18 独裁者の演説
「次。ベック・イーヴィ」
「コルンド在住。お呼び立てするには遠いですね。保留」
「次。ベーリッシュ・コングラッド」
「ヘルヴィリー在住です。お呼び立てしましょう」
「リゴリー・ゲイトン」
「私の方で揉め事の種を仕込んでおいたんですけど、どうでしょう」
「では動向を調べさせましょう」
理事名簿を広げたヴィレイアとノートンが陸艇の中で向かい合って、まるで札遊びでもするように名前を振り分けていく。
リベルとエルカ、リエラはそれを見ていた。
初夏の月三日、リベルたちは陸艇でヘルヴィリーに向かっている。
その道中で、ヴィレイアとノートンが、「ショーズ商会解散の決議に招集すべき理事」と、「失脚させるあるいは委任状を書いていただく理事」に、十五人の理事のうち、今も議決権を有している十三人を振り分けていた。
それが終わると、そこから更に、「失脚させる理事」と、「委任状を書いていただく理事」を振り分け始めたが、これはあくまでも提案の叩き台、これから訂正が加えられることが前提の計画の一歩めであるようだった。
そうこうしているうちに陸艇の中で食事が振る舞われる。
陸艇に積み込める食糧は限られており、調理手段となるとさらに限られていたが、出てくる食事はきちんと食事の体裁を保ったものだった。
リベルはヴィレイアの隣で食事を口に運びつつ、眩しそうに彼女を見遣った。
唐突に、こうしてそばにいてくれる恋人として彼女が実在していることが、この上ない贅沢に思えてきたのだ。
リベルが突然食事の手を止めて髪に触れてきたため、ヴィレイアは驚いた様子でぱちくりと目を瞬かせ、彼に視線を向けた。
長い睫毛の奥の濃緑の瞳を見開いて、しかし表情は親しみ深い苦笑に近い。
「どうしたの?」
リベルは微笑んだ。
「考えごとをおまえに任せてばっかりで申し訳ないなって」
リベルがそう言うと、ヴィレイアは上品に声を上げて笑った。
「あなたが不得意なことを私が得意にしてるなら嬉しいわ。少なくとも、その逆は正しいんだもの」
リベルは複雑な表情を浮かべてしまう。
こうしてヘルヴィリーに向かっているのは、ヴァフェルムに保護されている元ラディスの犠牲者たちを、この計画に引き込むためではあったが。
「――おまえをがっかりさせることに、ならなきゃいいんだけど」
「何を見ても、頼むからがっかりするなよ」
リベルは重ねてヴィレイアに告げた。
初夏の月四日、ヘルヴィリーにて、元ラディスの犠牲者に面する直前だった。
これをヴァフェルムの私邸で公然と行うわけにはいかず、ヴァフェルムの私邸から一ブロック離れた、旧王朝時代にはどこかの貴族の町屋敷だったのだろう――今は高級な集会所になっている建物の中だった。
建物の造りは優雅な白亜、リベルたちは風通しのよい玄関ホールにいて、その奥、今は幾つかの部屋を吹き抜けにして広々とした空間にしている集会ホールへは、まだ扉と壁で区切られていた。
本来であれば、軍籍の人間は一人たりともここにいることは好ましくなかったのだが、さすがに心配だったとみえ、バンクレットは分隊ひとつをこの場に寄越していた。
とはいえ中には踏み込まず、偶然にもこの近くを通り掛かっている、という体裁だ。
また、心配そうにするノートンもこの場にいたが、彼は歴史から己を消し去ろうとしているかの如くに物静かにしていた。
リベルとヴィレイアとノートンの他には、当然ながらエルカもこの場にいる。
ちなみにリエラはいなかった――エルカが断固として来させなかったのである。
「がっかりはしないと思う。でも私が気になってるのは、なんであなたがしっかり銃を持ってるのかってことよ」
ヴィレイアはそう応じたが、その目はリベルの顔ではなく手許、今しも装填を確かめた短銃に釘付けになっていた。
