41:エピローグ
ゆっくりエスコートされ、馬車の中へ乗り込む。
その様子を護衛騎士のレイモンドが確認し、出発の合図を出す。最近、護衛騎士副隊長へと昇進したレイモンドは、すっかり風格が出てきた。増々逞しく、精悍になっている。
「今日の舞踏会は最後に打ち上げ花火があるから。そこでシャーロットに特別なプレゼントを贈るよ」
「あ、花火があるのね。それにプレゼント……。なんだかいつもプレゼントをもらってばかりで申し訳ないわ」
着ているドレスもそうだが。
髪飾りもネックレスもイヤリングも。すべてこれまで誕生日など様々なイベントにあわせ、プレゼントされたものだ。無論、薬指で輝く婚約指輪も。
「でも今回のプレゼントは、わたしにとってもギフトになるから。だから遠慮しないで、シャーロット」
ローレンス皇太子にとってもギフトになるって……。
何かしら?
そう思うと同時に。
悪役令嬢として断罪されるのは舞踏会の冒頭。
誰に断罪されようとそこで舞踏会からは姿を消すので、悪役令嬢シャーロットは、最後に打ち上げ花火があることを知らなかったはずだ。だから秘かに、「シャーロット、花火が見られるよ、良かったね」と自分の分身でもある悪役令嬢シャーロットに語りかけてしまう。
そうこうしていると舞踏会の会場に到着した。
私は断罪回避をしていたから、この卒業を記念した舞踏会に、リアルに足を運ぶのは初めてだった。ゲームをプレイしていた時には何度も見ているが、リアルは初めて。学生主催とは思えない程、本格的だ。
楽団は国内でも有名なオーケストラが招かれている。ダンスの前のひと時は、ソプラノ歌手が美しい声を響かせていた。休憩室には街の有名店の軽食やスイーツが並べられ、生花もこれでもとかというほどホールのあちこちに飾られている。
断罪もなく、卒業生代表による挨拶で舞踏会が始まり、私もローレンス皇太子とのダンスを楽しんだ。この場にローレンス皇太子がいることは、すぐにみんな気づいた。そしてローレンス皇太子と記念にダンスをしたいと願う女学生は沢山いる。彼女達とローレンス皇太子がダンスを始めると、私はレイモンドとダンスをすることにした。
「シャーロットもいよいよ卒業か。早いよなぁ。ついこの間まで、こんなに小さかったのに」
「レイモンド、その話し方。もう親戚のおじさんみたいですよ」
「えええ、俺、21歳だよ。止めてくれよ、おじさんなんて~」
そんなことを話しながらのレイモンドとのダンスは楽しかった。
楽しい時間というのは。
あっという間に過ぎていき。
最後の打ち上げ花火の時間となった。
楽団は庭園に移動し、花火と連動した演奏を行うことになっている。
庭園の噴水もライトアップされ、外は一気ににぎわいを見せる。
庭園のベンチは早い者勝ちだったが。
さすがローレンス皇太子。
ガゼボ(東屋)を押さえてくれていた。
そこに移動し、並んで腰かけると。
そこは楽団も見え、その後ろで打ち上げられる予定の花火もバッチリ見えそうな、まさにベストポジションだった。
気を利かせたレイモンドは飲み物を運んでくれるし、至れり尽くせりだ。
楽団が音合わせをしていると思ったら。
その音が止み……。
卒業生達のざわめきがまばらになったその時。
力強い音楽が始まると同時に、いきなり複数の花火が打ち上げられ、拍手が起きる。
その後も曲にあわせ、花火の打ち上げが止まることはない。
「すごいわ。花火にどれだけお金をかけているのかしら? ローレンスの時も、こんなに花火が連続で打ち上げられたの?」
「わたしの卒業式の時は、国王陛下の寄付があった。でもこの舞踏会には国王陛下に加え、わたしからの寄付もあるからね。花火は盛大になるよ」
その言葉の通り。
本当に花火は連続で打ち上げられ、息を飲んでしまう。
それでもやはり。
そろそろ終わりの時間が近づいたその時。
「シャーロット」
「何ですか、ローレンス」
「特別なギフト、今、贈ってもいい?」
そう言ってローレンスが手にしていたのは……。
碧いローズだ。一輪の碧いローズが、水色のリボンで飾られ、ローレンス皇太子の手にあった。
「……! 遂に成功したのですね!」
「そう。これで半年後の、シャーロットとわたしとの結婚式にも間に合うよ」
笑顔のローレンス皇太子が、碧いローズを私に差し出してくれた。
「貴重なものなのに。いただいてもいいのですか?」
「シャーロットのために、用意したのだから。受け取って」
ローズを受け取った私に、ローレンス皇太子が微笑みかける。
「もう一つ、プレゼントしてもいい?」
頷いた次の瞬間……。
最後の打ち上げ花火と楽団の演奏の音が聞こえ、私の唇にローレンス皇太子の唇が重なった。
ファーストキス。
脱・喪女を願った私の、正真正銘、初のキス。
それが……今、実現された。
ゆっくり顔を離したローレンス皇太子が私に微笑みかけた。
嬉しくて、涙が出てしまい、ローレンス皇太子は慌てている。
悪役令嬢シャーロットとして、『ハッピー・ラブ・タイム』通称『ハピラブ』の世界に転生し、断罪を回避して80歳の寿命を全うした。断罪を回避する代わりに、恋を知らずに天に召せられることを心残りと感じたが……。
こうやって転生できて。
でも本当に悪役令嬢としての役割は免除されているのかと不安になり、攻略対象を全力で避けようとしていたが。
実はローレンス皇太子と私は既に幼い頃に出会い、そこから恋は始まっていて……。
ヒロインの登場に動揺もしたが、彼女はとってもいい人だった。
そう、リンは。
男兄弟ばかりだったから。
妹が欲しいとずっと思っていた。私のことが妹みたいに思え、とても可愛がってくれたのだ。
ローズベリー離宮から戻った後も。リンとの交流は続き、手作りお菓子も沢山食べさせてもらった。香水だけではなく、お化粧の仕方もリンに教えてもらったのだ。
悪役令嬢とヒロインとは思えないほど仲良く過ごし、そしてリンはアルトと結ばれ……。
断罪回避をした悪役令嬢に、二度目があるとは思っていなかった。まさかまた回避しろと!?と思ったが、そんなことはない。
初めての恋をして、その相手と結ばれ……。
悪役令嬢は本当に大変。
断罪回避のために、犠牲を払う子も沢山いると思う。
でも、時にはこんな二度目があるのだ。
今、断罪回避のために頑張っているすべての悪役令嬢に伝えたい。
諦めないで。
苦しくて辛くても、諦めなければ、その先にきっと頑張った分のご褒美が待っているはずだよ!と。
え、どんな断罪回避をしたか知りたい?
それはやっぱり自力で考えないと。
そこをズルしては、ご褒美は受け取れない。
「シャーロット、終わったね。……帰ろうか」
「はい、ローレンス」
ローレンス皇太子にエスコートされ、ゆっくりガゼボ(東屋)を後にした。
☆~END~☆
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