26:ローズベリー離宮
「シャーロット、準備はできたかい? 皇太子さまの離宮に行くのは、私もリリーも初めてだ。楽しみだね」
ローレンス皇太子と制服で街を散策した翌々日の週末。彼はいつものメンバーに加え、アルト、リンを自身の離宮に招待してくれた。
離宮。その名もローズベリー離宮。
帝都内にある離宮だが、宮殿からでも馬車で3時間近くかかる。周囲を森で囲まれ、美しい湖もある離宮だと父親が言っていた。さらに名前にある通り、今の季節は沢山のローズが咲き、様々な種類のベリーが自生しているという。
今回、アルトが招待されたのは……間違いない。お茶会でじっくり話し、その後、学園でもローレンス皇太子とアルトは昼食を共にしたりと話をしたのだろう。皇族と王族という身分の近さもあり、二人は仲良くなったようだ。
リンが招待されたのは……私がリクエストしていた。ヒロインだし、近寄るのが怖い。ローレンス皇太子を好きになったらどうしようと敬遠したい気持ちが私の中にあったのだが……。
パウンドケーキはとても美味しかった。毒も入っていない。御礼をしたいと思った。
勿論、すぐに手紙は書いた。それを送り、返事のカードと花束も届いている。そのカードには御礼の手紙をもらえて嬉しかったこと。よければまた作るのでお菓子を食べて欲しいこと。できればまた会いたいことが書かれていたのだ。
私は手紙しか送らなかったのに、リンは可愛らしいピンクのガーベラの花束まで贈ってくれた。私の中でリンの好感度は急上昇し、また会いたいと思えていたのだ。だからローレンス皇太子に素直に今回の件を話し、また何かの機会にリンも誘って欲しいとお願いしていた。そんなお願い、私はこれまでローレンス皇太子にしたことがない。だから彼はすぐに願いを叶えてくれた。
こうしてローズベリー離宮への招待状が届き、両親と共に馬車に揺られているというわけだ。
長時間の移動になるので、母親も私もワンピースを着ている。普段のドレスよりかなり楽。母親は白に近いピンク色、私は綿モスリンの白のワンピースだ。父親も上衣はなしで、白シャツと紺色のベストにズボンと軽装をしている。
3時間も馬車を走らせていると、窓から見える景色がガラリと変わる。出発した時、周囲は貴族の屋敷ばかりで、高い塀が見えていた。でも次第に塀はなくなり、ポツポツと住宅が見え、やがて畑が広がり、草原が見えてきた。帝都は広い。端の方へ行けば、そこは放牧地があり、牛やヤギの姿をみることができた。
「シャーロット、見てご覧。このカラル橋は帝都の中で一番長い橋。それだけ川幅が広いというわけだ」
父親の言葉に窓の外を見ると、青く澄んだ河が見え、石造りの橋には歩道もあり、等間隔で街灯が並んでいる。ここを徒歩で渡ると30分ぐらいはかかりそうだ。
橋を渡り切った場所で休憩をとり、河を見ると白鳥や鴨の姿が見えた。
再び馬車に乗り、しばらく進むと。
見えてきた。
ローズベリー離宮が。
離宮は瀟洒な建物で、天然スレートの屋根、南のファサードには皇族の紋章にも使われている立派なライオンの像が設置されている。そのままエントランスに進み、馬車が止まると、ローレンス皇太子とレイモンドがわざわざ迎えに出て来てくれた。
晴天でこの季節にしては気温も高い。そしてこの離宮は自然も多いことから、ローレンス皇太子は、白シャツにウエストがシェイプされたインディゴブルーのベストと同色のズボンという軽装だった。でも溢れ出る気品は隠し切れず、ラフな服装なのに、そう見えないところがすごいと思う。
ちなみにレイモンドは白シャツにいつも通り黒のベストとズボン。今日は外に出ている時間が長そうなのに、黒は暑くないのかしら?と思ったが、どうやら麻で出来ているようで、想像より涼しいのかもしれない。
そんなことを思いながら馬車を降りる私をローレンス皇太子がエスコートし、離宮の中へと案内してくれる。
「シャーロットが一番乗りだよ。よほどわたしに会いたかったのかな?」
照れることなくそう言われ、すぐに頬が熱くなり、なんだか耳も熱く感じる。一番乗りになったのは……父親の策略か偶然かは分からない。私としては狙ったわけではないのだから。そして会いたいか、会いたくないか、だったら勿論……会いたい。
だから今の問いかけにはコクリと頷く。するとローレンス皇太子はとても嬉しそうな笑顔になり、さらにこんなことを言う。
「わたしはシャーロットの到着を待ち焦がれていたから、一番乗りで来てもらえて嬉しいよ」
すぐ後ろに両親もレイモンドもいるのに。ローレンス皇太子は気にせず、私を喜ばせ、恥ずかしくさせる言葉を紡いでいる。
おかげで室内の様子をゆっくり見ることもできず、気づけばティールームに案内されていた。
ティールームの中に入ると、大きな窓からは、離宮を取り囲む青々とした森が見えている。さらに窓の高さがあるので、雲一つない青空もよく見えていた。腰かけたソファは座り心地が良く、ガタガタ揺れていた馬車の座席のことを忘れさせてくれる。
対面のソファに座った両親の顔も和んでいた。
そこに飲み物が運ばれてきた。
美しいグラスに入った涼し気な飲み物はレモネードだ。
「この離宮の一画に畑があるんです。そこでレモンやオレンジを栽培していまして。そのレモンを使い、作ったもの。移動の疲れをこちらで癒してください」
そう説明するローレンス皇太子はとても15歳とは思えない。堂々として凛として、母親はウットリと彼を眺め、父親は頼もしそうに頷いている。私はこの素晴らしいローレンス皇太子が自分の婚約者だと思うと……。
もう単純に嬉しくて胸がキュンキュンしていた。
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