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60.オフラインゲーやっとけよ

 「【スラッシュ】」


 言葉に出されたスキル名が、流麗な一連の動作を生む。


 先ほどまでの大舌からでは考えられない動きの冴えに、幸隆の反応が間に合わない。


 一閃が放たれた。


 斬撃を避けようと直感で回避を試みるが、しかしそれでも完全な回避にはならず、幸隆の胸を大舌の剣線がなぞる。


 胸を裂かれた幸隆はその場で血を吹き出した。


 喧噪が大きくなり、桃李たちから悲鳴が上がる。


 それに釣られるように喧騒が大きくなり、訓練場一帯がうるさくなる。


 幸隆は血を吹き出す胸を押さえて、血の流出を抑える。


 「ハッ。ざまぁないな」


 してやったりと笑う大舌。


 今までの鬱憤を晴らし、そして自分の強さの確認と周りの人間への力の誇示が出来て満足そうだ。


 「いってぇなぁ、おい」


 呻き声混じりのその声に大舌が嘲笑を浮かべた。


 「俺を舐め腐るから悪いんだ。これでわかっただろ?俺が強いってことが!舐めていい相手じゃないってさ!!」


 強い反発心の籠った怒りの声。


 それは自分を大きく見せようとする動物の威嚇の姿のようでもあった。


 大舌は自分が舐められることを酷く嫌う。


 侮られることを酷く厭う。


 探索者になる以前、その細身な体と、内向的な性格もあり、劣等感の強かった大舌は、その生まれ持った見合わないプライドの高さもあって、日に日に虚栄心を募らせていき、その性格を歪ませることになった。