リベルが探索のときに使っている銃で、〈氷王牢〉と共に彼はいつも携帯しているから、所持していることに疑問はない。
が、装填を確かめてしっかり握っているとあっては、ヴィレイアが驚倒するのも当然といえた。
「ねえちょっと、何が起こる予定なの?」
リベルは曖昧に微笑んだ。
答えないまま彼はエルカに目を遣る。
彼自身も銃の装填を確かめていたエルカは、銃を収めて肩を竦めた。
「代わってやらないよ」
「どうしても?」
リベルが念を押すように尋ねるも、エルカは飄々と答える。
「どうしてもだ。変な風に話が伝わっちゃったりしたら嫌だしね」
リベルは眉を顰めた。
「誰にだよ」
「……まあ、どうでもいいじゃん。
それに第一、おまえと俺がいるなら、俺は後ろにいた方がいいだろ」
リベルは息を吸い込んだ。
「そう思うか」
「思うね。おまえが切れたら俺が止めてやれるけど、俺が切れたとき、おまえじゃ止められない」
ヴィレイアがノートンと顔を見合わせた。
戦々恐々として彼女がリベルの顔を見上げる。
「……ねえ、ほんとに、何が起こるの?」
リベルは曖昧に肩を竦めて引き続き誤魔化し、今度はおずおずとノートンを見た。
銃で集会ホールの方を示す。
「もう、中にいるんですよね?」
「まあ、はい」
ノートンも微妙な表情で、ちらちらとリベルの銃に目を向けている。
「ちなみにそれ、弾は入ってるんですか」
リベルははにかんだ表情で返答を保留した。
エルカと顔を見合わせる。
エルカが軽い語調でヴィレイアとノートンに告げた。
「呼んだら来て」
「呼ぶまで来るなってこと?」
「そういうこと。ただ、呼んだら飛んで来て」
ヴィレイアは心配そうだったが、頷いた。
「了解」
エルカが先に足を踏み出して、リベルの肩を叩く。
リベルは溜息を吐いてから、素直に足を踏み出した。
扉を押し開けて集会ホールに入ると、中のざわめきがいっそう大きくなった。
集会ホールには、百人は下らないだろう集団が犇めいている。
治癒精の騒動の際に取り押さえられた者たちがその大半で、中に、リベルが巻き込まれた〈言聞き〉の心臓の騒動で取り押さえられた、セイムの部下もいるはずだった。
彼らは今朝がた、唐突にここへ行けと伝えられただけだから、困惑するのも当然といえた。
中には、「今からラディス傭兵団に戻されるのではないか」と恐れていることがわかる強張った表情も散見される。
扉は開け放しにしたままで、リベルは顔を上げてエルカの前をつかつかと歩き、平然とホール前方に向かった。
集団の中でどよめきが上がった。
「エルカだ」
「そんなわけない」
「でもエルカだ」
「終わった――戻されるんだ」
集団の中でどよめきが大きくなり、パニックになろうとした寸前、リベルは無造作に銃の撃鉄を起こし、足許に向かって撃った。
破裂音――床に叩き込まれた銃弾がめり込む。
瞬間の沈黙を抉るように、リベルは告げた。
「――総員傾注」
あのときの声だった。
リベル自身がラディス傭兵団で小隊長として、仲間にすら銃を向けていたときの、指示慣れた声だった。
扉の向こうでノートンは元より、ヴィレイアも驚いたことだろう。
もし仮に、この場にアーディス隊の面々がいれば、瞠目して耳を疑っていたに違いない。
普段とは違う、大規模探索で指揮を執るときとも違う、高圧的で傲慢――かつ、冷淡なまでの、その声。
リベルがホール前方の壇に上がる一方、暗黙の了解で、エルカはその下に留まり、両手を背中側で組んで、指示されたとおりの傾注の姿勢を取った。
――このホールには、まさにエルカの部下だった者たちもいるのだ。
彼らからすれば、エルカが傾注の姿勢を取っていることの意味は大きい。
リベルは壇の上で振り返り、ぐるりと眼前を見渡した。
