座に飛んできた。

 

 その場の惨状を見て愕然とした彼女が、真っ先にリベルに駆け寄りながら指を振る。


「――契約、影、治癒精」


 そしてリベルの手を取ろうとしたのを、リベルが首を振って一歩下がり、そばの小隊長を示す。


「彼を先に」


「――――」


 ヴィレイアは不服そうな顔を見せたものの、無言のうちに両手に治癒精の光を灯してみせた。

 同時に、というわけだ。


 治療を受けながら、リベルは、今は勇者たちが拘束しているラディスの面々を見渡す。


 周囲にはもう衛卒もいない。

 場の異様さが衛卒が面倒を見られる範囲を超えた、というわけである。


「ヴィリー、影兵霊でも――他の精霊でも。この人たちを押さえておける?」


「任せて」


 ヴィレイアが答え、即座に地中から這い出すかの如くに影兵霊が辺りに這い出し、ラディスの面々を古代の剣で脅し、拘束に掛かった。

 これには悲鳴が上がったが、無理ないことであろう。


 リベルは目を擦る。


「できれば目隠しを頼めるか。その……合流できない奴がいるから」


 ヴィレイアが頷く。


 途端、影兵霊たちが、さながら拘束したラディスの面々の熱烈な恋人であるかのように彼らに背後からしなだれ掛かり、目と耳を覆ってしまう。


 喚き声が上がったが、ヴィレイアはこれは意に介さなかった。

 むしろ他の勇者の方が不安げにしている。


 当然だが、勇者は対人戦闘に慣れているわけではないのだ。


 ヴィレイアが「完了」と言わんばかりにひとつ頷くのを待ってから、リベルは左手の人差し指の赤い指輪に口づけた。


「――エルカ、もういいよ」


 ヴィレイアは不思議そうな、怪訝そうな、きょとんとした顔を見せている。

 リベルがその表情を妙に思い、「エルカは顔を知られてるかも知れないんだから、見られるわけにはいかないだろ?」と言おうとした、ちょうどそのとき、息せき切ったエルカが駆けつけてくる。


