51.ハーレムパーティー(?)
「ということは本堂さん、しばらくソロでの活動になるんですね」
話を聞き終えた桃李が幸隆の現状に言及。
思案気な表情を浮かべて黙り込んだ。
「他に組む相手もいないからなぁ」
幸隆に特段困った様子はない。
一人でも五階層は問題なく活動できるし、その気になれば六階層の魔物だって余裕を持って戦える。
しかし、それ以降となると厳しい上に、あの嫌な記憶だらけの豚鬼を一人で相手にするのは気が引ける。
幸隆は口内に蘇った異常種の味を思い出して身が虫を嚙み潰したような顔をした。
「それなら本堂さん、僕たちのパーティーに加わりませんか?もちろん正式というわけではなく、臨時という扱いで」
「え?いいのか?」
「もちろんですよ。本堂さんがいてくれたら探索の効率が大きく上がりますし、危険も減りますので、僕たちとしては本堂さんがいてくれると、とてもありがたいです」
正直ありがたい申し出だ。
一人では稼ぎの安定化が難しい。
桃李たちのパーティーに臨時で参加ができれば、杏が戻ってくるまでの繋ぎとしては十分だ。
しかし今の幸隆にとって一番稼ぎの効率が良い階層は六階層だ。
主な相手は豚鬼とまだ見ぬ大醜鬼が相手になるだろう。
大醜鬼はまだしも、問題は豚鬼だ。
トラウマを抱えるだろう桃李たちに六階層に進むだけの勇気があるか。
もしないのなら、五階層でソロ活動していた方が収入は見込めるだろう。
「本堂さんのお力はもちろん知っています。六階層での活動が理想なんですよね?もしかしたらそれ以上……」
「そうだな、正直に言うと六階層をメインにしたい、が、一人で豚鬼の相手するのも面倒だし、パーティーで安定した働きも魅力的だ。だから活動階層は五階層でも良い。こちらとしてはお前たちに大きな恩があるからな。扱き使ってくれ」
本堂は桃李たちに恩を返すつもりもあってパーティーへの加入を快諾。
借りをそのままにしておくのが気持ち悪い幸隆は自分の稼ぎをとりあえず後回しにして、桃李たちに稼がせるつもりでいた。
「本堂さん、僕たちが挑もうとしているのは六階層です」
覚悟を決めた男の顔。
幸隆がそれを見て聞き入る。
「あれから僕たちも探索に励んで、着実に強くなりました。しかし、豚鬼と戦う事を考えると今でも足がすくんでしまいます。だから僕たちがそれを克服できるように本堂さんのお力をお借りしたいんです」
彼らは探索者になってまだ一か月程度の新人だ。
そして順調に実力と到達階層を更新してきた実績を持つ有望株でもある。
そんな彼らが初めて経験した挫折が、あの異常種の影響を受けた豚鬼からの凌辱。
トラウマを抱かない方が無理という話しだ。
しかし、彼らはそれに自分達から立ち向かい、克服に挑もうとしている。
幸隆はそれが非常に立派な事であり、勇気のいる事だと知っている。
やはり桃李は、探索に於いてはとても誠実な人間なのだと改めて感じた。
仲間の事も思い、自分たちだけで無茶をするのではなく、幸隆という保険を掛けることも忘れない。
理想的なパーティーリーダーと言える桃李に、これがモテの極意かと幸隆は息を飲んだ。
もちろん、そんな彼らの提案にNOを突き付けるような無粋な真似はしない。
「俺の目的とも合致するんだ、尚の事断る理由がねぇな。それどころか余計にやる気が出る提案だ」
「いいんですか?僕たちは本堂さんを都合よく使おうとしているんですよ」
「なに水臭いこと言ってるんだよ。元々扱き使ってほしいって言ってるんだ。遠慮することはねぇよ。どこに引け目感じてやがる。気持ちよく借りを返させろよ馬鹿野郎」
桃李の目を見てその悪人顔にニヒルな笑みを浮かばせる。
「本堂さん……う、嬉しいです。その、お力……お借りします」
「おう、任せてとけ!またあいつらが変なことしてきてもあの時みたいに守ってやるよ」
「……ぁ、う」
厳めしい顔に笑顔を浮かべ、桃李の背中をバンバンッと叩く幸隆。
完全に年下の同性にする激しめのボディタッチだが、それをされる当の本人の顔は分かりやすく赤く、塩らしくモジモジとしている。
あ、最近の若い子はこういったコミュニケーションを嫌っているのだったか、と幸隆は自分の行動を省みて、そっと桃李の側から一歩引く。
下を向いて動かない桃李の様子に、あちゃーと頭を掻いた。
それを見ていたパーティーメンバー一同が固まった。
「まち──てる、こんなの、───がてるだろ」
「桃李ちゃんもしかしてそうなん?」
「……趣味を疑う」
後ろの三人がその様子になにやら言っている。
意味はよく分からないが、自分たちの大好きな男がショックを受けている事に怒りを浮かべているのかも知れない。
天使以外の二人からは攻撃的な感情が感じられるからだ。
翠のその相も変わらない毒舌に復活したばかりの心に罅が入るが、問題は綴だ。
なにやら暗い感情すら伺える。
どうやら桃李に対して並々ならぬ感情があるらしい。
桃李の扱いを慎重にしなければならないらしい事を幸隆はこの時知った。
「さ、さっそくだが、ダンジョンに行かないか?苦手の克服は早い方がいいだろうからよ」
この空気を変えたい幸隆は早速ダンジョン探索を提案する。
本音を言えば、早く稼ぎたいだけだが、年上の先輩社会人として懐が寒いことは出来る限り内緒にしておきたかった。
自分を慕ってくれる年下の男がいるのだ、先輩として大きな背中を見せていたいと思うのは男としては当然の矜持だろう。
探索者としては後輩に当たるがそんなこと幸隆の頭の中には存在しない。
それに見た目は良い女性三人までついてくるのだから小さな背中など見せられない。
幸隆は目一杯に見栄を張ることを選択した。
「ゆっきーありがとうね。アタシたちのために力を貸してくれて。ほら桃李ちゃんっ早速探索を始めるよ!正気に戻って!」
「……え、あ、あぁ、うん、ごめん。そっか、僕はお姫様じゃなかったね」
何を言っているのだろうか。
幸隆は頭のおかしくなった美男子を可哀そうな目で見た。
どちらかと言うなら王子様だろうにとも思うが、桃李のドレス姿が簡単に想像できてしまうことが恐ろしい。
そこら辺の女性よりもよっぽど似合っているに違いない。
そっちの趣味の人が歓喜しそうな程に。
変態豚鬼が興奮するわけだと、幸隆は一人で頷いて納得していると、準ロリっ子からジト目で見られた。
「なに想像してんだよ変態」
本当にこのメスガキは躾がなっていないと幸隆は呆れるが、確かに男に対してそんな想像をしている自分に非があるなと幸隆は妄想を搔き消して謝った。
「あぁ、悪い」
「す、素直に謝るなよ……」
幸隆が引くと少しバツの悪そうにする綴。
根はいい子なのだろう。
それに自分の好きな男が女性の恰好が良く似合う、なんて想像をされたらそりゃ、女性も怒るだろうと幸隆は言い返すつもりもなかった。
「それじゃ、早速ですが、探索を始めましょう、本堂さん。これからよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ。パーティーを間借りさせてもらおう。よろしくな」
そういって右手を差出す幸隆。
桃李はそれを恥ずかしそうに手に取り、握手を交わす二人。
少し汗ばんだ桃李の手のひらにボディータッチが苦手なのかなと幸隆は思うのだった。