知っている顔はない――そう思った。
それが、五年という歳月が記憶を押し流したがゆえなのか、それとも実際に見知った顔がなかったからなのか、それはわからない。
銃声で一気に警戒心を高め、ゆえに口を閉じた彼らが、リベルが続けて発砲する気がないらしいということを見て取って、ゆっくりと緊張を解いた。
「――誰だ、あいつ」
誰かが囁く。
リベルは微笑んだ。鉱路の中で見せる凶暴な笑顔とは違う、そしてもちろん、エルカやバンクレットに見せる打ち解けた笑顔とも違う、ヴィレイアに見せる愛しげな笑顔とも完璧に隔絶された、相手を脅すための微笑だった。
――ラディス傭兵団から救出されたとはいえ、彼らは完全に自由の身となっているわけではない。
そして何より、今回のこの件が、彼らを本当に自由にするのだと言っても、ぴんとくる者は少ないはずだ。
リベルたちにはバンクレットやヴァフェルムへの信頼があるが、彼らは違う。
ならばここで彼らを、脅してでも協力させて、それから自由になった彼らに、自由とは如何なるものかを己で気づいてもらう方が話が早い。
口に出さずとも、ラディスがどんな場所であったかを知るリベルとエルカは、当然にそう合意していた。
「傾注」
リベルは繰り返して、ちょうどそのとき、他より少々大きな声を出していた一人の頭に、檀上からぴたりと狙いをつけて銃を構えた。
その仕草に堂に入ったものを感じたのは全員共通だっただろう、ホールがたちまちのうちに緊張感を孕んだ沈黙で満ちる。
リベルは銃を構えたまま、殆ど愛想がいいまでの語調で、しかし冷淡な声音で続けていた。
「これからしばらく俺の指示に従え。おまえたちに仕事をやる。
納得できない奴は手を挙げて前に出ろ」
「どっちかじゃ駄目なのか?」
集団の中から揶揄するような声が上がった。
リベルは冷ややかに微笑んだ。
「もちろん、どっちかでもいい。
不満があるようだな、手を挙げろ。あるいは前に出ろ」
数瞬の逡巡ののち、先ほどの揶揄の声の主が、出し抜けに前に出て来た。
がっしりした身体つきの、二十代半ばの男性だった。
リベルを検分するように見ていて、この細身の青年を投げ飛ばせば、与えられるらしい新たな仕事とやらを、自分は拒否できるのだろうかと考えている顔つきをしている。
リベルは公平を期して、手にしていた銃をくるりと回してから仕舞った。
そして、男性を迎えるように壇から降り――
――勝敗は文字通り一瞬だった。
男性が踏み込みながら突き出した拳をリベルがひょいと躱した次の瞬間には、リベルが相手の懐に飛び込んで、彼の腕を掴むや、リベル自身の身体を重心として投げ飛ばし、彼を背中から床に叩きつけていたのだ。
ホールが揺れるような衝撃があって、男性が痛みに息を詰めたあと、激しく咳き込む。
だがさすがはラディスで生き抜いただけのことはあり、即座に立ち上がろうとするところは見事だった。
リベルは息を吐いて銃を抜くと、彼の眉間に銃口を向け、ゆっくりと撃鉄を起こした。
かちゃり、と鳴る、不吉な殺意の音。
「仕事をやる。話を聞け。
――いいな?」
男性が、咳き込みながら諸手を挙げる。
リベルはいったん銃を下ろし、悠々と檀上に戻った。
壇上で踵を返して、再び彼らに向き直る。
「道理も理由もわかんねぇだろうが、そんなものは後から教えてやる。俺の指示に従え、命令は完璧に果たせ。それだけでいい――おまえたちの人生をおまえたちの手に戻してやる」
首を傾げる。
――エルカはよく覚えていたが、これはリベルが小隊長時代によく見せていた首の傾げ方だった。
柄が悪く、品がなく、言うなればこれは、彼の良心が身悶えするがゆえの一種の痙攣なのだったが、傍目には自信に満ちた独裁者の仕草に見えるのだから始末が悪い。
