表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/41

5:チェリーパイ

「うわぁ、すんげー並んでいるぞ」


チェリーパイを販売するパン屋は見つかったが、そこには長蛇の列が出来ていた。アップルパイが主流だから、チェリーパイは珍しい。みんな一度は食べてみたいと思うのだろう。列をなしていた。


「このような状況での選択肢は、三つあります」


宰相の息子であり、頭脳派のグレアムが眼鏡をくいっとあげて、ローレンス皇太子を見た。


「まず一つ目。列に並ぶ。並ぶと言っても全員で並ばなくてもいいでしょう。1ホール買えば、全員で分けられますから。二人で並べばいい。一人だと暇です。二人ならおしゃべりもできますから」


妥当な案だ。


「二つ目は、権力に物を言わせます。警備の騎士に店主と話をつけてもらうのです。皇太子がチェリーパイを所望していると。そしてこっそり裏口から1ホールいただきます」


え、それは……。そんな腹黒い方法はダメでしょう。


「三つ目は、諦めます。宮殿のパティシエに頼めば、チェリーパイぐらい作れるでしょう。街の人の食べ物を、わざわざ必死に食べる必要はないというわけです」


う、うーん、これは微妙。でも確かに宮殿のパティシエでも作れるような気もするけど……。でもせっかく食べるなら、オリジナルのものを食べたいと思ってしまう。


グレアムのこの提案を聞いたみんなの反応は……。


デュークは「宮殿のパティシエに作ってもらうのは一つの手だよねぇ。貴族の僕達の口に合うよう、アレンジもしてくれそうだし」と答える。


護衛騎士のレイモンドは「まあ、別に権力に物を言わせるつもりはないけど、行列に並んでいる間に身分がバレるリスクもある。だったら店主に話をつけ、今日じゃなくても、後日、王室に献上してもらうっていう手もあるよな」と、護衛という立場を踏まえ、腹黒くない方法になるよう、グレアムの案をブラッシュアップしていた。


それぞれの意見も聞いたローレンス皇太子は……。


「チェリーパイを食べる――みんなその気分になっていると思うんだ。それに食べるなら発祥のお店のチェリーパイがいいよね。つまりこの行列ができているパン屋のチェリーパイを手に入れたいと思う。でも権力に物を言わすなんて方法はしたくないから、行列に並ぶことになる。とはいえ、レイモンドが言わんとすることも分かってしまう。わたしが並んでいると、警備上不安があるというのも納得できる。そうなると……。シャーロットはどう見ても貴族に見えてしまう。そうなると。わたしとシャーロットをのぞく二人に並んでもらえると助かるのだが……」


「でしたら並ぶのは私とデュークでしょう。レイモンドは皇太子さまの護衛です」


グレアムがきっぱりそう言って、デュークの襟首をつかむ。

こういう時、いつもグレアムはローレンス皇太子を第一で考える。そこはさすが宰相の息子、そして未来の宰相という感じだ。実際、80歳の私が前世で生きたこの世界では、グレアムはちゃんと宰相となり、皇帝になったローレンスを支えていた。


一方、グレアムに名指しされたデュークは……。


「えーっ、僕はシャーロットちゃんと一緒に……」

「頼んだぜ、デューク」


レイモンドにも腕をがしっと掴まれたデュークは観念し、グレアムと二人、列の最後尾に向かった。


「すまないね、二人とも」

「当然の判断です、皇太子さま」

「……シャーロットちゃんのために頑張るよぉ」


ローレンス皇太子は警備の騎士に合図を送り、列に並ぶグレアムとデュークを見守るよう、騎士を二手に分けた。


「シャーロット、わたし達はそこの噴水のところで待ちましょう。列の様子を見るに、15分も並べば買えると思うので」


ローレンス皇太子は再び私と手をつなぎ、噴水のそばへと歩き出す。

噴水の近くにはベンチがいくつかあり、丁度建物の日陰になるベンチが空いていた。


「日陰だから、人気がないのですね。でも座れますから、どうぞ、シャーロット」


ハンカチを取り出したローレンス皇太子は、当然のようにそれをベンチに敷き、私に座るように勧めた。


本当に優し過ぎて困ってしまう。さっきの判断だって的確だった。


「おい、シャーロット。皇太子さまに手をつないでもらって顔を赤くしていたな。……本当に、シャーロット、可愛いなぁ」


ベンチの後ろに立っていた護衛騎士のレイモンドが、私の頬を指でぷにっと押した。


「べ、別に赤くなんてなってませんよ!」

「赤くなっていたよ。ほっぺが林檎みたいに赤くて。シャーロット、可愛いなぁ」

「絶対に違いますぅぅぅ」


そんな問答をしていると。


「ミャァ」


突然、猫の鳴き声がした。

気づくとベンチの下に、子猫がいる。

子猫はそのまま鳴きながら細い路地へと入って行く。


前前世において、私は自宅で猫を飼っていた。子猫は見たらもう、本能的に可愛がりたくなってしまう。


「猫ちゃん待って」と細い路地に駆けて行くと、その後ろを「シャーロット!」とレイモンドとローレンス皇太子が追いかける。路地は本当に細くて、大人が通るのは無理な細さ。子供の私でもなかなか前に進めない。


