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7:餌付けされている?

餌付けされたつもりはない。

でも今の私は……。


「シャーロット、今日は皇太子さまから夕食のお誘いが来ている。良かったね、シャーロット。またあの美味しいお料理が食べられるよ」


あの日。

街でチェリーパイを手に入れ、カラスに襲われ、そして宮殿でローレンス皇太子に夕食を振舞われて以降。二つの理由で宮殿から離れがたくなっている。


一つ目は間違いない。

宮殿で食べることができる絶品料理だ。

お茶会の時からそれは分かっていることだった。お茶会の席で用意されているスイーツはどれもとても美味しいもの。通常の食事がまずいはずなんてなかった。そして夕食がどれだけ美味しかったかを、私は……父親に聞かせてしまっていた。父親は聞いたことをまんまローレンス皇太子に伝えていたのだ。


シャーロットは宮殿で出された夕食をとても気に入っていましたと。


その結果。


皇太子さまは一週間に一度、夕食に招待してくれるようになった。毎日ではない。一週間に一度だけ。一ヶ月にたったの四回。四回だけ、あの絶品料理を食べられる。しかも同じ味ではない。季節にあわせ、食材にあわせ、ソースの味は変る。食べる度に毎度感動できるのだ。


認めよう。

もはや夕食に招待されることは嬉しくなっていた。こうなると攻略対象であろうと関係ない。月に四回のご褒美だと受け入れてしまっている。


攻略対象に近づくのは危険。余計なフラグを立てたくないと思うものの。断罪を回避する手段はもう分かっているのだ。だからいざとなっても大丈夫。そう腹を括って、美味しいものを満喫させてもらっている。


それに。

3歳の年齢差がある。同学年にはならない。大丈夫。断罪はない。今、私が生きる乙女ゲーム『ハピラブ』の世界は悪役令嬢を必要としない世界なのだから。……多分。


ということで、週一の夕食の招待には……もし私に尻尾があるなら、大喜びで尻尾を振り、招かれている。


宮殿から離れがたくなっている二つ目の理由。

それは……猫だ。


あの日、カラスから助け出した四匹の子猫と母猫は、結局ローレンス皇太子が宮殿で飼うことになったのだ。子猫は……本当に可愛い。私が最初に見つけたのは茶トラだった。残りの三匹の子猫は白猫、茶白猫、茶トラで、母猫は白猫。


私が見つけた茶トラの名前はキャラメル。他の子猫は白猫がホワイト、茶白猫はソックス、もう一匹の茶トラはティー、母猫はコットンと名付けられた。皆で話し合って決めた名前だ。


そう。

結局、みんなも動物が好きだった。だから何をするわけでもない。ただ猫に会うために宮殿に集合することがあの日以来、当たり前になっていたのだ。


もはやそれは猫カフェにでもいるかのような状態。


猫を愛で、本を読み、お茶を飲む。

猫を膝にのせ、チェスをしてお茶を飲む。

猫と遊び、おしゃべりをして、お茶を飲む。


そんな過ごし方をしているのに、全然飽きない。飽きないし、また来たいと思ってしまっている。もはや、二日に一回と言わず、毎日呼んで欲しいとさえ思っていたのだが。


「今日はみんな、夕食を共にしてくれてありがとう。……それで明後日だけど、ちょっと予定が入ってしまってね。みんなのことを宮殿に招待できなくなってしまった」


絶品の夕食を堪能し、身も心も満たされていたその時。

ローレンス皇太子の今の一言に、激しい衝撃を受けていた。

明後日、宮殿への招待が……ない。


キャラメル、ホワイト、ソックス、ティー、コットンたちに会えないの……。


一日会えないだけでも寂しいのに。

次に会えるのは……四日後……。


「シャーロット、今日の皇太子さまの夕食は……えええ、シャーロット、どうしたんだい!?」


夕食を終えた私を宮殿に迎えにきた父親は。

明後日の宮殿への招待がなくなり、魂が抜けたような私を見て驚いていた。


それはそうだろう。

いつも宮殿で夕食をいただいた後の私は、すこぶるご機嫌でテンションも高く、なかなか寝付けないぐらいなのだから。それなのに今日の私は……。まるで一等当選した宝くじを紛失した人間のように、落ち込んでいたのだ。驚くのも当然だ。


完全にペットロス状態でその日以降を過ごし、本来なら宮殿に招かれている日を迎えた。


学校から帰宅すると、なんだか屋敷が落ち着かない雰囲気に感じた。


「ベッキー、今日はお屋敷で何かあるの?」


私専属のメイドであるベッキーに尋ねた。

ベッキーは現在20歳で、亜麻色の髪のボブカットに、くりっとした焦げ茶色の瞳の美人というより愛らしいメイドだ。


「シャーロットさま。何もございませんよ。それよりもお着替えをしましょう。今日はおやつにクレープを用意しますよ。出来立てを部屋に届けるように言ってありますから」


「クレープ!」


クレープは私の大好物だった。

薄くのばした生地をキツネ色になるまで焦げ目をつけ、それをシンプルに蜂蜜とバターだけでいただくのだが……。もうこれが絶妙な味わいでたまらないのだ。


言われるままにドレスに着替える。

いつもならダイニングルームに出向く必要があるが、部屋まで運んでもらえるということは……。


部屋にやってきた料理人が、目の前で最後の仕上げをやってくれた。熱々出来立てのクレープをフライパンから移し、器用な手付きで折りたたみ、そこにバターと蜂蜜をのせてくれる。その側でベッキーが紅茶をいれてくれたのだ。もう、最高!


ご機嫌でおやつを食べた後は。

本来、二日に一回のレッスンを受けることになった。

それは公爵家の令嬢として必要なマナーやこの国の歴史や文化を学び、他国の言語を学ぶというもの。家庭教師が屋敷に来て教えてくれるのだ。


学校の勉強プラスアルファで行われるこのレッスン。ぶっちゃけていえば面倒なのだが、公爵家の令嬢なのだから仕方ない。前世ではこんな勉強やらなかったのに……と思うが、文句を言ってもやらねばならず、我慢して取り組んでいた。


そこで気づいてしまう。

ローレンス皇太子に宮殿へ招待されている時は、このレッスンは免除されている。でも今日は招待がない。招待がないとレッスンが増える……。それならば毎日宮殿へ招待してもらいたいぐらいだ。


そんなことを思いつつも、レッスンをこなし、夕食の時間になった。


「シャーロットさま、ドレスのお袖にインクがついていますね。ドレス、着替えましょう」


「え、そうなの?」


そんなところにインクを飛ばしたかしら?と思いつつも、ベッキーに言われるままにドレスに着替えたのだが。


ミルキーピンクにパールの飾りが散りばめられ、腰には大き目のリボンと、かなりオシャレなドレスに着替えた気がする。しかも髪もツインテールにしてドレスとお揃いのリボンをつけてくれた。これから夕ご飯なのに、こんなにオシャレしてどうするのかしら?と思ったのが……。


「本当は今日、宮殿に行く日でしたよね。その代わりでドレスアップして、気分だけでも宮殿にいる気持ちになれるようにしてみたのです」


ベッキーが言うことは、意味が分かるような、分からないような……。

でも私は、中身は転生経験2度ありという人生経験豊富な人間だが、現在は11歳なのだ。


「へえ~、そうなんだぁ」


とりあえず可愛らしく相槌を打ち、スルーすることにした。


「さあ、シャーロットさま、夕食に行きましょう」


ベッキーに促され、部屋を出た。

その後、とんでもないことが待ち受けているとは知らずに。

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