リベルが銃を上げた。
それがなければ、恐怖しか覚えないだろう古巣に戻されるのではないかという不信感に駆られた眼前の彼らが、雪崩を打って襲って来ていたに違いないが、今はその黒光りする武器がそれを押し留めていた。
「同意か?」
ぶつぶつと呟きが上がった。
「他にどうすりゃいいんだよ」という意味を持つ呟きだったが、聞き取ってリベルは平然と続ける。
「いいだろう。詳しい命令は追って伝える。今のところ決まっているのは以下だ。
――一に、欠けるな。二に、欠けさせるな。三に、これは俺たちの人生を取り戻すために行われることだ。
古巣に一泡吹かせるぞ」
息を継ぐ。
「古巣に一泡」という科白を聞いて、少なくない疑問の瞳がエルカに向いている。
当然だろう――エルカは商会を裏切れないはずなのだから。
エルカは平然としているが、内心では辟易していることだろう。
この言い訳については――小隊長として、ショーズ商会への絶対服従を〈言聞き〉に誓っていたはずの彼がここにいることについては――どのように説明するか、前以て打ち合わせていた。
リベルは自信を籠めて宣言する。
「気づいてる奴もいるとは思うが、そこにいるのはエルカだ。
まあ連中にとって、エルカに向かって『失せろ』って叫んだのは運の尽きだった――」
「待てよ、リベルだ」
誰かが声を上げた。
リベルは顔には出さなかったもののぎくりとした。
「リベルだ、エルカの前の小隊長だ」
リベルは間髪容れずに言葉を続ける。
リベルをリベルと名指しした、その青年の顔にリベルは覚えがなかった。
そのことにぞっとするものを感じつつも、声音は平静なままだった。
「ああ、そうだ」
リベルは断言する。
「『出て失せろ』って言われたから、今ここにこうしている。
――何か不自然か?」
元ラディスの彼らの表情は、一様に懐疑的だった。
「そんな簡単なことで、〈言聞き〉の誓約の箍が外れるのか」と言わんばかり。
そして、リベルの名前を聞いて、積年の恨みが露出したように憎悪を滲ませる者もいる。
エルカがゆっくりと振り返り、腰の銃に手を遣った。
瞬間、一斉に伏せられていく瞳。
エルカが小隊長時代、どれだけの悪名を轟かせていたのか、それを垣間見てリベルは怖くなった。
だが顔には出さず、彼は傲慢に微笑む。
「俺の顔を覚えて、俺の声を覚えろ。俺の命令には従え。
――それがわかったら、今日はもう元いた場所に戻っていい」
言いながら、また銃を上げる。
押し黙る彼らの足許に、正確な照準で数発を撃ち込む。
撃発の轟音と飛び散る石榑、しかし誰にも当ててはいない。
「わかったか?」
沈黙。
もう一発。
「――わかったな?」
ばらばらと了承の返事がある。
リベルは頷いた。
「いいだろう。もう戻れ。――人生を取り返す準備をしておけよ」
そして、不可解そうに踵を返す背中の群れを見送りながら、リベルは声を出した。
「“セイム”」
びくり、と震えるいくつかの背中。
「セイム。――この名前に覚えのある奴は残れ」
訝しげに振り返る頭が六つあって、彼らだけを残してホールは空になった。
リベルは壇から軽い身ごなしで飛び降り、銃を仕舞って、徒手を強調するように両手を広げた。
そうしながら、彼らに向かって歩み寄る。
エルカが、リベルとは逆に、やや警戒を高めながらリベルのそばに足早に近づいてきた。
リベルは六人を見渡した。
六人が六人とも、警戒しながらリベルを見返している。
最年少はまだ十三かそこらの少年、最年長と見える者でやっと壮年といったところだ。
リベルは六人から適切な距離を置いて足を止めた。
そして首を傾げたが、これは先程とは違う、普段の彼の首の傾げ方だった。
「――俺を覚えてないかな。きみたちが〈言聞き〉を連れていたとき、会ってる」
