25:恋をしていると実感
お茶会の日から二日後。
ローレンス皇太子は二人きりで会おうと言ってくれた。しかも制服でまた来ていいと言われた。そこで私は屋敷に戻らず、直接宮殿に向かっていいか父親に尋ねると。
「シャーロット、構わないよ。いつもより早く宮殿に着くと伝えておこう。……屋敷に戻らず宮殿にすぐ行きたいのか。そうか、そうか。一刻も早く、ローレンス皇太子さまに会いたいのだね」
それは……考えてもいなかった。
単純に私がズボラだから、どうせ制服からドレスに着替える必要がないのなら。屋敷に戻らず、宮殿へ行く方が……“楽”だと思ったのだ。本当にもう、ただそれだけ。
でも父親の言葉を聞いて……気が付いた。そうか。いつもより早う会うことができる。それはつまりいつもより長くローレンス皇太子と一緒にいることができるわけだ。
いいことづくめではないか。
ということで授業を終えると。そのまま馬車に乗り込み、宮殿へと向かう。二人きりで会う日は、ローレンス皇太子はいつもエントランスに迎えに来てくれる。だからエントランスが見えてくると……自然と胸がドキドキしてしまう。
あ、ローレンス皇太子!
その姿を見てビックリした。だって彼もまた制服を着ていたのだ。
その制服は、紺色のブレザーで胸ポケットにはエンブレム、シャツにネクタイ、ズボンはグレーというもの。とてもよく似合っていた。何よりローレンス皇太子は品がある。ただの制服なのに、一級品に見えてしまうから不思議だ。
御者が扉を開けると、ローレンス皇太子が駆け寄ったのだが。私をエスコートするのかと思いきや。彼が馬車に乗り込んだ。
「ローレンス、どうしたの!?」
「制服だったら身分も分からないよね。街へ行こう、シャーロット」
「! いいの……?」
ローレンス皇太子はニコリと笑い、私の頭をさりげなく撫でる。もうその動作にドキドキしてしまう。
「大丈夫だよ。レイモンドも制服を着ているし、他の護衛の騎士も既に着替えさせてある。後ろの馬車でついてくるから」
「そうなのね……!」
こうして思いがけず、街へ出ることになった。
てっきり今日もいつも通り宮殿でキャラメル、ホワイト、ソックス、ティー、コットンを愛でながら、読書でもして過ごすのかと思っていた。でも街へ行けることになり、俄然嬉しくなってしまう。
「シャーロット、嬉しそうだね」
「それは……こんなサプライズは嬉しくなります!」
すると。
ローレンス皇太子の頬が少し赤く染まる。
「喜ぶシャーロットを見ると……わたしもとても嬉しい気持ちになるよ」
……!
これはもう胸にズキューンと来る。
そんな風に言われるとドキドキが止まらない。
でもなんというか。
このドキドキを感じると、自分が恋をしていると実感できた。
「街に行くことを思いついて、今日、ローレンスも制服にしたのですか?」
私の問いにローレンス皇太子は「違うよ」と即答し、脚を組むと、私の手を握る。またもやドキドキが加速されてしまう。
「お茶会の時、初めてシャーロットの制服姿を見て……。わたしはみんなのことを帰して、シャーロットと二人きりになりたくなっていた。いつも見慣れているドレスではなく、制服。ただそれだけであんなに気持ちが昂るなんて。自分でも驚いたよ。でもわたしがそんな我がままを言い出したら、シャーロットをガッカリさせてしまう。だからあの時は我慢した。次に二人きりで会う時に。シャーロットに制服で着てもらえばいい、そう思ったんだ」
そ、それはつまり、それだけ私の制服姿をローレンス皇太子は気に入ったということだ。そんなに制服って良いのかしら? その感覚は……私に分からない。いや、そんなことはない。さっきエントランスで初めて見たローレンス皇太子の制服姿には、確かにときめいた。これまで見たことがない装いだし、新鮮に感じている。
「シャーロットが制服でわたしが私服というのも、なんだか釣り合わない気がしてね。それでわたしも制服で会えばいいと思いついた。そうしたらレイモンドが『制服だったら身分がバレないんじゃないっすか? それにシャーロットの馬車に乗れば、皇族って分からないと思いますよ』と言ったんだ。それでなるほどと思い、街へ行くことを決めたわけだよ」
思いがけずローレンス皇太子のレイモンドの真似が上手くて笑ってしまう。でもそうか、レイモンド。ナイスアドバイスだ。
ちなみにレイモンドは最初、制服姿で馬に乗り、街への護衛について行くことも考えたらしい。高校の制服で馬に乗る……想像するだけでシュールだ。馬車に落ち着いてよかった。
そんなことを話しているうちに街へ到着した。
馬車から降りると、まずは本屋へ行き、その後は文具屋に足を運んだ。そこには美しい羽ペン、様々な色のインク、上質なレターセットが売られており、眺めているだけでも楽しい。さらに香油の専門店、トイ・ショップも見て回った。
迷子にならないようにとローレンス皇太子が手をつないでくれて、もう本当にずっとドキドキしっぱなし。
前世での心残りが恋愛経験がないことだったが。現在進行形で思いっきり恋愛を楽しめている。こうやって手をつなぎ、ウィンドウショッピングをしてドキドキする――これこそまさに恋愛だろう。
ヒロインであるリンの登場には緊張したが、今のところは多分、大丈夫だと思う。このまま何事もなく、時が流れてくれることを願いながら、ローレンス皇太子との制服での街の散策を楽しんだ。