40:その後
時が流れるのは早いもので。
まだまだ先と思った、ローレンス皇太子達の卒業式の日がやってきた。
私もこの年、卒業だったが。
ローレンス皇太子達の卒業式の方が、私より2週間早かった。
つまり、みんなが卒業式の日。
私はまだ学校に通っていた。
そして私の学校が終わった頃に、卒業を記念したローレンス皇太子達の舞踏会が始まった。
つまり、私は断罪の場にいない。
そして舞踏会は滞りなく終わった。
その後は二次会、三次会みたいに、仲がいい者が通常の舞踏会に足を運ぶ、いわゆる舞踏会のはしごもあったのだが。
この流れに乗ったのはデューク。
沢山の女子と共に、夜の街へ消えた。
アルトとリンは二人きりでアルトの屋敷で過ごすということで、卒業記念の舞踏会の会場を後にした。二人は一年後に結婚式を挙げるため、数カ月後にはアルトの故郷ミナル国へ帰ることになっている。
グレアムは屋敷で両親や親戚からお祝いしてもらえるということで、舞踏会が終わるとそのまま自身の屋敷へと帰って行った。
ローレンス皇太子は。舞踏会の時に着ていたアイスブルーのテールコート姿で、私の屋敷を訪ねてくれた。レイモンドも黒のテールコート姿で同行し、二人の卒業を祝う会が、我が家で行われることになった。
ひとまず。
ヒロインと攻略対象の卒業記念の舞踏会は無事終わった。
勿論、断罪はない。
何しろ私はその場にいないのだから。
そしてヒロインであるリンは、攻略対象であるアルトと婚約し、約1年後には結婚式を挙げることになっている。
一瞬、自分の卒業記念の舞踏会まで、悪役令嬢御免にならないのかと思ったが。
そんなことはない。
リンとアルトが結婚すれば、つまりは約1年後。
私はお役目御免で間違いない。
そう確信した。
◇
リンとアルトの結婚式。
それはもうまさに夢物語。
実にロマンチックだった。
驚きだったのだが。
1日のうちに、結婚式は2回行われた。
結婚式だけではない。披露宴にあたる祝いの席も2回設けられた。
一度目は午前中。
西洋風、すなわち普通に新婦と新郎が、ウェディングドレスとタキシードで行われた。
二度目は夜。
エキゾチックな砂漠の中の宮殿の屋上で、砂漠の民が着るようなオリエンタルな衣装による結婚式だった。さすが砂漠がすぐそばにあるだけある。もう星空というより、夜空に広がる世界は、まさしく宇宙。その神秘的な雰囲気の中、アラビアンナイトを感じさせる衣装に身を包んだリンは実に美しく、その後の祝いの席の踊り子のダンス、砂漠の民の楽器による演奏も見事だった。
この二人の結婚式には、宰相補佐官という、宰相をサポートする数名の補佐官の一人になったグレアム。公爵家の次男として、学園卒業後も自由人となり、数多の恋の噂を流しているデューク。そして護衛騎士としてバリバリに活躍するレイモンド。そしてローレンス皇太子と私で参加した。
この時。
二人の結婚式に感動する私を見てローレンス皇太子は。
「シャーロット、わたし達の結婚式も昼と夜の二回やるかい?」
そんなことを言ってくれて、私を大いに喜ばせれてくれた。
さらに私は。
これで悪役令嬢から解放されたと、一人胸の中で万歳していた。
◇
「シャーロット様、ローレンス皇太子さまがいらっしゃいましたよ」
「ありがとう、ベッキー、今、行くわ」
今日。
私はローレンス皇太子達も卒業したドゥニエ高等学園を卒業した。
そして。
これから卒業記念の舞踏会へ向かう。
この日のために用意したドレスは……。
フランボワーズ色のドレスはシックでとても大人っぽい。身頃とスカート部分で濃淡が異なり、立体感のあるカラーバランスとなっていた。繊細なシルバーレース、ラベンダー色のつまみ細工のような花、大小のパールが全体に飾られ、舞踏会に相応しい華やかなドレスだ。
その一方でバックリボンはフリルになっており、パールも飾られ可愛らしい。
オーダーメイドで仕立てたこのドレスは、ローレンス皇太子がこの日のために私にプレゼントしてくれた。
髪はいわゆる夜会巻きにして、ピンクパールの髪飾りをつける。髪飾りとお揃いのネックレスとイヤリングもつけた私は……。
うん。
大人になった。
そう思う。
数年前のローレンス皇太子と私は。
並んでいると、兄と妹みたいにも見えなくもなかった。
でもドゥニエ高等学園に進学してからは、フリルたっぷりドレスではなく、体のラインが出るようなドレスも着るようになった。身長も伸び、バストもアップし、より女性らしく成長できた私は……。
ローレンス皇太子と並んでも、ちゃんと婚約者に見えるはずだ。
というわけで。
エントランスへ行くと。
そう。
初めて会った時から大人っぽかったが、今は完全にハンサムな青年へと成長したローレンス皇太子がそこにいた。
その佇まい――背筋がピンと伸び、姿勢がいい。
凛とした様子――皇太子としての自信とオーラが感じられる。
こちらへ向ける笑顔――もうパーフェクトスマイル。世界中の女性の心をとかすものだ。
着ているテールコートもとっても素敵。それは夜空のような青藍色で、白シャツのタイは、私のドレスに合わせたフランボワーズ色だ。白のズボンに収まる脚は本当にスラリと長い。そこに合わせた焦げ茶色の革のブーツも、実に似合っている。
「シャーロット、本当に素敵だよ、そのドレス。よく似合っている。デザインと生地選びに時間をかけたかいがあったね」
そう言って私のそばに来たローレンス皇太子は、私の手をとり、優雅に甲へとキスをする。
こうやって手にキスをしてくれるのも、もはや日常的になっていた。
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いろいろ工夫した作品で、主人公が悪役令嬢に振り回されながら、幸せを掴んでいく物語です。
毎日2話ずつ公開していくので、良かったら遊びにきてください☆彡
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『身代わりの悪役令嬢~断罪希望VS.断罪阻止~』
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乙女ゲームの世界に転生! 目の前に悪役令嬢はいる。
そしてこの姿はヒロインではない。
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鏡を見てビックリ。悪役令嬢ですよ、私の姿は。
双子という設定はないのに。どういうことですか?
しかも悪役令嬢であるダイアンは、断罪されたがっている!?
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断罪されたい悪役令嬢VS.断罪されないでほしい私の攻防戦が今、幕を開ける――!