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完結●断罪回避に成功した悪役令嬢、なぜか2度目の転生へ  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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32:困った事態

入浴することで、とてもサッパリできた。男性用の衣装しかなかったので、かなりサイズは大きいがシャツを着て、マントをスカート代わりに腰に巻き付けた。バスルームの隣室はランドリールームになっていたので、そこで濡れたワンピースを絞って吊るす。


暖炉のある部屋に戻ると、皆、毛布にくるまり、体を温めていた。


! アルトがいる。


グレアムと何やら真剣な表情で話していた。でも私に気付き、アルトがグレアムに目配せすると。グレアムが私を見て、歩み寄る。


「シャーロット、少し困った事態になっています」

「え、どうしたのですか?」


聞くとリンが乗っていた馬は雷にかなり怯え、なかなか思うように走ってくれなかった。それをアルトがサポートしながら進んでいたのだが、かなり皆から遅れをとってしまう。それでもようやく橋まできたのだが……。


川が増水し、橋の上に濁流がかかるぐらいにまでなっていた。それを見たリンの乗る馬は、橋を渡りたがらない。


さらに激しい風と雨、雷もかれこれ1時間は経つのに弱まる気配はなかった。


「今も雨は降り続いています。巨大な雲が発達し、それは現在も続いているのでしょう。これはまだしばらく収まらず、竜巻が起こる可能性もあるかと」


アルトが言うそれってつまり……夏によくあるゲリラ豪雨、そしてその原因である巨大積乱雲スーパーセルなのでは……?


「もはや嵐のような状態の中、外にいるのはとても危険。なんとしても橋を渡る必要があります。でも橋自体も大変なことになっています。濁流が橋の上にまで流れこんでいるのですから」


今のアルトの言葉を、グレアムが補足してくれる。つまりグレアムが外に出て確認すると、橋の下は流されてきた枝などのゴミにより、流れが完全に阻害されていた。その結果、溢れた濁流が橋の上まで、既に流れこんでいる状態だというのだ。


「ローレンス皇太子は、私に対し、『あなたの身に何かあれば、それは国際問題になりかねません。コルビー男爵令嬢とその馬は、自分が一緒に橋を渡らせるので、あなたからまず橋を渡ってください』と言われました。彼が言わんとすることは、よく分かります。レディを置き去りにすることは不本意でしたが、従者を連れ、ひとまず橋を渡りました。同時にローレンス皇太子は、橋の反対側にいる、コルビー男爵令嬢の元へ行ったのです」


そこでアルトとグレアムが顔を見合わせた。口を開いたのはグレアムだ。


「まさにアルトたちがこちら側にきて、ローレンス皇太子がコルビー男爵令嬢の方に着いた時。橋が……決壊したんだよ、シャーロット」


「え!」


沢山の枝などのゴミで流れが阻害されていたが、濁流は激流となり、橋を飲み込み、そして橋自体を破壊したというのだ。


でも橋の向こう側には、炭焼き小屋が、徒歩で行ける距離にあるという。とても大勢が避難するような広い場所ではないが、二人ぐらいであれば大丈夫だろうとグレアムは言っている。


「じゃあ、グレアム、ローレンス皇太子とコルビー男爵令嬢は、そこに避難した可能性が高いのかしら?」


グレアムは頷き、別の橋の存在を明かしてくれた。


今、私達がいる場所から馬を走らせれば、15分ぐらいの距離にも、橋があるのだという。上流にあるその橋は……吊り橋だ。こんな天気で吊り橋を渡るのは、間違いなく危険だろう。そして下流にある橋は、ちゃんとした橋だが、かなり古い橋とのこと。比較的新しい橋が決壊していることを考えると、その橋に向かっても、無駄足になる可能性が高い……。つまり、そちらの橋も壊れている可能性が高いということだった。


そもそも増水した川を見て、橋を渡るのを嫌がったコルビー男爵令嬢の馬が、別の橋を渡るのかというと……渡るとは思えない。それにグレアムの言う通り、勢いが増し、激流になっているなら、下流の橋が決壊している可能性は……限りなく高いと思えた。


さらにアルトが、こんな情報も教えてくれた。


「ローレンス皇太子さまは、向こう側に渡った時、徒歩でした。つまり馬はコルビー男爵令嬢の乗っていた一頭のみです。その状態でこの天気の中、動き回るのは無理でしょう。よってこの天候が落ち着くまで、ローレンス皇太子とコルビー男爵令嬢は、炭焼き小屋で待機になると思います」


「現状ですと、こちらへ戻って来るのが難しい状況というわけですね。だったら炭焼き小屋で待機も仕方ないのでは? 無理してここに来ようとする方が危険ですよね」


それはそうだと言う感じでアルトとグレアムは顔を見合わせ、頷いた。そしてアルトが天色の瞳を私に向ける。


「この天気で時間感覚が分からなくなりますが、間もなく日没です。例えあと数時間後にこの天候が収まったとしても、川は山からの水が流れ込むので、荒れた状態はすぐには収まらないでしょう。そして地面は水を含み、ぬかるんでいます。そんな状況で、暗闇の中、動き回るのは危険です」


アルトが言うことは尤もだ。それだったら……。


「もうそうなったら朝になるまで炭焼き小屋で過ごすしかないのでは?」


私が指摘すると、アルトとグレアムは黙り込んだ。

なんだろう……。

先程からこの二人は。

なにか腹に一物あるような態度だけど。


「……仕方ないことですよね?」


なぜかグレアムが疑問形で聞くが、仕方ないとしか思えない。


「仕方ないと思います。状況が状況ですし。無茶をして怪我をしたり、大事がある方が危険に思えます」


するとようやくアルトとグレアムはホッとした顔になり、笑顔になった。

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