 アーディスとリガー、アガサを除く勇者の面々は、「おまえ、何してたの」と言わんばかりの目をエルカに向けたが、エルカはそれを関知しなかった。

 真っ直ぐにリベルに駆け寄って、気遣わしげに彼を抱き締める。


「リベル、大丈夫か」


「大丈夫だ」


 二重の意味でそう答え、リベルはエルカの腕を叩く。


 エルカは傍目にもほっとした顔を見せてから、ヴィレイアに微笑み掛けた。


「来てくれてありがと」


「むしろ、いなくてごめんね」


 エルカは愛情を籠めてヴィレイアを小突き、振り返って、臆面もなく号泣しているリエラに苦笑した。


「きみも大丈夫?」


 ヴィレイアがそっとエルカとリベルの服の裾を引く。


「ねえ、ちょっと、なんでエルカだけ隠れてたのよ」


 リベルもエルカも面喰らった。


「え? いや、だから――」


「リエラは?」


 ヴィレイアは大真面目にそう囁き、リベルもエルカも瞬時に凍りついた。


「リエラだって、もしかしたら顔を見られて覚えられてたかも――」


「あ、いや」


 と、これはエルカ。


「あの子についてたのは俺たちだから……今はまとめてヴァフェルムさまのとこに……」


「本当に? 全員?」


 ヴィレイアに念押しされ、ぱくぱくと唇を開け閉めするエルカ。


 リベルは思わず、批難するように兄貴分を見た。


「おまえが一人でさっさと隠れるから、てっきりリエラはこっちで匿っとくのが安全かと思ったんじゃないか」


「それを言うなよ。俺だって動転してたんだ」


「動転? おまえが?」


「なあリベル、俺だって全知全能じゃない――」


「知ってるよそんなこと」


 ヴィレイアが咳払いして、リベルとエルカの不毛なやり取りを遮った。


「とにかく、この人たちは捕まえておかなきゃまずいってことね。

 ――どうしようか。まさか泊まってるホテルに入ってもらうわけにもいかないし」


「それに」


 リベルは棒を呑んだような気持ちでそう言って、脇に寝かせた小隊長を見下ろした。

 背中に汗が滲む。


「問題は彼だ」


 小隊長はなおも失神しているが、目を覚ませばどういった行動を取るか、それは想像に難くない。


「彼らが貰ってる命令は――他の人たちから聞くとして、この人だけはその命令を完遂しようとするはずだ」


「多分だけど、訊くまでもないと思うよ」


 とヴィレイア。


「商会の方も、自分たちに不利になる情報を流してる人たちがいるに違いない、って見当をつけたんじゃない? それで、余所者っぽい私たちに、取り敢えずこの人たちを嗾けてみた、っていうところかな。

