プロローグ
親愛なるリベルへ
〝死ぬ〟っていうのがどういうことか、よく分からないんだけど――
*◇*◇*
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押し寄せる巨大な化け物たちの群れに、粉塵と轟音を巻き上げて、建物が押し潰されていく。
突き抜けるように澄み渡った晴天は、いっそ冷ややかに、遥か眼下の惨状を見下ろしていた。
悲鳴が耳の中で木霊している。
とても人の声には聞こえない騒音――だが、騒音というには余りにも切実。
地面が揺れている。
巨大な獅鷲が、血の色の瞳で周囲を睥睨しながら、建物を容易く崩壊させて飛んでいく――その肢にがっきと掴まれているのは四十絡みの女性、力いっぱい悲鳴を上げている。
恐怖に駆られたその目と、一瞬の間視線が合ったような錯覚が彼女を襲う。
動こうとした直後には、建物を突き破り、大小様々の破片を降らせながら、巨大な腕が伸びていた――獅鷲の胴を、三十フィートはあろうかという身の丈の巨人が掴んでいる。
ただでさえ、“勇者”にとっては単独撃破が難しい獅鷲をいとも容易く掴む巨人の、その肌。
金剛石を押し固めて創られたかのように煌めくその肌。
その大きな太い指の下で、獅鷲の強靭な身体があっという間に肉塊と血霞と化す。
女性の悲鳴がぶつりと途切れて、彼女が「欠ける」。
その地獄絵図が、至るところで巻き起こっていた。
数百にも及ぶ巨大な生き物たちは町を蹂躙し、普段は鉱路の中に限られているはずのその力を、思う存分に振るっている。
悲鳴と罵声と怒声。
「感染したのは誰だ」という、衛卒の悲鳴じみた怒鳴り声。
そして何より、哀願の声――
(私のせいだ)
そう分かっている。
(私たちの中の、誰かのせいだ)
そうに違いなかった。
この災害においては、第一遭遇者こそが犯人であって間違いはないのだから。
(責任を取らなきゃ、動かなきゃ――助けなきゃ)
そう分かっている。
――分かっていて、なお――
耳を聾する哀願の声。
彼女に命を乞う声。
この場にいる何万という人の生命を、彼女に預けようとする声――
夏の暑気の中に粉塵と血霞が舞う。
罵声と同時に指揮を執る声、誰かを助けようとする声、あるいは生き残ろうとする声が、建物が倒壊していく轟音に紛れて切れ切れに聞こえてきている。
地面が震えているのは、建物が崩れていくがゆえか、巨大な生き物たちが我が物顔に走るがゆえか、――あるいは逃げようとする人の多さゆえか。
「ヴィリー!」
声が聞こえる。
仲間の声だ。
「ヴィリー、何してる!!」
動かなくては、と分かっている。
周囲では悲鳴とともに哀願の声が渦巻いている。
――彼女を見分けた誰かが、「特等!」と叫んでいる。
「特等がいるなら――助かった!」
哀願の声。
命を乞う声。
この場にいる何万という人の生命を、彼女に預けようとする声に――
――彼女は目を瞑り、耳を塞いで、座り込んでいた。