 そしてその内在した歪んだ精神は、探索者としての才能を開花したことによって表面化し、周りに力を誇示する傲慢な人間へとなり果てていた。


 だからこそ、幸隆のような人間が嫌いだった。


 体格が良く、自信家で、今まで自分を見下してきたような、そんな人種が大舌は嫌いだった。


 殺してしまっても構わない。


 そう思った。


 ギルドは不自然なほどに探索者に対して無関心だ。


 決闘でお互いが死んでしまおうと、一般人に危害が加わらなければ、彼らギルドは動くことはしない。


 だから、こうして度々、探索者同士のいざこざで、一般人のいないギルド管轄の場で決闘が行われ、そして時折死人が出る。


 幸隆が死ねば、今度は自分が、あの女性三人を誘う事ができる。


 一人くらい食えるかもしれない。


 大舌はそんな下卑た狙いもあって幸隆に決闘を仕掛けた。


 こいつが死ねば、瀬分 杏だって。


 そんな自分に都合の良い未来を想定して鼻の下を伸ばした。


 「なによそ見してんだ」


 近くからの声で大舌が我に返る。


 「なっ──────!?」


 いつの間にか目の前に幸隆がいた。


 そして迫る拳に交差させた腕をなんとか合わせるも、その重さに身体が後ろへと押し流されてしまう。


 「ガードすんだったら重心しっかり落とせよ」


 上半身が後ろへと倒れそうになるが、もつれそうになる足を引いて体勢を立て直した。


 「力はあるから強引に体勢を立て直すことはできるんだな」


 厳密な意味での筋力は大舌にはないが、探索者としての外骨格的な外付けの力はきちんとあるため、強引に身体を動かすことはできた。


 だが、格闘技をしている人間がその動きを見たら、顔を顰めるような動きには違いない。


 あべこべな力のバランスに幸隆が眉を顰めた。


 「お前、マジでそんなんで杏と同ランクの探索者なのか?全然基礎がなってねぇじゃねぇかよ」


 幸隆だって格闘技の経験自体はないが、格闘技経験者や元軍人との喧嘩は幾度もあった。


 そんなやつらと比べたら、その喧嘩相手に申し訳ない気持ちすら湧いてくる。


 当時はただムカつくだけの印象の喧嘩相手だったが、こいつと比べれば尊敬できる奴らだったのかもしれない。


 そう思えてしまうほどに大舌の動きは素人丸出しの動きだった。


 「マジでレベル上げて物理で殴るみたいな戦い方か?嫌いじゃないが、それってそう言う意味じゃないよな?」


 ただ筋力を上げるだけじゃ意味がない。


 ただステータスを上げればいいわけではない。


 ターン性のRPGじゃないのだから、それ以外の自分自身のスキルを上げる必要がある。


 しかし、大舌にはそれが伺えない。


 どこまで行っても剣を持った子どものごっこ遊びの延長線上だ。


 「お前、FPSとか格ゲーとかのアクションゲーム苦手な類だろ。一人用のRPGが好きなタイプだ」


 「なに、言って─────それよりっ傷はどうした!どうして動ける!」


 「治った」


 「はぁ!?」


 あっけらかんとした幸隆の反応に驚く大舌。


 確かに幸隆の身体を見ると、服が切れているだけで、その肌に傷のようなものは見受けられなかった。


 「あり得ないだろ!?治るにしても早すぎる!」


 「まぁ、あれだ。ユニークスキルって奴らしい」


 オートヒーリング。


 それが脳裏に浮かんだ大舌はそうかといったような嫌味な顔を浮かべる。


 「お前、それがあるからそんなに早く名を上げられたんだな!それがあれば早々死なない!あとは瀬分さんに付いていくだけでイレギュラーの解決だ!」


 そんな自分に都合の良い妄想を垂れ流し、幸隆を否定する。


 「だけど、負けたって言わせればいいんだろ?」


 大舌が駆け、幸隆へと急接近。


 反応が間に合わない程のその速度に幸隆は苛立ちを浮かべて舌打ちを打つ。


 「【ラピッドスラッシュ】!」


 大舌の持つ初期スキル【スラッシュ】の上位互換、【ラピッドスラッシュ】の連続した斬撃が幸隆をなます切りにしていく。


 回避が間に合わない幸隆の身体に次々と浅い傷が出来上がっていく。


 重傷だけは避けようと体を動かし続けているが、遂に躱しきれず深手を負ってしまう。


 「ははは!痛いだろう!いくら回復能力が高かろうが痛いものは痛いだろう!降参したらどうだ!でないと、このままずっと切り刻み続きてやる!」


 高笑いを上げながら勝利を確信する大舌。


 既にズタボロになった服はその意味を成さず、幸隆の痛々しい素肌を曝け出している。


 周りの人間も目を背けたくなるような一方的な展開だった。


 「ぁ、い、……てぇな、いてぇ……よ」


 幸隆のその細い声に大舌が満面に笑う。


 「ほらっブザマだな!大男が痛いって泣きわめくのか!いいな!そうしたら降参を認めてやるよ!」


 血に染まる赤い布の切れ端が床に散らばっていく。


 足元は真っ赤に濡れ、ぬめり気のある水たまりが出来上がる。


 腕も、胴も、足も、顔も、傷が無いところを見つけるのが難しいレベルだ。


 そのあまりの痛々しさに決闘を止めようと動き始める者もいる。


 桃李たちもその一方的な戦いを止めようとした時、幸隆の小さく零す言葉に耳を奪われた。


 「……ってぇ、な」


 「ああ!そうだ!痛いと泣き叫べ!無様な姿を曝け出せ!!」


 「ぃ、ってぇ、つってん……よ」


 「ああ!もっと!」


 「いい加……に、ろよ」


 「あ?────────」


 「いてぇっつってんだろうがぁあああ!!いい加減にしやがれヒョロガキぃぃぃぃぃいいいいい!!!」


 「──────ぶ、げびゃあぁぁああああ!」


 攻撃を躱す事を止めた幸隆が、剣が大きく体を傷つけることも厭わずに一歩踏み出して、そして大舌を思いっきりぶん殴った。


 ドッジボールのように勢いよく飛んで行った大舌は、壁を一枚ぶち破って、気絶した。


 場外KO。


 大舌の勝ちだと思われていた、惨澹だる一方的な決闘の行く末は、幸隆の根性(ブチギレ)の一発で終わりを迎えた。


 その逆転劇とあまりの威力の右ストレートに野次馬の顎が驚愕で外れた。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 結局最後にモノを言うのは根性ってことですね(笑) このクズ陰キャはいっぺん特殊性癖のオークを見つけて、それの目の前に装備無しで放り投げる→アッー!?されたら良いんじゃないですかね…
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