36:なぜバレたのだろう?
「さあ、到着だよ」
そう言ったローレンス皇太子が私をおろしてくれた瞬間。
甘い香りが彼からした。
これは……香水だ。
ローレンス皇太子から香水を感じたことはない。
それにこの甘い香りは……男性向けではないと思う。
女性向けだ。
なんで、ローレンス皇太子から女性向けの香水の匂いを感じるのだろう?
なんだか心臓が嫌な感じでドキドキしてきた。
「シャーロット、出発するよ」
頷いて馬に乗りながらも、ザワザワする気持ちは収まらない。
「このまま離宮まで帰るからね、シャーロット」
そう言われ、「はい」と返事をしつつも、心ここにあらずだ。
人生経験豊富な私は。
点と点をつなぎ、一つの仮定を見出してしまう。
リンの頬は上気しているように感じた。
さらにリンの後れ毛とうなじがなんとも色っぽかった。
ローレンス皇太子の少し見える鎖骨に赤い痣を見つけてしまった。
女性ものの香水の匂いをローレンス皇太子から感じてしまった。
こ、これはもしや……。
昨晩、ローレンス皇太子とリンは炭焼き小屋で一つ屋根の下、一晩を過ごした。部屋はそこまで狭いわけではないし、暖炉もあるけれど……。嵐の最中は心細く感じたかもしれない。濡れていたし、体を温める必要だってあった。
だから……。
二人は身を寄せ合い、温めあっていた。炭焼き小屋を見る限り、明かりはランタンが一つぐらいしかなかった。夜は暖炉の明かりとランタンの明かり、それぐらいしかなかっただろう。
つまり……。
なんだかとってもムーディ。そこでもしや二人はいい雰囲気になってしまったのではないか。だって、リンはヒロインで、ローレンス皇太子は攻略対象。ゲームの見えざる力が作用し、二人がイイ感じになってしまったとしても……。
頭の中で妄想が止まらない。
そんな、ローレンス皇太子が、ローレンス皇太子が……!
「シャーロット!」
つい妄想し過ぎて、馬から落ちそうになっていた。その体をぐっと抱きとめてくれたのは、勿論、ローレンス皇太子だ。
「危なかったね。やっぱりわたしと二人乗りで正解だよ。睡眠不足だったのかな? わたしが心配で眠れなかった?」
というか、現在進行形で心配です……。
「そんな顔をして……。もう、シャーロットは……」
ローレンス皇太子の声が甘く感じてしまい、心配なのにドキドキして、なんだか不思議な気持ちになってしまう。こうしていると私の妄想は、妄想に過ぎないのではないかと思えるが。
でも本人に確認したわけではない。確かめたいけど、答えがもし私が恐れるものだったら……。そう思うと絶対に聞けない。
悶々としながら離宮に戻った。
◇
離宮につくともう大変。
悶々と悩んでいる暇はなかった。
まず私の両親もとっても心配していたし、再会した時は二人から熱烈に抱きしめられた。グレアムの両親も泣いて息子の無事の帰還を喜んでいた。離宮の方も大変なことになっていて、あのローズが咲き誇る庭園も、惨憺たる状態だ。ローズは散り、枝も折れてしまったという。
温室のガラス窓も一部割れたり、厩舎の屋根が一部吹き飛んだり、畑にも被害がでたと教えてくれた。
さらに。
宮殿や街中でも大雨による浸水がひどく、なんと私が通う学院も、ローレンス皇太子達が通う学園も、教室が水浸しなんだという。そこで明日、月曜日は休校が決まった。
今はもう晴天で、時間が経つにつれ、気温もグングン上昇している。思いがけず夏のような気候になりつつある中、明日は学校が休みということだったので、私達は離宮にもう一泊することになった。
ちなみに帝都の中心部までの帰り道は、まだ倒木などもあり、片づけが必要。それらは今日行われるので、明日、帰った方がスムーズだというのも、もう一泊する理由の一つだった。
諸々方向性が決まった後、ローレンス皇太子は、私に少し休むことをすすめたのだが。彼自身はどうするのかというと……。庭園の片づけや厩舎の修理などを手伝うという。それはローレンス皇太子がしなくてもいいのでは!?と思ってしまうが。
狩りのための休憩所や炭焼き小屋の片づけもあり、皆、忙しいので手伝うというのだ。
それならば。
私も寝ている場合ではないと手伝うことにした。ローレンス皇太子が手伝うのだから、みんなも動き出した。グレアムと私の両親も手伝っている。アルトまで「私も体を動かしたいかな」と庭園の片付けを買って出た。
男性陣は厩舎と温室の片付け、女性陣は庭園の片付けだ。厚手の手袋はめ、庭師が枝などを片付けたあと、ほうきで花びらや葉っぱを片付けることになった。
ちなみにここにはアルトもいた。本当は厩舎や温室を手伝おうとしたのだが。仮にも他国の王族。厩舎の修理はガテン系だし、温室はガラス片が散乱している。怪我をして大変ということで、庭園をまかされたわけだ。
グレアムと私の母親と共に、リンが話しながら片づけをしている。昨日会ったばかりであり、まだゆっくり離せていなかったので、三人は楽しそうに話している。だから私はアルトと話すことにした。
するとアルトは私の顔を見ていきなりこんな指摘をした。
「シャーロット、もしかして君は恋の悩みを抱えているのでは?」
え、なんで!?
私のモヤモヤの件、なぜバレたの!?