だがその路地を抜けると、そこはゴミ置き場のようになっていた。


「あっ!」


さっきの子猫が駆け寄ったところには、あと3匹、子猫がいたのだが。

数羽のカラスが子猫たちに襲い掛かっていた。


すぐさま道に転がる小石を掴み、カラスに向けて投げると。

カラスが私の方へ襲い掛かってきた。


「シャーロット」


思わず顔と頭を守るように、手で覆った私を抱きしめて庇ってくれたのは……ローレンス皇太子だった。


「レイモンド!」


ローレンス皇太子が叫ぶと、レイモンドはそこら辺に落ちている石を掴むと、次々とカラスに向けて投げる。そしてそれは見事なまでに命中していた。


戦闘で剣や槍が活躍するのは当たり前だが、もっと原始的な武器があった。それは石だ。そして護衛騎士であるレイモンドは、この石投げもまたかなり得意なようだった。剣を隠し持っているはずだがそれを使わず、見事な石投げでカラスを次々に撃退している。


だがカラスの方も負けていない。懸命な鳴き声で仲間を呼び寄せている。


「シャーロット、伏せて」


ローレンス皇太子は隠し持っていた短剣を抜き、急降下して襲ってくるカラスに立ち向かっていた。カラスと言えど、羽を広げるととても大きく感じるし、スピードもある。私は本能的に怖くなってしまい、目をつぶり、動けなくなってしまう。だが、ローレンス皇太子はひるむことなく、カラスを睨み、短剣を使い、威嚇している。


しばし攻防が続いたところで、警備の騎士が駆け付けてくれた。


細い路地は大人が通れず、迂回してここまで来たようだ。突然、大人が何人も来て、しかも武器を持っている。


カラスは頭がいい。自分達が不利だと理解し、撤退した。


「シャーロット、もう大丈夫ですよ」


そう言って私を最後まで守ってくれたローレンス皇太子は……。


「皇太子さま、腕、ふ、服が破けて、血が……」

「大丈夫。対した傷ではないから」

「で、でも……」


ローレンス皇太子は落ち着いた様子で警備の騎士に子猫を保護するように言い、さらに親猫がいないか探すよう命じた。


「皇太子さま、すまなかった。怪我させることになっちまって……」


レイモンドが駆け寄ると、ローレンス皇太子は朗らかに笑う。


「レイモンドと剣術の練習している時の方が、よっぽど大怪我をする。こんなのかすり傷だよ」


ローレンス皇太子はそう言うが、警備の責任者である警備隊長がやって来ると……。


腕の怪我を見た警備隊長は、ローレンス皇太子を抱え上げ、走りだす。ローレンス皇太子は「大丈夫だ、降ろせ」と暴れるが、警備隊長はそれを許さない。


「レイモンド、シャーロットを頼む!」

「了解、皇太子さま」


レイモンドが私を見た。

   【お知らせ】

目次ページに表紙を追加しました!

一番星キラリの別作品にもバナーを追加したのですが、絵柄が少し違います。

お時間ある方はチェックしてみては!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリ作品をご紹介】
●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●結末を知らないまま転生●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●書籍発売中●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●先手必勝!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●食に敏感、恋に鈍感●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした
『悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした』

●じれじれの両片想い●
バナークリックORタップで目次ページ
陛下は悪役令嬢をご所望です
『陛下は悪役令嬢をご所望です』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●ピンチの連続!でも負けない!●
バナークリックORタップで目次ページ
ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!
『ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!』

●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●端役過ぎて重要な情報が……●
バナークリックORタップで目次ページ
闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい
『闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい』

●人気シリーズ最新作登場●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!詰んだ後から始まる大逆転
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!詰んだ後から始まる大逆転』

●隙間時間でサクサク読める●
バナークリックORタップで目次ページ
愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法
『愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法』

●続編開始●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』もぜひお楽しみください☆

●笑顔と元気をお届け!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします! 』

●おじいさんと魔女!?●
バナークリックORタップで目次ページ
森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』

●断罪回避の鍵はお父様!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●頑張れ!悪役令嬢!●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!
『悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』

●笑えるドタバタ劇●
バナークリックORタップで目次ページ
旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~
『旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~』

●もふもふも登場します●
バナークリックORタップで目次ページ
周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~
『 周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』

●表紙は蕗野冬先生●
バナークリックORタップで目次ページ
だから断る
『運命の相手は私ではありません!~だから断る~』はモブ転生した私が溺愛を回避しようとするお話です。

●やがて溺愛に至る迄の物語●
バナークリックORタップで目次ページ
皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜
『皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜』

●のんびりほのぼの●
バナークリックORタップで目次ページ
転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました
『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』でお待ちしています!

●すれ違いからの溺愛エンド●
バナークリックORタップで目次ページ
わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~
『 わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~』

●表紙は蕗野冬先生の描き下ろし●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―
『悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―』

●俺様ツンデレ溺愛系●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される
『婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される 』

●さくっと読めます●
バナークリックORタップで目次ページ
浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~
『完結●浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~』断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾。

●一番星キラリの最新作●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え、続編開始&完結!
『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』もご覧ください☆

●一番星キラリのオススメ●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告したバナー
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ第二弾
『婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』一気読みがおススメです☆

●一番星キラリの新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
身代わりの悪役令嬢~断罪されたいVS.断罪を阻止したい~
『身代わりの悪役令嬢~断罪されたいVS.断罪を阻止したい~』毎日更新中!

●ラストは仰天展開!●
バナークリックORタップで目次ページ
ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??
本編全20話『ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??』

●一番星キラリの断罪終了後シリーズ●
イラストクリックORタップで目次ページ
断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?バナー
本家本元『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』もぜひお楽しみください☆

●一番星キラリの短編●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢を超える悪女の復讐劇~悪役令嬢のメイドに転生~
『完結●悪役令嬢を超える悪女の復讐劇~悪役令嬢のメイドに転生~』おススメです!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