 あなたたちを捕まえて、傭兵団だか商会だかの拠点に連れて行くつもりだったんだ」


「だったらこいつは?」


 リベルは屈み込み、小隊長の硬く瞼の閉じられた顔を怖々と撫でた。


「こいつは、何をすれば命令を完遂したことになるんだ? 拠点に行ってやるわけにはいかないよ」


 エルカがリベルと並んでしゃがみ込み、小隊長の頭を起こして膝を貸してやっている。

 そうして矯めつ眇めつ小隊長の彼の顔を見て、見覚えがあるかどうかを確かめている様子だ。


 ヴィレイアはしばしの沈黙ののち、首を振った。


「……わからない」


 リベルはしばし考え、そしてとうとう言った。


「……絶対にわかる奴が、知り合いにいるよな」


「リベル?」


 ヴィレイアがぎょっとしたようにリベルを見つめる。


 それを今だけは無視して、リベルは顔を上げ、中空に向かって呼びかけた。


「――()()?」





 他の勇者隊からすれば、驚きという言葉でも余る出来事だった。


 リベルが何かを待つ風情を見せた数分後、空に黄金の流星が瞬き、かと思うとそれが、旋回しながら降下してくる黄金竜となって、堂々たる着地を見せたのである。



 黄金竜は、その巨躯に似合わず、着地の際はただ、鉤爪が敷石に当たる()()()と澄んだ音を立てたのみだった。


 大きな翼が孕んでいた空気が風になる。


 亜竜とは違う――鳥に似た繊細優美なその姿。



 さすがに肝を潰し、アーディスが大声を出す。


「こりゃどういうことだ、リベル?」


 リベルはいっそ気まずげだった。

 彼がアーディスを振り返り、赤錆色の前髪をいじりながら呟くように応じる。


「――その……この人たちの中には、〈言聞き〉に誓約を立てさせられてる人がいるんだよ。この人がそうじゃないか、そうだったとすれば何を誓約してるのかが知りたいんだ」


「は?」


 茫然と呟いたのはほぼ全員の勇者に共通のこと。


「いや、そうじゃなくて、なんで都合よく〈言聞き〉が来るんだよ」


 尤もな疑問も飛び出したが、リベルは曖昧な身振りをした。


「その、心臓を貸してやったことがあるから、ほら……」


 何が「ほら」なのか、誰にもわからない。



 そうこうしているうちに、黄金竜の大きな背中から、丈高い〈言聞き〉がするりと地面に降り立っていた。


 繻子の光沢を持つ焦げ茶色の外套に全身をすっぽりと覆った、身の丈六フィートを超える異形の生き物。

 その〈言聞き〉が、勢いよくリベルに飛びつく。


 それを受け止めたリベルがよろめき、たじたじと〈言聞き〉を押し返した。


「久しぶり、クロ――〈陽輪(ひのわ)〉」


 黄金竜が、腹の底で太い弦を爪弾くような音を立てた。

 黄金竜の神秘の言葉が、頭の中に直接届く。


『然程久しくはないが、リベル。用が出来たか?』


 それから、その場でその光景を見た人間が全員度肝を抜かれたことに、黄金竜は親しげにヴィレイアに向かって鼻面を下げた。


 ヴィレイアが驚いた表情を浮かべてから、嬉しそうに礼儀正しく一礼を返す。


「人間にとってはお久しぶりなのよ、〈陽輪〉さん」


「用なんだけど」


 リベルが遮るようにして言った。

 彼が、エルカの膝に頭を預けて失神しているラディスの小隊長を指差した。


「あいつは〈言聞き〉に誓約してることがあるだろう。それを知りたい。

 禁則契約だろ? 何があればあいつが命令に従ったことになるのか知りたい」


『リベル』


 黄金竜は大風のような吐息を漏らした。


 〈言聞き〉のクロには、リベルの言葉はわかっていない――彼は楽しげに長身を揺らして、リベルとヴィレイアを見比べているようだった。


『私の(めぐ)し子を、百科万象の事典のように扱うな。そうして個々の誓約について教えてやる義理は、私にも愛し子にもない』


 リベルは眉を寄せた。

 彼はしばらく、何かを考えたようだった。


 それからリベルは当然のような足取りでエルカに歩み寄り、その腰から銃を取り上げる。


「――リベル?」


 さすがにエルカも怪訝な顔をする。

 黄金竜を相手にしては、銃など脅し未満どころか物笑いの種だ。


 が、リベルは銃を手の上で弄ぶと、それをくるりと自分の顎の下に当てた。


「リベル!?」


 周囲から一斉に驚愕と疑念の声が上がる。

 エルカが目を見開いて立ち上がろうとし、その拍子に小隊長の頭を地面の上に落とした。


「何してる!」


 リベルは微塵も動じず、黄金竜を見据えて言っていた。


「教えてくれないならこのまま撃つぞ」


『――――』


「俺がいなくなると困るんだろうが。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 おまえの可愛い〈言聞き〉にそう言えよ。白い本を見てもらえ」


『――――』


 黄金竜は数呼吸のあいだ、大きな琥珀の双眸で、興味深げにリベルを見ていた。


 それからやや首を下ろし、〈言聞き〉に向かって、ハミングするような調子で何かを囁く。


 〈言聞き〉が驚いたように黄金竜を振り返り、そして一歩リベルに歩み寄り、手品のようにどこからか、彼らに特有の真珠色の本を取り出した。


 リベルはほっとして銃を下ろした。

 だが、まだ撃鉄に指を掛けたままだ。


 ヴィレイアが目を見開いて駆け寄ってきて、リベルの腕をぎゅっと抱く。

 その唇が動いたが、上手く読み取れなかった。「なんてことを」か、「なに考えてるの?」か。


 エルカが、なんとか動悸を鎮めた様子で、慌てて小隊長の頭を再度自分の膝の上に載せてやっている。

 慎重に頭を探っているのは、彼に新たな傷が加わらなかったかを確認しているのだろう。


 真珠色の本を開いたクロが、ゆっくりとエルカと小隊長の周りを回り、如何にも忌々しそうにするエルカに慇懃無礼に会釈してから、真珠色の本の別の頁を開いた。


 そして声を出したが、それは、およそ言葉とは思えない、かん高い唸るような声だった。


 リベルは〈陽輪〉を振り返る。


「〈陽輪〉?」


『特定の集団を代理する者への忠誠と命令の完遂』


 〈陽輪〉は気のない調子で応じた。

 二つ虫如きが何を誓約していようが興味もないと言わんばかりだ。


 リベルは苛立ちを呑み込むために息を吸い込む。


「今は? 何を命令されてる?」


『そこまでは愛し子の知ったことではない』


 リベルは質問を変えた。


「こいつはどうすれば契約に違反したと見做されずに済む?」


『命令を完遂すればよい』


「それが無理なら?」


『罰を受ければよい』


「そんなことはさせられない!」


 リベルは叫んだ。

 苛々と爪先で地面を叩く。


(禁則契約を引き受けてやるか? ヴィリーがいて、治癒精を使ってくれるなら、出来ないことはない……)


