表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/41

17:美味しいのだ。仕方ない。

翌日。

学校から戻ると、ご機嫌なベッキーの手で私は制服からドレスへと着替えることになった。


ローレンス皇太子がこれから迎えにくるのだ。婚約者であるローレンス皇太子が。可能な限り、オシャレをしましょうということで、舞踏会へ行くわけでもないのに、行けそうなぐらいドレッシーな装いになった。


チェリーレッドのドレスは、スカート部分にチュールが何層も重ねられ、裾にスパンコールが散りばめられている。身頃には花をかたどった刺繍が施され、ウエストにはシャンパンゴールドのリボンを結わくようになっていた。このリボンはスカートの半分ぐらいの長さがあり、綺麗なドレープを描いている。後ろ姿がとっても可愛い。


当然のようにローレンス皇太子がプレゼントしてくれた、ピンクダイヤモンドのペンダントとイヤリングもつけることに。


やはり舞踏会に行けそうだ。


用意が終わったところで先触れが来て、ローレンス皇太子はもう屋敷の門のところまで来ているという。部屋にやってきた両親に連れられ、エントランスでローレンス皇太子を待つことになった。


「シャーロット、とっても華やかだよ。きっとローレンス皇太子もその姿を見て喜ぶと思うな。こんなにオシャレして待っているのだから。シャーロットがローレンス皇太子に会いたくて、会いたくてたまらなかったって思ってくれるよ」


父親の言葉に私は何も言えない。

このオシャレは決して私の意志ではない。そんな会いたくて、会いたくてなんて思っているわけがなかろう! この婚約が悪役令嬢であるシャーロットにとって、吉とできるのか、凶とでるのか、それが分からないのだから。


何より。

一体これからどこへ行くのか。何を渡されるのか。


不安しかない。


「ローレンス皇太子さま、いらっしゃいました」


エントランスにやってきた馬車を見て、思わず口を開け、ぽかーんとしてしまう。

だって。

絵本や童話でみたような馬車がそこにあるのだ。

白馬がひく馬車はハートのような形をしており、色は真っ白で、装飾は金色。皇太子を示す紋章がバーンと扉を飾っている。前後の護衛の騎士も真っ白な軍服を着ていて……!


レイモンドがいる! 黒がトレードマークなのに。ちゃっかり白の軍服を着ているし!


御者が扉を開き、馬車から降りてきたローレンス皇太子は……。


ひゃぁぁぁ、これは……尊い。

眼福。美しい。

ローレンス皇太子も騎士としての訓練を受けているし、有事の際は軍を率いることになる。でも『ハピラブ』は全年齢版だし、設定で平和な世界になっているから、戦争とか起こることはないのだけど。それでも軍服は用意されていた。その軍服をローレンス皇太子が着ている。


みんなが真っ白の軍服を着ている中。

彼だけが目にも鮮やかなスカイブルーの軍服を着ている。飾りボタンや飾緒、肩章は銀色で白のロングブーツがよくあっていた。


「シャーロット、会いたかったよ」


ローレンス皇太子は、百年ぶりの邂逅という表情で私を見ているが、昨日の今頃も会っていたのですけど。そんな風に思うことで、思わずデレそうになる顔を引き締めた。


いかん。

普通に、ハンサムすぎる。


ローレンス皇太子はそのまま両親に近づき、挨拶をし、遅くならないように帰りますと伝え、私の手をとる。そこで気が付く。これから二人きりで馬車に乗るのだと。両親は、同行するつもりがないのだと!


てっきり両親が同行するのかと思った。私、まだ12歳だし。でも護衛の騎士は十人近くいる。両親がいなくても……問題はなかった。


私は12歳。そしてローレンス皇太子は15歳。

ローレンス皇太子は昨日、紳士の仲間入りをしたが、私はまだまだ子供だ。変なことは起きない。問題ない。そうは思うが緊張はする。中身は人生経験豊富な人間なのに、情けない。でも喪女なので、仕方ないのですよ。


というわけで馬車にローレンス皇太子と横並びで座った。

ゆっくりと馬車が動き出す。

しばらくは窓からこちらへ手を振る両親に、ローレンス皇太子と手を振っていたが、その姿も見えなくなると。


「シャーロット。今日は学校から戻ってから、お茶はした?」


ローレンス皇太子がにこやかに尋ねた。


「いえ、していません」


ドレスに着替えるには相応に時間もかかるし、何よりローレンス皇太子を待たせるわけにはいかない。だから学校から戻るとすぐ着替えだったのだ。


「そう思ったからね。お菓子を用意したよ」


そう言ったローレンス皇太子は、籠を取り出した。そこには焼き菓子、チョコレート菓子、キャンディーなど、見るからに美味しそうなお菓子が見える。


「わあぁぁ」


子供らしい、可愛らしい声が出ていた。

それを見たローレンス皇太子は実に美しく微笑み、私に尋ねる。


「シャーロットはどれを食べたい?」と。

これは……悩む。

だって正直に答えるなら「全部」だからだ。

いくら何でもこれはがめつい。

未来の皇妃とは思えない発言。

そう思い、遠慮がちにキャンディーを指差す。


ピンクと黄色と白のストライプの包みにつつまれたキャンディーは、何味かも分からない。でもすぐ目の前にあり、指でさすには丁度いい場所にあったのだ。


「これかい。いいよ」


そう言われ、手を伸ばそうとすると。

私の手をローレンス皇太子がフワリと掴んだ。


「待って、シャーロット」


優雅にそう言われると、途端にはしたないことをしてしまったのではと、ドキドキしてしまう。すぐに手を離したローレンス皇太子は、キャンディーをとると、籠を自身の横におく。包みを開けると、そこには乳白色のキャンディーが出てきた。


