38:香水
アルトは私が気になった点について、次々と解決してくれた。
残るのは……そう。
キスマーク。
それについてアルトは……。
「なんとなく、予想はつきます。でも全部の謎解きを私がするのは……。ここは直接、ローレンス皇太子に尋ねてみては? その質問をすることは……お二人の関係性を一歩進めることになる気もしますよ」
一番気になっていて。一番確認しづらいことを私が直接ローレンス皇太子に尋ねる……? しかも私とローレンス皇太子の関係性を進めることになる??
「進めることにならなくてもいいので、正解を知りたいです、ではダメですよ、シャーロット」
図星なのでギクッとなるが。アルトは天色の瞳を細め、ニッコリと笑っている。その笑顔でそう言われてしまうと……。
「……そうですね。本人に……聞いてみます」
「それが一番。だって私が言ったこと、それがすべて正解とは限らないですからね。あの場に私はいたわけではないですし。それに分からないことで気になることがあれば。私はリンに直接聞こうと思っています」
「……! アルトさまの言うこと、よく分かりました」
その後は昨晩の休憩所の干し肉が思いの外美味しかったとか、実は夜、窓から外を見たら、川を挟んだ森にイノシシがいたとか、そんなことをアルトと話しながら、庭園の片づけを行った。
庭園の片付けの後にドレスを着替えた。
麻のパウダーブルーのワンピースは、身頃のフリルと腰のリボンがとても可愛い。
着替えが終わるとお昼だ。
みんないい汗をかいていたので、食欲が進む。
テーブルに野菜が沢山並んでいるのは、昨日の嵐のせいだ。枝から落ちてしまったり、枝が折れてしまったり。でもどれも洗えば食べられるものばかりだった。その結果、サラダ、炒め物、スープ、オードブルと、たっぷり野菜を使ったものが登場した。
お昼の後は昼寝タイムとなり、その後は……。
アルトが持参したコットンキャンディーを作る装置で綿菓子を作ったり、子供もできるような弓矢で景品を当てるゲームをしたり、ポップコーンを作って食べたりと、なんだか夏の縁日のようなことをして楽しんだ。
そうしているうちに日が暮れてきたので、そのまま外でバーベキューとなった。
なんだか夏を先取りしたみたいで楽しくてたまらない。
縁日で遊んでいる時も、バーベキューをしている時も、みんなでワイワイ・ガヤガヤという状態だった。
だが。
バーベキューの後は、花火タイム。
まずは手持ち花火を楽しむことになった。
その際、そばにリンがいたので、さりげなく話しかけ、香水の件を聞いてみた。
「コルビー男爵令嬢は、香水とか楽しまれますか?」
「ええ、香水つけていますよ。私はお菓子作りが好きなので、バニラの香りのグルマン系の香水をつけています」
そこで言葉を切ると、リンは私を見て微笑む。
「皇太子妃さまは、香水に興味があるのですか?」
そこからは、リンに香水について教えてもらいながら、花火を楽しむことになった。香水はトップノート、ミドルノート、ラストノートと、順に香りが変ること。体温に反応し、その香りが変化し、つける場所により感じ方も違うという。
「全体にふわっとまとうのが好きなので、ウエストにつけるのが私は好きですね。肩につけると自分でも動く度にふんわり香りを感じられておススメです」
一通り説明をすると。リンはクリーム色のワンピースのポケットから携帯用の小型のアトマイザーを取り出した。透明なガラスにゴールドの装飾が施され、とってもオシャレ。
「つけてみますか?」
「いいのですか!?」
「勿論です。……皇太子妃さまと同じ香り……」
リンはウットリした顔で頬を少し赤く染めると、私の手を取る。
「もう夜なので、手首でいいですかね。半袖の季節に手首や肘の内側につけると、太陽の光と香水が反応して肌に影響があると聞いたことがあります。そこは注意が必要です」
そう言うとリンはシュッと香水をふりかけてくれる。
両手首をやさしくすり合わせると……。
優しいバニラの香りがふわっと香る。
でも……これは私がローレンス皇太子から感じた香りとは異なっていた。
あ、そうか。
時間が経つと香りが変化するから……。
「ラストノートはムスクを思わせるバニラの香りに変りますが、でもそれは私の場合です。皇太子妃さまの体温により、香りは変化しますから。……どんな香りになるか楽しみですね」
なるほど。そうか。
私の場合は……どんな香りになるのだろう。
「みんな、これから打ち上げ花火を始めるよ。こっちに椅子と飲み物を用意したから」
ローレンス皇太子の言葉に、パラパラと散っていたみんなが集合する。
椅子は人数分以上並べられていたので間隔をあけながら、座ることになった。リンのところにはアルトが迎えに来て、二人は並んで座った。私とグレアムの両親は4人で並んで座っている。グレアムはデュークと並んで座り、私は……。
「シャーロット、ここに座ろう」
ローレンス皇太子の隣に座った。レイモンドは私達が座るのを確認すると、デュークの隣に座る。
そして、打ち上げ花火が始まった。