 ヴィレイアが、見かねた様子で横から口を出した。


「彼が命令に違反していないと認識していたら?」


 〈陽輪〉が、腹の奥で声を立てた。

 クロがそちらを振り返り、また甲高い声で何かを応じる。


 それを聞き届けてから、〈陽輪〉は無造作に応じた。


『二つ虫の頭の中など、愛し子の知るところではない。愛し子らが見て、裁く』


 ヴィレイアは小隊長を見てから、試すように言った。


「――彼に意識がない間は?」


 黄金竜の双眸が瞬いた。


『当然、誓約に背いたことにはならぬ。ただ遅滞があるのみだ』


「ありがとうございます」


 ヴィレイアがリベルの手の甲を叩く。


「じゃ、寝ててもらいましょう」


 リベルは不安に顔を顰めた。


「ずっと? 目を覚ましそうになる度に殴れってか?」


「私とリエラがいるんだから大丈夫よ」


 ヴィレイアは朗らかに言って、それから声を低めた。


「――リベル、心臓が止まるかと思った。あんなことはやめて」


 リベルは微笑んだ。


 ヴィレイアの心臓は止まらない。

 期限のその日までは。


 そして期限のその日以外に心臓が止まるとすれば、それは、


「おまえの心臓を止めるためならなんでもするよ」


「――――」


 ヴィレイアは一瞬、悲しげな微笑を浮かべた。


 だがすぐにその表情を拭い去って、今も影兵霊に圧し掛かられて悲鳴も尽きたラディスの面々を見渡し、号泣が啜り泣きに変わったところのリエラと目を合わせる。


「リエラ、早く洟を吹いて、テスさんに連絡を取ってよ。それとも私がやろうか?

 とにかく、この計画外のお客さまたちを何とかしなきゃ」





*◇*◇*





 ノートンとテスはケセットにおり、テスとリエラであれば、カリアから透過視精を通じて伝言を交わせる距離だった。


 状況を聞いて、テスを通じてノートンが最初に確認してきたことは、次のようなことだった。


()()()した? ()退()したのではなくて?」



 リベルとヴィレイア、エルカとリエラは、無力化したラディスの面々を他の勇者に任せて(「影兵霊がいるから大丈夫だとは思うけど、逃がさないで」「暴力を振るわないで」という念押しに、ケルクが「二律背反だ」と呟いていた)、そこから少し離れた路地裏にいた。


 無論だが、衆人環視で話せる内容ではないからだ。


 そこに、ふらふらと〈言聞き〉のクロがついて来ていたが、彼は人ではないのでリベルとしてもどうでも良かった――ただ、エルカは〈言聞き〉に嫌悪感がある。

 ヴィレイアは、どういうわけかクロに対してのみはそれを克服したようだが。


 ゆえにリベルは頻繁に手を伸ばして、クロがエルカに必要以上に近づかないよう抑えていた。


 〈陽輪〉は巨躯ゆえに自由には動けず、降り立ったその場所に留まっている。



 リエラは路地裏の階段に腰掛けて(腰が抜けている、ともいう)、返答に困ったようにエルカを見上げた。


 と、突然、リエラの隣に座ったヴィレイアが、透過視精の影を彼女から奪った。

 通常であれば不可能事だが、ヴィレイアの稀代の法気がそれを許している。


「テスさん? ヴィレイアです。ノートンさんに伝えて。

 どのみちもういいでしょう、捕まえた人たちを連れてヘルヴィリーに戻ります。あの人たちを元いたところになんて絶対に戻せない」


「もういい?」


 エルカがぽかんとした様子で繰り返したが、リベルははっとした。


「そっか――俺たちに必要なのは、……ええと何だっけ……そう、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 数が多いから削っただけで、もう……何人だ? 確実に七人は削った。元の数が十五人だから――」