「シャーロット、食べさせてあげるよ。お口を開けて」

「!!」


当然ですが。

「ノー」の選択肢はないので、素直に口を開けると。

ローレンス皇太子が、キャンディーを口に入れてくれる。


「!!」

「どうしたの、シャーロット?」


私は驚いて顔をあげ、ローレンス皇太子を見る。


「キャンディーかと思ったら、ラムネ菓子でした」

「それで驚いたの?」


頷くとローレンス皇太子は、楽しそうにクスクスと笑う。


「ラムネ菓子だとすぐ食べ終わってしまう。次に何を食べたい?」


ならばとマカロンを選ぶ。

それもローレンス皇太子が食べさせてくれる。

招待されたお茶会でも、マカロンはよく登場していたが。

これが絶品で美味しいのだ!

あっという間にフランボワーズ味のマカロンを食べ終えてしまう。


「このチョコレートクッキーも美味しいよ」


それは生地が凹型になっていて、くぼんでいる部分にチョコレートが流し込まれていた。見るからに甘くておいしそうだった。勧められるままに、食べさせてもらう。


予想通り美味しい。


「喉も乾いただろう。冷めているけど、紅茶もあるよ」


水筒を手にしたローレンス皇太子に、紅茶まで飲ませてもらえた。

それをごくごくと飲んでいる時に気づく。

完全に餌付けされている……と。

でも……美味しいのだ。仕方ない。

それにこうやってお菓子を食べさせてもらっていると、変に緊張しないで済む。


もう、いい、餌付け万歳だ。


ということで紅茶の後もいくつかお菓子を食べさせてもらった。


本当はもっと食べたかったが。


「夕食を食べられないと困るからね」とやんわりストップがかかった。同時に、目的地に到着したようだ。


馬車がゆっくりと止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリ作品をご紹介】
●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●終わりから始まるハッピーエンド●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢の決断
『悪役令嬢の決断』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●先手必勝!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●結末を知らないまま転生●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●食に敏感、恋に鈍感●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした
『悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした』

●じれじれの両片想い●
バナークリックORタップで目次ページ
陛下は悪役令嬢をご所望です
『陛下は悪役令嬢をご所望です』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●ピンチの連続!でも負けない!●
バナークリックORタップで目次ページ
ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!
『ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!』

●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●端役過ぎて重要な情報が……●
バナークリックORタップで目次ページ
闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい
『闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい』

●隙間時間でサクサク読める●
バナークリックORタップで目次ページ
愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法
『愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法』

●続編開始●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』もぜひお楽しみください☆

●おじいさんと魔女!?●
バナークリックORタップで目次ページ
森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』

●断罪回避の鍵はお父様!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●頑張れ!悪役令嬢!●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!
『悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』

●笑えるドタバタ劇●
バナークリックORタップで目次ページ
旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~
『旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~』

●もふもふも登場します●
バナークリックORタップで目次ページ
周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~
『 周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』

●表紙は蕗野冬先生●
バナークリックORタップで目次ページ
だから断る
『運命の相手は私ではありません!~だから断る~』はモブ転生した私が溺愛を回避しようとするお話です。

●やがて溺愛に至る迄の物語●
バナークリックORタップで目次ページ
皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜
『皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜』

●のんびりほのぼの●
バナークリックORタップで目次ページ
転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました
『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』でお待ちしています!

●すれ違いからの溺愛エンド●
バナークリックORタップで目次ページ
わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~
『 わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~』

●表紙は蕗野冬先生の描き下ろし●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―
『悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―』

●俺様ツンデレ溺愛系●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される
『婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される 』

●さくっと読めます●
バナークリックORタップで目次ページ
浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~
『完結●浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~』断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾。

●一番星キラリの最新作●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え、続編開始&完結!
『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』もご覧ください☆

●一番星キラリのオススメ●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告したバナー
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ第二弾
『婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』一気読みがおススメです☆

●一番星キラリの新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
身代わりの悪役令嬢~断罪されたいVS.断罪を阻止したい~
『身代わりの悪役令嬢~断罪されたいVS.断罪を阻止したい~』毎日更新中!

●ラストは仰天展開!●
バナークリックORタップで目次ページ
ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??
本編全20話『ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??』

●一番星キラリの断罪終了後シリーズ●
イラストクリックORタップで目次ページ
断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?バナー
本家本元『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』もぜひお楽しみください☆

●一番星キラリの短編●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢を超える悪女の復讐劇~悪役令嬢のメイドに転生~
『完結●悪役令嬢を超える悪女の復讐劇~悪役令嬢のメイドに転生~』おススメです!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