↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量産勇者、自由を掲げよ。  作者: 陶花ゆうの
2 ガール・ファインズ・ボーイ
14/230

プロローグ

 不傷石が爆発する轟音があって、陸艇がその勢いを得て宙に浮かぶ。

 浮かんでしまえばあとは浮揚璧の性質、容易く風を捉まえて大空へ旋回していく巨大な船。



 その内部――陸艇に転がり込んですぐのその場所は、さながら貨物倉庫。


 いや、この船はどこもかしこもがそうだった。

 人間が乗ることを想定していないような、雑然として衛生観念の薄い船内。


 資源を積み込むだけ積み込んで厳重に保管し、それを得てきた者たちについては、空いたスペースに押し込むような。



 彼はずきずきと痛む全身に顔を顰めながら、やっとのことで身を起こした。


 周り中から呻き声や啜り泣きが聞こえてきている。

「帰りたい」と泣く小さな声に、でももう帰る場所なんてないのに、と乾いた思考が動いてしまう。



 周囲を見渡す。


 蒼白になっている相棒はすぐそばにいて、彼より早く身を起こし、唇を噛み締めて荒い息をついている。

 その左腕から激しい出血があり、不明瞭な声で指摘してやったが相棒が動かないので、やむなく彼が上着を裂いて即席の包帯とし、腕に巻きつけてやる。


 それでようやく、相棒の目がこちらを向く。


 生きていることを確かめるように、彼は息を吸い込んだ。

 黴臭い、埃っぽい陸艇の空気の臭い。


 座り込んだ浮揚璧の床は、長年の埃が汗で固まり、それが繰り返されて、しかもあちこちに血痕もあってざらついている。


 触れると灰色に指が汚れるが、既に鉱路で汚れ切った彼に気になるところではなかった。


「――何人残ってる? ――何人欠けた?」


 掠れた声で尋ねてみると、彼の相棒は肩を竦めた。


 その細い肩――僅か十三の年齢で、既に幾つも白い傷痕が浮かんでいる肩。


「……さあ」


 相棒と同い年の彼も息を吐く。

 まあ数えてるわけないよな、と口の中で呟く。


 背中が痛む気がするがそれは気のせいで、焼き印が痛むように思うのは、未だに自分が誰かの所(・)有(・)物(・)となったことを受け容れ難いせいだ。


「――いつまでこんなこと続くのかな」


 彼は呟く。

 膝を抱える。


 相棒は、巻かれた包帯代わりの布地に触れてから、感情が欠落した様子で瞬きした。


「さあ」


「欠けるまでかな。でも欠けても、俺たちは連中に使い潰されるんだろ」


 相棒は唇の片端だけを吊り上げてみせる。


「じゃあ、鉱路で、わざとばらばらになって欠けてみせる、とか」


「よせよ、一緒にいた連中が酷い目に遭うぞ」


 それもそうだ、と相棒は笑う。


 ――少なくとも、数日に一度ではあっても、彼の相棒は笑う。

 その笑顔を見て、人(・)間(・)と(・)は(・)こ(・)う(・)い(・)う(・)も(・)の(・)だ(・)、と彼は思い出す。


 だからこそ、彼は可能な限り相棒を守って生きてきた。

 怪我をしそうであれば庇い、鞭打たれそうであれば罪を被る。


 そしてその度に、徐々に笑顔の頻度が減る相棒を、この世で最も恐ろしい気持ちになりながら見つめる。



 だが、まだ、こうして笑ってくれている。



 だからこそ。


「――なあ」


 話し掛けると、相棒の瞳がこちらを向く。


 晴れた日に臨む夕陽のような朱色。



「おまえは一人で欠けたり、どっかに行ったりしないよな、――リベル」



 相棒は瞬きして、目を逸らす。


 ――欠けることはあるかもしれないが、どこかに行くことは絶対にない、〈言聞き〉への誓約に縛られている、相棒。



「……当たり前だろ」



 傷ついた背中を丸めて、そう、小さく呟く。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。