「残り八人」


「つまり、そこから会議を招集してもらう一人を除いた七人のうち過半数、だから……四人か、それを脅せばいいんだ。

 しめて五人だ、ヘルヴィリーに住んでる理事だけで事足りるようになってるんだ」


 つまり、と言葉を継いで、リベルは答え合わせを期待するかのようにヴィレイアを見つめる。


「あとはヘルヴィリーで決着がつけられるんだ」


 ヴィレイアは誇らしげにリベルを見た。


「そういうこと。

 それに、あっちこっちで同盟罷業が起こっていて、商会全体ががたついてることも大事――」


「じゃあ、もういいわけだ」


 リベルは言い切った。

 ヴィレイアに向かって告げる。


「じゃあ、ノートンさんに――テスさんに伝えて。

 なんて言われようとヘルヴィリーに連中を連れて戻る。ヘルヴィリーならある程度は勝手がわかる。適当なホテルに連中を隠すくらい出来るはずだ」


 ヴィレイアがそれをテスに、延いてはノートンに伝える。


 どうやら透過視精の向こうで、ノートンは相当に渋い顔をしたらしい。


 発言権は奪われたものの、まだ透過視精の影から遣り取りを追うことが出来ているリエラが、「すごく困っていらっしゃいます」と、そっと囁く。


 ヴィレイアも、「どうする?」と言わんばかりにリベルを見上げた。

 リベルは溜息を吐く。


「ノートンさんに伝えて。

 ――今回のことは俺たちと軍部(そっち)の利害の一致だ。そうだろ? 何をどうやるかもヴィリーが考えてくれたわけだし。軍部は表立っては動けないわけだし。

 だから、そっちのお許しは要らないんじゃないかな。親父さんには悪いけど」


 リエラが静かに、「私の雇い主は軍部のいちばん偉い方です……!」と悲鳴を上げたが、エルカがにべもなく、「それ、俺らの後ろ盾もそうだから」とあしらった。


 ヴィレイアが苦笑しながらリベルの言ったことをテスに伝え、ややあってリベルに視線を戻した。


「好きにしてください、だって」


「じゃあ、好きにしよう」


 リベルはそう言って、手を伸ばしてヴィレイアが階段から立ち上がるのを助けた。

 同時に、またふらふらとエルカに近づこうとしたクロを留める。


 エルカはクロから一歩置きつつ、リエラの手を掴んで引っ張り上げるようにして彼女を立たせた。


 エルカはそっとリエラから手を離そうとしたが、リエラの方が手を離さなかった。

 まだふらついていたのである。


 リエラが今もなお気分が悪そうにしているのを見て、エルカは呆れたように指摘した。


「俺との初対面の方がショックだったでしょ。そのあとの逃走とか」


「あれは……はい、そうですね」


 ヴィレイアが立ち上がりながら、リベルの顔を覗き込んでくる。


「ヘルヴィリーのショーズ商会拠点は、今ものすごく警戒していると思うわ。

 この短期間で、商会がいきなりひっくり返りそうになってるんだから」


「だろうな」


 リベルは顔を顰めた。


 結局のところ、リベルには禁則契約が圧し掛かったままなのだ。


 リベルが口を開くと同時に、彼が何を言おうとしているのかを察して、ヴィレイアが素早く彼の唇を人差し指で押さえた。


「大丈夫、変なこと言わないで」


 ヴィレイアが微笑む。


「言ったでしょう。――もう一回、あなたの幸運の勇者になってあげる」





 晩夏の月の十四日、ケセルク共和国のほぼ全ての勇者組合の〈フィード〉に、不可解な一文が載った。


 各組合の〈フィード〉担当者は、正当に透過視精から受け取った伝言を、はたしてこのような伝言を掲げていいものだろうかと首を傾げながらも書きつけ、掲示したのだが、誰一人としてその伝言に心当たりはなかった。



 が、勇者たちは見た――文字を知らない者は、他の者から読み聞かせられた。


 どの者も、ここのところ頻繁に耳にする噂を思い出していた。



 共和国のあらゆる都市の勇者組合で、〈フィード〉に貼り付けられた紙片には、こうあった。



 ――『ショーズ商会を黙らせよう! 鉱路は勇者のもの。ヘルヴィリーにて待つ!』





















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