「あーあぁ」
一人が呻いた。
「最後に陸艇に転がり込んできた奴だ」
「そうだ」
リベルは頷いた。
「俺はリベルで、こっちは――知ってると思うけど、エルカ。
――きみたちは?」
「――――」
数秒の躊躇いのあと、最年少の少年が答えた。
「……マティー」
「マティー、どうも」
リベルが応じて、残る五人が息を吐いて名乗る。
「ジャン」
壮年の男性がぶっきらぼうに言い、二十代とみえる肌の黒い青年が「マルク」と名乗る。
二十歳になっているかなっていないかという筋肉質の青年が、「ロジェ」と名乗り、ロジェと同年代だろう長身の青年が「モリス」と名乗る。
十六、七歳とみえる少年が俯きがちに、「カオラン」と名乗った。
リベルは軽く会釈して、なお警戒し続けるエルカを窘めるように見遣った。
が、エルカがいっこうに警戒を改めないことを見て取って、またそれは無理もないことであり、息を吐く。
「――きみたち、セイムの部下かな」
リベルが慎重に尋ねると、ジャンたちは一斉に色めき立った。
リベルは思わず、宥めるように掌を見せる。
「〈言聞き〉がいたところで、セイムの誓約はどうにもならなかった」
「なんでエルカは助かってんだよ」
マルクが発作的に、吐き出すように罵った。
「なんでエルカは助かって、セイムは駄目なんだよ」
リベルはそれには答えなかったが、彼に出来る精一杯で誠実に言った。
「あのとき――ヘイジーの町で、俺はセイムの世話になってる。あのとき俺は彼に、彼の部下をひどい目には遭わせないって約束した。
――きみたちが酷い目に遭ってないといいんだけど」
「…………」
ジャンたちは一様に、言葉に詰まった様子でリベルを凝視した。
リベルは咳払いする。
「――セイムのことも助けられるよ」
彼は言った。
「今回の――きみたちに頼むことは、セイムを助けることでもあるんだ。だから力を貸してくれ。
彼はいい人だ。必ず助けるよ。――約束する」
*◇*◇*
「ねえ、あの人たちに今回のことについてふんわり頭出しをするために、集まってもらったっていう話じゃなかった?」
元ラディスの犠牲者たちが、ジャンたちを含めてヴァフェルムの私邸に戻ったあと、集会所でヴィレイアは呆れたように言った。
リベルは銃から弾丸を抜いている最中だったが、肩を竦めた。
「だから、理性的に考える機会を強制的に奪われてきた連中ばっかりなんだって。理屈で喋るより、まず動いてもらって、それから『もう自由だ』ってわかってもらった方が早い。
なんにせよ、俺もエルカも、あいつらに話をするってことはこういうことだとしか思ってなかった」
ヴィレイアはリベルの手首の辺りをつつく。
「銃声が聞こえてきたときの、ノートンさんの顔を見せてあげたかった。失神しそうだったわ」
「言い過ぎですよ、ヴィレイアさん」
少し離れたところから、ノートンが注釈を入れるように言う。
リベルは本心から呟いた。
「いや、正直、誰かを撃つことになるかなと思ってたんだ。あいつらが暴れたらそうするしかないから。で、そうなったらおまえを呼んで治してもらうしかないなって」
「だから、『呼んだらすぐ来て』なんて言ってたのね」
「そういうこと」
リベルは頷き、それから顔を顰めた。
「――まあ、なんにせよ、これで頭出しは済んだわけだ」
「予想外の形でしたけど」
ヴィレイアがそう指摘してきたので、リベルは彼女の顔を覗き込んだ。
「……がっかりしたか?」
ヴィレイアは溜息を吐いて、愛情を籠めてリベルの鼻の頭をつついた。
「リベル、あなたは何でも出来る人だけれど、私を不幸にすることと、私をがっかりさせることだけは出来ないわ」
リベルは微笑んだ。
「良かった。
――じゃあ、早くあのくそったれ商会にとどめを刺してやりたいよ」




