プロローグ
不傷石が爆発する轟音があって、陸艇がその勢いを得て宙に浮かぶ。
浮かんでしまえばあとは浮揚璧の性質、容易く風を捉まえて大空へ旋回していく巨大な船。
その内部――陸艇に転がり込んですぐのその場所は、さながら貨物倉庫。
いや、この船はどこもかしこもがそうだった。
人間が乗ることを想定していないような、雑然として衛生観念の薄い船内。
資源を積み込むだけ積み込んで厳重に保管し、それを得てきた者たちについては、空いたスペースに押し込むような。
彼はずきずきと痛む全身に顔を顰めながら、やっとのことで身を起こした。
周り中から呻き声や啜り泣きが聞こえてきている。
「帰りたい」と泣く小さな声に、でももう帰る場所なんてないのに、と乾いた思考が動いてしまう。
周囲を見渡す。
蒼白になっている相棒はすぐそばにいて、彼より早く身を起こし、唇を噛み締めて荒い息をついている。
その左腕から激しい出血があり、不明瞭な声で指摘してやったが相棒が動かないので、やむなく彼が上着を裂いて即席の包帯とし、腕に巻きつけてやる。
それでようやく、相棒の目がこちらを向く。
生きていることを確かめるように、彼は息を吸い込んだ。
黴臭い、埃っぽい陸艇の空気の臭い。
座り込んだ浮揚璧の床は、長年の埃が汗で固まり、それが繰り返されて、しかもあちこちに血痕もあってざらついている。
触れると灰色に指が汚れるが、既に鉱路で汚れ切った彼に気になるところではなかった。
「――何人残ってる? ――何人欠けた?」
掠れた声で尋ねてみると、彼の相棒は肩を竦めた。
その細い肩――僅か十三の年齢で、既に幾つも白い傷痕が浮かんでいる肩。
「……さあ」
相棒と同い年の彼も息を吐く。
まあ数えてるわけないよな、と口の中で呟く。
背中が痛む気がするがそれは気のせいで、焼き印が痛むように思うのは、未だに自分が誰かの所有物となったことを受け容れ難いせいだ。
「――いつまでこんなこと続くのかな」
彼は呟く。
膝を抱える。
相棒は、巻かれた包帯代わりの布地に触れてから、感情が欠落した様子で瞬きした。
「さあ」
「欠けるまでかな。でも欠けても、俺たちは連中に使い潰されるんだろ」
相棒は唇の片端だけを吊り上げてみせる。
「じゃあ、鉱路で、わざとばらばらになって欠けてみせる、とか」
「よせよ、一緒にいた連中が酷い目に遭うぞ」
それもそうだ、と相棒は笑う。
――少なくとも、数日に一度ではあっても、彼の相棒は笑う。
その笑顔を見て、人間とはこういうものだ、と彼は思い出す。
だからこそ、彼は可能な限り相棒を守って生きてきた。
怪我をしそうであれば庇い、鞭打たれそうであれば罪を被る。
そしてその度に、徐々に笑顔の頻度が減る相棒を、この世で最も恐ろしい気持ちになりながら見つめる。
だが、まだ、こうして笑ってくれている。
だからこそ。
「――なあ」
話し掛けると、相棒の瞳がこちらを向く。
晴れた日に臨む夕陽のような朱色。
「おまえは一人で欠けたり、どっかに行ったりしないよな、――リベル」
相棒は瞬きして、目を逸らす。
――欠けることはあるかもしれないが、どこかに行くことは絶対にない、〈言聞き〉への誓約に縛られている、相棒。
「……当たり前だろ」
傷ついた背中を丸めて、そう、小さく呟く。




